第17話 生
———俺がまだ幼かった頃・・・つっても、学校に通って他者との共同生活をガキなりにやってた頃。思想家だった親父にこんなことを言われたのを覚えてる。
『いいかい、ギル。生まれてこようと思って生まれてきた人間なんて一人もいないんだ。だから、その奇跡を以て生まれた命はどれも平等に尊くて大切にしなければいけないよ。もちろん、ギル自身の命もだ』
丸眼鏡をかけて痩せ気味で、勤勉だった親父の姿はよく覚えてる。子供の俺を放ってデスクに向かい何か文章を一所懸命書いてたっけな。
親父の社会的立場を知ったのは、俺が高等学校に通うようになってからだった。
あの頃は———いや、今もそう変わらないが、世界のどこかで紛争が絶えず、それが起きるたびに物価がどうとか、経済がどうとか。そんなことばかり連日ニュースになって辟易してたな。
親父はそんな情勢に歯向かうようにして声を上げる、いわゆる反戦思想の持ち主だった。
争いが生む悲壮だとか、人間としてそんなことはするべきではないとか。
そういう、言われなくても分かるようなことを連日個人で運営するブログに投稿したり、同じ思想を持つ人たちの集まりに出かけてシンポジウムを開いたり。
そのたびに、その時貰ってきた反戦論に関する冊子やその界隈では有名な人が書いた本を俺にプレゼントしてくれた。
まぁ、どれも最後までは読まなかったな・・・
そんな親父の元で育った俺も、当然ながらそういう考えが自然と身に付いた。
別に、それを周囲の人間に吹聴する活動家のような事こそしなかったが、自分たちが住む国が戦争に関与して国益がどうのこうのって話が出るたびに、俺は訝しげにそれを聞いてた。
戦争ってのは、長く続けば続くほどそれに関与する国が増える。俺が住んでいたエンラト共和国も例に漏れず、一年くらい前に起きた、資源を巡って生じた隣国の戦争に本格的に参加する表明をした。俺が十七の時だった。
十六から徴兵の対象になり、当然のように青年兵として戦地に向かうことになった。驚くほどスムーズに。
親父はそれについて断固として反対していた。当時国内では長年の反戦活動が実を結んだかのように、反戦活動団体が以外にも幅を利かせていたようだった。
だが、当時の政府は国益をもたらす戦争を大いなる浄益とし、彼らの活動を短期間で一方的に弾圧した。
その中で支部長を務めていた親父、クーテリアン・スーリンもその渦中にいて、彼ら団体に対して大規模な逮捕劇が繰り広げられ、親父たちはまとめて投獄されることになった。
当時の俺にはどうすることも出来なかった。突然、朝早くに紙を片手に持った警官が家に押し入って来て、まだ朝食を食べていた親父を一緒に食事をしていた俺の目の前で強引に連れて行った。テーブルには親父の歯形が残ったトーストが寂しそうに置き去りになって——。
親父の理念は理解しているし、戦争なんて馬鹿馬鹿しいものだと、やめるべきだと。頭では分かっていた。だが、ここで一人声を上げて自ら犠牲になる必要もないということも理解している。
結局、俺は戦地に駆り出されることになった。
初めての戦闘は協定国で西側諸国に含まれるシュクラメルムの国境防衛だった。あそこは年中鬱蒼としていて、湿地帯が広範囲に広がっている。そんな緑に隠れスコールを浴びながら、侵入してくる敵兵を一方的に殺す。そんな戦闘。
まだ扱い慣れない機銃を何とか制御して、皆で得た勝利は不思議と気分を高揚させた。戦地で敵を殺せば、誰もが平等に英雄になれた。
作戦中は緊張もあって反戦思想のことは隅に置いていたが、それが終わり軍拠点に戻ると、途端に強烈な吐き気に襲われる。
仲間からは『死体を見て気持ち悪くなったんだろ』とからかわれたが、口が裂けても例の思想のせいで催したなど言えるわけもない。
——何はどうあれ、結果として俺はそこで初めて人を殺した。
