ニュージーランドを旅したら従者が現れ生贄にされました
美倭古
第1話 辛い別れ
宇宙に浮かぶ青い星、地球が、ゆっくりと一定の速度で回り続けている。
闇の中に人工的な光がポツポツと浮かび上がるが、その裏側は、力強く熱を放つ太陽の光に照らされ夜を感じさせない。
距離を縮めると、地球が瑠璃色の星と呼ばれるように広大な海が広がっており、その海に浮かぶ島々の姿が現れる。
「あれは何だ?」
無数に並ぶ島の下に巨大な黒い影が見えたのだ。
「海底? 岩? 否、あれは魚? サカナか???」
不思議な気配を放つ影は、無数の島々を背負っているように見え、その中には長い弓なりの国土も含まれる。
そう・・・日本列島である。
とあるビルの上層階に位置するオフィス
忙しなく電話がなり響き、人々が言葉を交わしながら仕事をしている。
窓の外には、晴天が広がり遠くには海が見えると言う絶景のロケーションだが、誰ひとりとして景色に気に留める事なく淡々と業務に励んでいる。
そんな人々が突然何者かに魔術にかけられたかの如く一斉に動きを止めた。
・・・それは数秒程続く。
「結構大きい地震だったな」
一人の若い男性社員が、その場で動きを止めていた皆の気持ちを代弁するかのように言葉を放った。
これを機に他の社員達の口が開き始める。
「また地震」
「・・・最近多いよね」
「長い横揺れだったな」
「大きいのが来るのかと思って身構えちゃった」
静止した空気が再び動き出すと人の作業も流れ出す。
「あ、申し訳ありません。地震がありまして。え~と先程の続きですが・・・」
オフィスは数秒前の騒々しさを取り戻した。
白い建物を後にした一人の青年が背後に気配を感じると、奇跡を願いながら振り返った。
だがそこには人も影も無く、こみ上げる寂しさで喉が詰まると一つ重い溜息を吐きながら、ふと天を見上げた。
早足で流れ去る雲に誰かの姿を重ねると孤独感に襲われ唇を噛む。
「カイ。地震だって。感じた?」
名前を呼ばれた青年、名前は渡真利カイ
18歳
そして、呆然と空を眺めていたカイに声を掛けたのは岩城美月。美月はカイの父親、義海の姉で、カイの叔母である。
カイは、ニュージーランド生まれだが、彼が10歳の時に一家揃って父親の故郷である日本に移り住んだのだ。
「みっちゃん・・・」
声の方へ顔を傾けると首の筋肉が緩む。
「地震? いや、気付かなかった」
「カイ、疲れたでしょ。後は私等に任せてカイは家でユックリして。後でお弁当を持って行くから」
「あ、うん。有難う。でも俺、喪主だし。やっぱ食事会に行った方がいいよね?」
「立派に喪主の仕事は果たしたんだし、じじばばの相手は私達に任せていいよ。どうせお酒飲んで騒ぐだけだから」
美月はそう応えると苦笑いを浮かべる。
「あはは、飲み会じゃ未成年には荷が重いか」
カイは若干困った顔をすると頬を人差し指でさする。
「うんうん。たっちゃんが家まで送ってくれるから、ほらほら」
叔母の優しさに、張り詰めていた緊張の糸が少し解れると肩が楽になった。
「わかった。じゃあそうする。みっちゃん、ありがと」
美月に礼を告げたカイは再び天を見上げると、一筋の白い雲が青空に線を描いていた。
カイの隣に立つ美月も、カイと同様に空を見上げる。
「こんなに可愛い息子を残して・・・ 馬鹿弟」
カイの心を和ませるはずの美月だったが、自分の放った言葉に胸が詰まってしまう。
「みっちゃんだって、愚痴を聞いてくれる相手がいなくなったからさ、あんまりストレス溜めないでよ」
「・・・うんうん」
美月は目を赤くさせながら首を上下に振った。
長身のカイは背中を丸くする美月の肩を抱くと、美月の夫である竜二が待つ車に向って足を進ませる。
「たっちゃん、みっちゃん、ありがとう。後の事、宜しくお願いします」
「おお、気にせずに休め。後で飯のデリバリーすっから」
車の後部座席に座るカイに竜二は振り返るとウィンクを送る。
カイが前に座る二人にもう一度礼を告げ車を降りようとドアに手を置いた瞬間、車のドアが勝手に開き、背の高い金髪の美少年が顔を覗かせた。
「カイ、息災か?」
カイの友人、レイノルド・マクレガーが声を掛けてきたのだ。
レイノルドの両親もニュージーランド人であることから、カイとレイノルドは家族ぐるみで仲が良い。
「よ、レイ。また変な日本語使ってるぞ」
「侍が良く使うセリフだろ?」
「あははは。ほんと侍好きだな」
そう言いながら下車したカイは、腕相撲をするかのように手を突きだすとレイノルドと握手を交し、次に抱き合わってお互いの背を軽く叩く。
「レイ、家に来ても、もう親父の旨い手料理は食えねえぞ ハハハ」
明るく振る舞うカイにレイノルドの胸が苦しくなった。
「カイ、僕の前では無理しない」
「え? ああ・・・ サンキューな。今の所、実感が湧かないっていうか・・・まだ行方不明のままって感じだ」
カイがそう応えると、レイノルドは目を細めた。
気丈に振る舞いながら家へと歩を進めていたカイだが、再び竜二と美月が乗る車に振り返り笑みを浮かべると、大きく手を振った。
「ちくしょー」
竜二は車のハンドルを両手で強く握ると自分の額をハンドルに押し当てた。
「いつかこんな日が来るって覚悟してた・・」
美月は小さく呟くと家の中へと消えていくカイの後ろ姿を目で追った。
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