第14話 電子の狐達の宴

『という事で、今回は玉藻おねーちゃんとのコラボ配信です!』



 数日後の夜、私は子狐として配信をしていた。子狐のガワが動く中、その様子を玉藻の立ち絵が静かに見守ってくれていた。


  

『玉藻おねーちゃんはバーチャルカンパニーっていうところで頑張っている大人気ライバーさんなんだけど、なんと私の配信を見てコラボしてほしいと言ってくれたので私からもお願いして今回の配信が実現しました。それじゃあ今回はよろしくね、玉藻おねーちゃん』

『こちらこそよろしく。まさか本当にコラボ配信が出来ると思っていなかったけれど、実現して本当に嬉しいよ。子狐ちゃんも交えて事務所と色々相談もしたからね』

『ほんとに大変だったよね……個人ライバーだからライバー事務所に行くのは初めてだったけど、ほんとに緊張したよ』

『そんな子狐ちゃんも可愛かったよ。まさにちっちゃい子って感じで』

『もー、意地悪言わないでよぉ』

『ふふ、ごめんなさい』



 私の口から子狐と玉藻の声が交互に出てくる。同接の数もコメント欄の盛り上がりもこれまで以上であり、玉藻のファンの人達もたくさん来てくれていたからいつもの子狐の配信よりも賑やかなものになっていた。


 私が九音さんと相談して決めたやり方、それがこの子狐をメインで動かしながら玉藻の立ち絵を用意して声を使い分けて配信をするというものだ。


 元々は事務所の力を借りずに頑張るという気持ちを伝えて始めた子狐の活動だったから、玉藻の立ち絵をコラボという形で使いたいと事務所の社長達に言うのはとても勇気が必要だったけれど、意外にも社長達は快くそれをOKしてくれたし、その後に話をした私と九音さんの交際も怒るどころか喜んでくれた。


 社長達が言うには、私と九音さんがお互いに好意を抱いていたのは誰の目から見ても明らかだったようで、周りからすればどちらからでもいいから早く告白をすればいいと思うほどだったらしい。



『そういえば、玉藻おねーちゃんは他のライバーさんとユニットを組んで活動をしてるんだよね。そのお話もいっぱい聞きたいな』

『ええ、もちろん。そういえば、二人とも子狐ちゃんに会いたいって言っていたし、事務所次第では今度は雪月花で子狐ちゃんとコラボ、なんて事もあり得るかもね?』

『そんな事があり得るの!? わあ、もしそれが出来たらほんとに楽しいだろうなあ……』



 子狐の言葉に賛同するコメントも多く見受けられる。どうやら二人も宣伝してくれた事で、二人のファンの人達もここに来てくれたみたいだ。因みに、二人も他の名前を使って度々コメントをしてくれている。その事を二人のファンが知ったら驚くだろうなあと思った瞬間に玉藻の声でクスクス笑ってしまった。



『玉藻おねーちゃん、どうしたの?』

『ううん、ちょっとね。さて、そろそろ少しコメントを拾いましょうか』

『はーい!』



 そして流れてくるコメントを見ていたその時だった。



「あ……月神さんがコメントをしてくれてる」



 私に元気をくれた月神奏空さんのコメントがあるのを見つけ、嬉しさを感じながらそれを拾う。



『えーと、月神奏空さん。コメントありがとう。二人には私のラジオにも来てみてほしいです、だって』

『ラジオ? わあ、行ってみたい! 玉藻おねーちゃんもそうだよね?』

『ええ、そうね。その時は月神奏空さんも交えて事務所で相談って事になるね』

『うん! 楽しみだなあ』



 月神奏空さんがいる事に気づいたコメント欄が更に盛り上がる。それを見て少し羨ましくなったけれど、それと同時に嬉しくもなった。



「私達ももっと頑張ろう。そしていつかはあの空を見上げて憧れるだけじゃなくなろう」



 私の心の中で子狐と玉藻が同時に頷く。そして思わぬリスナーの登場に沸き立つコメント欄を見ながら私達はリスナー達を楽しませるために三位一体で配信を続けた。

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