時折、獄中にいる親父から手紙が届いた。一見するとまるで当たり障りのない、といったような内容。また、俺が徴兵されていることを知っている彼は、自分の子供が自身が唱える崇高な思想に反したことをしていないかが気がかりなようだった。もちろん多少は俺の心配もしてくれる。
『ギル、今日は久々に刑務作業が簡単に終わったんだ。だから、こうして手紙を書く余裕がある。父さんたちは相変わらず、刑務所に来る軍人さんたちに国家の為の務めの話や戦争がもたらす潤いについての有難い教育を受けている。今までそれに反することばかりを表明していたが、彼らの言うことにも一理あると考えさせられるよ。
ギル、お前はどうだ。戦地に出て、危険な目には遭っていないだろうな?父さんが帰ってきたら、また元気な姿を見せてくれよ。お前は母さんが残した父さんにとっての唯一の宝物なんだ。
それと分かっているとは思うが、戦地に出ても、人としての美徳を忘れてはいけないよ。お前は大切なことは既に分かっていると思う。だからその芯に従って生きなさい——』
あの親父にしてはいやに婉曲な表現の文面。恐らく検閲の問題で思ったことをそのまま書けないが故の文章なのだろう。
だが、あの親父の言いたいことはあのようなぼかした文面でも分かるというものだ。
しかし、返信するこちら側も検閲を気にして直接的表現を避けて手紙をしたためないといけない。
『うん、大丈夫。父さんの言いたいことは分かってる。父さんこそ早く出てきて、顔を見せてよ——』
そんな些細なやり取りが半年に数回。その間も俺たちは次々に作戦に参加して敵を屠る。戻ってきたらまた親父の手紙を読んで、人を殺してないと報告をして返答。
最初はまだよかったが、それを重ねるうちに書く文字が自分でも分かるほどいびつな物になっていた。
『分かってる』『今回の作戦は補給係だったから戦場には行かずに済んだ』『誰も死んでない』『殺し損ねた』
それに関する「嘘」を綴る時だけ急に動悸がして、あの時自分に殺された敵兵の顔が呪いのように脳裏に過っては、途端に気持ちが悪くなりトイレに駆け込んだ。
親父はまだ解放されず、未だに清廉潔白だと思っている息子の手紙を真に受けて、また彼も己の思想を綴る手紙を息子へと送る。
それが一年ほど続いた頃、俺は気が狂いそうになっていた。
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物事を俯瞰し、常に冷静を保つ。雑念を取り払い、目の前の出来事にだけ集中する。
戦場で精神論を語る教官の教えは俺に冷静さを取り戻してくれた。皮肉なことに、頭を空っぽにして、遠くに見える敵の頭を打ち抜く時だけ、俺は正気になれた。
これまで何か物事に熱中して取り組んだ事はなかった。だが、こと戦場で敵の命を奪うということに関しては熱中できた。
何か、自分の中で欠けたものを埋めるかのように。
客観的に見ても、あの時の俺は間違いなく部隊のエースとして活躍していたし、倒した敵の数も群を抜いていた。上官も成果を伸ばす俺を褒めてくれたし、新しい装備を支給してくれたりもした。悪い気はしなかった。
俺が皆を引っ張って、皆も士気を上げて戦う。俺たち青年が集った分隊は幸運か実力か、この一年弱の活動で誰も死者を出すことなく、敵の勢いを削り続けた。
それからまた時間が経過し、徴兵によるいち青年兵団である俺たちの実力を評価した上官は、本隊到着までに敵陣の占拠、安全地点確保を目標とした電撃降下作戦を立案した。
初めての大体的な作戦への参加に俺たち分隊の士気はうなぎ登りだった。
ここで活躍すれば、もっと上に行ける。そんな誇らしい未来を胸に抱いて開始した降下作戦の結果は散々なものだった。
こちらの行動は敵軍に既に漏れていて、降下地点には前もって地対空兵器が用意されており、暗く雨の降る上空からパラシュートを展開させ降下した俺たちは、当てやすい的のように次々とそれの餌食となった。総勢三十名余りいた隊員は降下完了時には既に半分以上が死に、幸運にも生き残った俺を含めたその他数名も死を悟った。
