第12話 雨の日かふぇ

「ほんとにありましたね……」

「はい。噂通りであれば、ここにはこの世の者とは思えないほどの美形の男神と栗色の髪の可愛らしい女性、そしてお手伝いをしている子供達がいるはずですが、まずは入ってみましょう」

「そうですね」



 桃尾さんの言葉に答えた後、私は『かふぇ・れいん』の扉を開けた。カランカランというドアベルの音が鳴りながらドアが開くと、外観と同じくらいオシャレな内装が目に入り、カウンター席の向こうには噂以上のイケメンな男性と綺麗な女性、そしてカウンター席には二人の子供が座っていた。



「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」

「あ、はい……あの、ここが『かふぇ・れいん』なんですよね?」

「そうですけど……もしかして、誰かにここを紹介してもらいましたか?」

「いえ、ここの噂を聞いたんです。雨の日にしか開かず、押し潰されそうな程の悩みを抱えた人にしか見つけられない不思議なカフェがあると」



 それを聞いて店員さん達は顔を見合わせた。



「私達の事、噂になってるんですね」

「たしかに常連さんもだいぶ多いはずですし、その人達から聞いた人が噂を広めることは十分にあり得る気がします」

「噂で広まったところで来られる相手なんて限られてるのにな」

「ふふ、そうですね。ですが、ここを見つけられたという事は、お二人もお悩みを抱えているのではありませんか?」



 男性の問いかけに対して私達は頷く。そして傘立てに傘を置いた後、私達はカウンター席に座った。



「私の名前は狐崎翔子、バーチャルカンパニーというところでライバーをしながら個人でもライバーをしています」

「私は桃尾九音、狐崎さんのマネージャーをしております」

「ライバーさん、ですか。前も個人で頑張っている人がここにお客さんとして来てくれた事がありますよ」

「そうなんですか?」

「ええ。さて、お悩みの件ですが、よければ聞かせていただけますか?」



 私は桃尾さんと頷きあってから悩みについて話した。店員さん達は私達の話を静かに聞き、話を終えた後に優しい笑顔で頷いた。



「なるほど、個人で行っている活動がどうにも事務所での活動よりも伸び悩んでいるが、それの解決策がわからないということですね」

「はい……本当は子狐も人気のライバーにしたいんですが、中々伸び悩んでいる状況でして、いっそ玉藻の力を借りようとも思ったんですが、それをせずに頑張ろうとしている中なのでそれも出来なくて……」

「たしかにすでに人気の自分の姿があれば色々楽ではありますけど、それにばかり頼りきりになってもしょうがないですからね」

「はい……」



 本当にどうしたらいいのか。それを考えながらメニューをパラパラと捲った。すると、不意にとあるメニューが目に入り、私は思わずその名前を口にしていた。



「しゅーくりーむ……」

「はい。すべてをこちらの夕雨ゆうさんが作っていて、中のくりーむも幾つかある中からお選びいただけるものとなっています。そちらになさいますか?」

「あ、はい。それじゃあ中のクリームは……私はカスタードクリームで、桃尾さんは生クリームですよね?」

「はい、それでお願いします。飲み物は二人ともほっとこーひーでお願いします」

「かしこまりました。では、夕雨さん」

「はい、雨月あまつきさん」



 夕雨さんと雨月さんはお互いを呼びあってから頷くと、作業に取り掛かり始めた。そして作業を始めたのだけど、その速度と手際のよさは驚くほどにテキパキとしていて速いもので、私達はそれを見て驚くしかなかった。



「す、すごい……」

「ここまでの速度で動ける人達がいたとは……」

「二人は一心同体だから、お互いの事を誰よりも理解してるんだよ」

「一心同体……?」

「お二人はかつてそれぞれ別の理由で辛い気持ちを抱えていたんですが、人間の夕雨さんが神様の雨月さんと一度一体化したりここに偶然導かれたりした事でそれらが解消され、今はこうしてお二人がお店を引き継いで同じように辛い気持ちで押し潰されそうになっている方達を救っているんです」

「それでは、君達もそうだったんですか?」



 桃尾さんの問いかけに男の子が頷く。



「俺達も似たようなもんだけど、正確にはここの前店主に連れてこられたんだよ。俺も唯一の身寄りを亡くしてたしな」

「私も女神としての道に悩んでいた際に天雨さんに連れてきていただき、今では見習いとして雨仁あまとさんと頑張っているんです」

「まあ、俺と雨花うかも色々あったわけだ。アンタ達だってライバー活動を続ける中で色々あったんだろ? だったら、少しだけ事務所の力を借りたってバチは当たらないと思うぜ?」

「そう、なのかな……」

「恐らくですが、玉藻さんもその時を待っていると思いますよ。玉藻さんも子狐さんも狐崎さんなのですから」



 その言葉を聞いたその時だった。



『私にも力添えさせて』

『私も頑張りたい!』



 玉藻わたし子狐わたしの声が頭に響く。それが狐崎翔子わたしの答えなんだと直感的に感じた。そして数分後、私達の目の前にお皿に乗せられたしゅーくりーむとホカホカと湯気を上げるほっとこーひーが置かれた。



「しゅーくりーむ、そしてほっとこーひー。お待たせいたしました」

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