28 コールガール 3 (終)

 そして。

 そう時間を置かずに近藤さんの精液を飲み干した僕はベッドに引き上げられ.。

「あ……っ……も……ぅっ……無、理で……んんんんっ……ま、こん……」

 どこが軽くなんだと悲鳴を上げたくなるほどに突き上げられてべとべとになるほど身体を舐めつくされ扱かれて、果てた。

 あの程度の口の奉仕でアドバンテージを取れたとは思ってなかったけど、その後の近藤さんはあれで満足できるわけないとばかりに対抗心メラメラの鬼で。自分で新人コールガールのようだと言ったのに。虐められているのか慈しまれてるのかわからなくなるほどにへとへとになった僕は、気持ち良くしたいなんて上から目線だった自分を呪った。

「地団駄踏んでなかったか?」

「……え?」

「松川」

 水を飲ませてもらった後近藤さんに後ろから抱きかかえられるようにベッドに横になっていた僕はいつでも寝れます状態のふらふらで、言ってることがあまり上手に聞き取れなかった。

「三年は模試だからな。さすがに松川といちゃついてられないだろう」

 えーと……桜野さんのこと、かな。なるほど、そういうことか。松川は桜野さんのもとへ行きたくても行けなかったのだ。桜野さんはこれからどんどん時間を大事に使わないといけない時期に入っていく。

「あの二人は桜野さんが卒業してしまえばやりたい放題だろうから今の会えない時間なんて大したことじゃない」

 近藤さんの声はちょっと羨ましそうにも聞こえるけど。でも、会いたいと思う時に会えないというのはきっと辛いんじゃないかな。

「そんな歌もありましたよね……」

 松川と桜野さんは育ち切ってる気もするけど。 

「よくそんな古い歌知ってるな」

「母親がカラオケで懐メロを歌ってるので、付き合わされる僕も覚えてしまいました」

 父親がそういうのが苦手で僕がいつも一緒に行っていた。音楽の先生ではないけど母は歌は上手い方で、BGM代わりに聞きながら宿題をしたりもして。

「お前、補習最終日に帰省するのか?」

 母の歌声もしばらく聞けてないなと思っていると近藤さんが話題を変えた。

「そのつもりです」

 部活もないから特に留まる理由もない。

「一日、延ばせたりするか?」

「向こうに帰るの、ですか……?」

 思いもしなかった提案だった。

「そう」

 耳元でそっと囁かれて。

「学校もあったし二人でゆっくりできてないだろ?」

 それって……デ……。

 月並みな、遊園地の巨大観覧車の映像が過ぎる。……僕はまだ世界的アニメムービースターがシンボルのテーマパークに行ったことがないから。観覧車ってあるのかな。

「ええ、まあ……実家へ帰る急ぎの用があるわけでもないので、延ばすのは大丈夫です」

「じゃあ決まりだな。補習最終日、終わった後俺の部屋に来い」

「わかりま、あっ」

 不意打ちのように首筋を甘噛みされた。

「ちょ、もうこれ以上は……」

 もう絶対無理だ。それにちょっと痛かったんだけど。

「お前にフェラを教え込んだ奴は誰だ」

 へ……?

 今の今まで背中に感じていた近藤さんの甘い気配は消えていて。

「いや、あの……」

 近藤さんの声が硬くて僕は小さく固まってしまった。

「お前に実地で教えた奴がいるんだろう?」

 ……まさか疑われてる?

「違います。誰もいませんよ。誰に教えてもらうっていうんですか」

 僕もつられるように硬い声しか出なくて。振り返ってちゃんと目を見て言えばいいのだろうけど、火に油を注ぐようで向けなかった。

 もしかしてそう思われて、ずっと近藤さんは怒っていたのだろうか。

「……多田さんとか」

「は?」

 何でその名前が。

「あの人お前のこと気に入ってるからな」

「多田さんはありえません」

「なんでだよ」

「え……と……何となく」

 何となくも何も本当にありえないし、多田さんは。多田さんだけじゃなくて誰も。

 いや、駄目だこれじゃ。

 僕はもそもそと近藤さんの腕の中で反転した。

 少し顔を上げて近藤さんをまっすぐ見て。

「とにかく、僕は誰にも教えてもらってないし、少しは……自分の指とアイスで練習しましたけど」

 恥ずかしすぎて言いたくなかったが仕方ない。僕の潔白を証明……にはならないけど、それでも言葉を尽くすしかない。

 近藤さんは少しの間の後、ぷっと小さく吹き出して。

「キスの仕方も知らない奴が、そうだよな。お前は穢れを知らないエロ神の寵児だった。あんなの、わけないか」

 近藤さんがまたわけのわからないことを言ってる。でもその声はいつものもので、目もちゃんと笑っていて。

「お前上手かったんだよ、途中で止めてもらわないとあっさり達きそうだった」

「ありがとうございます……」

 こういうことで褒められるのは何となく素直に喜べない。エロいエロいと何かと言われてるし。そんなつもりはないのに。僕は近藤さんに真摯に向き合いたいだけなのに。

「無理はしなくていい。お前がそう思ってくれた時に、したいことだけを俺にも分けてくれたらそれでいい」

 そう言って、近藤さんは僕を頭ごと胸に抱いた。

「はい」

 近藤さん。

 そんな風に言ってくれるから、僕はずっとあなたと一緒にいたいと思うんです。

 夜が明けるまで、このままでいさせてください。


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