サーチライトといくつもの銃口がこちらを向き、敵兵たちは俺たちを捕虜にするかどうか話し合っている。
が、そんな折。隣でしゃがんでいた仲間の一人が突然前に飛び出し、敵兵に掴みかかった。急な動きに不意を突かれた敵兵たちは対応できず、飛び出した彼は持っていた小銃の銃口をそのまま敵の首に押し当て、引き金を引いた。
それと同時に、彼も近くにいた敵兵によって射抜かれ、雨水がたまった地面に鈍い音を立てながら倒れ込んだ。
ほんの数秒。瞬きを二回くらいする間に起きた出来事。ぬかるんだ地面に打ち付ける雨音以外聞こえない沈黙の中、先ほどの銃声がまだ耳の中で木霊しているようだった。
目の前の雨水に仲間の血が混ざる様子を尻餅をつき、俺は固まった表情のまま見ていることしか出来なかった。
またそれが起因して彼らを激昂させてしまったようで、もうこちらに容赦する気はないようだった。俺たちは持ち寄っていた銃を反射的に構える暇もなく自然と荒くなる呼吸を止めることすら出来ず、それから鉛玉が発射されるのを待つしかなかった。
最後だと思った刹那、俺は咄嗟に目を瞑り、下を向いた。
———だが次の瞬間、後々来る予定だった援軍が上空から駆けつけた。寸前の所で間に合った彼らは威嚇射撃を浴びせ、目の前にいた敵兵たちは散り散りになった。
その隙をついて、俺たちは命からがら逃げ延びることが出来た。
結果的に俺たちは始めて喪失を味わい、死を間近に感じた。援軍がもう少しでも遅れていたら死んでいただろう。
そして勇敢にも飛び出したがあっけなく殺され、水溜りを赤く染めた彼の姿は記憶に深く刻みこまれた。だが皮肉にも、助かってしまったが故に俺はその後、後遺症に似たようなものを背負うことになった。
あのような経験を経てなお、俺たちは出撃命令を拒むことは出来なかった。だが以前のような威勢は嘘のように消え去り、死の恐怖はしつこいほどついて回る。戦争が終わるまでの辛抱だと互いに言い聞かせていたが、あの一件以来、自分を含む生き残った彼らの戦闘に対する意欲は明らかに落ち込んでいた。
そんな時、また親父から手紙が届いた。どうやら体調が優れないらしく、文章は少なかった。最近の手紙は検閲を潜り抜けられる程度の簡単なアナグラムを用いた暗号めいた文章のものが多くなっていた。この方が、読みづらいが伝えたいことを正直に伝えられるからだと、少し前から使いだした手法だった。
その中に、紐解くと『命は尊いものだから』という意味になる言葉があった。
当時の俺にして思えば、親父は反戦とか以前に、このことをずっと俺が幼い頃から語ってきていた。
これまで奪っていた側だった俺が初めて身近な人の死を経験して、その言葉を改めて見た時に喉につかえていた骨が取れるかのような感触を味わった。
あぁ、親父がずっと言っていたことは、「こういうこと」だったんだ。
月並みな言葉だとは思う。今にして思えば、こういうことをしきりに言うようになったのは俺が物心がつく頃に世を去った母親の事がきっかけだったのかもしれない。
自然とその一文から目が離せなくなり、身体のどこかに染みこむようにして沈んでいく。
その時——初めて親父の言葉を見て、自然と涙がこぼれた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
《————フルロード》
身に纏った装甲はその声を感知し、動核が動き出す。全身に熱を感じ、呼吸に僅かな窮屈さを感じる。
動核活性化状態の脳負荷は、彼の脳裏に在りし日の残像を過らせた。既に過ぎ去った日の事。忘れたと思い込んでいた記憶を無理やり掘り起こされるような感覚を味わい、彼は吐き気にも似た嫌悪感に苛立つ。
《・・・何でこんなこと思い出すんだろうな・・・親父が言ってた事と正反対な事をまたやってる俺への当てつけか・・・?》
泥のような記憶。あの後、自身が何を思ったか突発的に起こした行動で、全てを台無しにしてしまった。今更悔やんだ所で歴史は変わらない。
しかし、あの行動を起こさなかったら自分は自国が抱える軍にずっと従属したままで、父親の死に目に会うこともなかったかもしれない。
《っ・・・・・とことんクソみてぇな気分だ——》
全身に付き纏うヘドロのような過去の憐憫を強引に振り払うようにボディを動かし、量変式装甲の順応率を確かめる。
『血中酸素飽和度九十八パーセント』『海馬中枢接続強度百パーセント』
——『ニューロンリンクシステム活性』
《・・・・・・ぐっ——》
文字として視認は出来ないが、そのような機械的なメッセージを感覚的に受動する。
それと同時に脳内に強烈なフラッシュバンが炸裂したかのような衝撃を受け、装甲の中で縮こまっている体が反射的に震えた。
だが、それは体が〝これ〟に最大限適応しようとしているサインである。
最初に周囲に行った攻撃は、まだ最適化が済んでいなかった段階で行った肩慣らしのようなものだった。
デタラメな範囲攻撃も、ビームを鞭状に展開し乱雑に人間を切り裂いた滅茶苦茶な攻撃もその所為。
本格的に始動させた装甲本来の力は、開発に携わった者たちですら半ば信じられないというような、ターヴォルの兵器技術開発部門と外骨格装甲の有志開発チームの共同で開発した新技術が使われている。
装着者本人より二回りほど大きく設計された外骨格装甲。その角張った装甲の一部位である、右腕装甲全体の表面が彼の意思を以て振動し砂粒同様に細かくなり、やがて霧となり空気中に舞うように解き放たれる。
まるで魚群のようにして動くそれの数は徐々に多くなり、腕部を覆っていた物が自在に形を変化させ、腕部装甲の全体は砲身へと変貌した。
《さて、まずは・・・アレからか・・・?》
それを向けた先———東側。
遠くには、緊張地の信仰の証である神殿があった。遠距離からでもはっきりと視認出来るほど三角形の構造物が複雑に折り重なったような奇怪で巨大な建造物。
周囲の全てを圧倒するかの如き威容を放つそのモニュメント一帯には、バラックが動物の群れのように密集している。まるでその範囲で城下町を形成しているかのようだった。
して、それを破壊する意味については彼も事前に聞き、心得ていた。
だが彼からしてみれば、この地で年中小競り合いをしている人間たちの事情など毛ほども興味は無かった。
発射を待つ腕を上げたまま、彼は依然として周囲が静寂に包まれていることを知覚する。
これだけ派手な事をして、未だ反撃の一つもない。初撃に巻き込まれずに済んだ人間たちは恐らく後方、それこそ神殿エリアに避難して動向を伺っているのだろう。
《・・・妙だな。ここの連中は日がな一日中戦い続ける戦闘狂じゃなかったのか》
些か腑に落ちない部分はあるが、それを今気にしても仕方がない。邪魔が入らないのであれば、さっさとやることをやって帰還すればいい。
《・・・・・・・》
血中酸素を燃料にして砲身が徐々に熱を帯び、より強い純白の輝きを放つ。いよいよその口径から初撃が撃ち出されようとしていたその瞬間——
《——————っ!!》
脳と直結した外部センサーが捉えたその飛来物。突如、マッハで突っ込んで来たそれによって思わずギルバルトは体を逸らした。空気を破壊するかのような衝撃と音が襲い、耐えきれず僅かに体勢を崩す。
《————っ、な・・・!?》
刹那、見計らったかのようなタイミングで再び同様の物体が大気を裂く衝撃と共にギルバルトめがけて飛んで来る。
一瞬見えたそれの発射地点は、この主戦場を円形に取り囲むようにして連なる山脈の頂上付近。それまであまり気にしていなかったが、その山頂一帯は岩肌を覆い隠すようにして灰色の防護壁で覆われた要塞と化している。
だがそのような今更な観察に意味はなく、姿勢を崩していた彼の腰辺りに二撃目は容赦なく直撃する。
《ぐっ・・・!》
明確な痛みが全身を駆け巡る。それが当たった箇所は抉り取られるように大きく破損したが、装甲の厚みに助けられ肉体部分までの損傷は免れた。
間髪入れず続いて三発目。未知の敵を確実に屠る為に用意されたであろう砲台から射出される野球ボール程度の音速弾は、目に見えて分かるほどの損傷を装甲に与え続けた。
腕部、脚部———センサー反射神経を頼りに身体を逸らして動核があるボディ中心部への被弾は辛うじて避けるが、発射されるたびに別の部位への被弾を許してしまう。
砲身へと変化していた腕部は二の腕から粉々になり、飛び散った破片が星屑のように地面を転がる。
《ぬうっ・・・!!》
頭に激痛が走る。システムによって脳感覚と直結している装甲の破損はそれだけで脳にダメージを与え、意識が散り散りになるようだった。
しかし、このまま一方的になぶり殺される趣味はない。
『ギル、お前・・・人を殺していたのか・・・?』
《ぐうぅ・・・・・・!!》
砕けた部位を再生させるために全身の感覚を研ぎ澄ます。すると、その神経を逆なでるようにして過去の残響がまた脳裏に木霊した。失意と、堪えきれないような怒りが混ざった声音。
《俺はっ・・・・・・・・・・・・・・あ・・・ぁ》
『ち、ちが・・・父さん!!これは・・・!』
《———ち、違わない・・・・・・俺は・・・ぁ・》
歯を食いしばる。どれだけ攻撃を受けようと。どれだけ奴ら自慢の装甲が砂のように簡単に吹き飛ぼうとも。
相次ぐ砲撃によって脚部は完全に吹き飛び、自分で立つことすら困難になっていた。
『うん、アタシも。いつか戦争のない世界になることを祈ってる————』
とある女性の言葉。自分にとって初めての理解者であり、唯一の心残り。
《俺は・・・ぁ・・・あぁあああ!!!!!》
『ニューロンリンク再度活性。装甲再形成、開始———』
センサーが「このままだと死ぬぞ」と、叫ぶような警鐘を鳴らし続けていた。間もなく次が来ると。こと切れた人形のように地に伏したまま、眼の代わりになる外部カメラをそれが来るであろう方角に向けると、遠くで凶弾を放つそれから直接的な死が宣告されようとしていた。
このまま動けず倒れていたらボディへの直撃は避けられない。
警告音が煩い。頭が痛い。体が熱い。呼吸が荒い。死ぬ。
・・・・・・・・死ぬ・・・?
《・・・・・・・ぅう・・・・あぁ——————!》
もがいた。自分でも心底情けない。燃え尽き症候群のような性だと疑わなかったが、この期に及んで生を求めようとしてしまう。
辛うじて形を保っていた片脚を伸ばし付近の出っ張り、小柄な岩に近づける。それを踏み台にするように体を移動させようと残った力を全て賭け、蹴った。
もう一度、立ち上がるチャンスを——————
———最後の弾が着弾した時には、その一帯は強力な爆弾が吹き飛ばしたかのように噴火の如き土煙が上がる。その砂塵の中では目標が倒れたのかすら判別は付かない。
「・・・どうなった?最後の弾は当たったのか?」
東側。山頂を飾る要塞から並び立つ電磁砲を背に双眼鏡を覗く者たちは、その様子を見て固唾を吞んでいた。先制攻撃として可能な範囲でやれることを出し切ったばかりの彼らはこれで目標を制圧したことを願うばかりだった。
だが、そんな彼らの願いは砂塵の中で煌めくプラズマにも似た神秘的な光に打ち消される。
子供が片付け忘れたおもちゃのように、周囲に無造作に散らばっていた装甲の破片全てが一斉に形を崩し粒子となった。流体物質のようにうねりながら動くそれらは、全てボロボロになっていた装甲を纏ったギルバルトの元に集まり、破損していた各部位の装甲を流れるように形成していく。
————彼の意思に応えるように密集し、形を紡ぐ。
これが「量変式」。量子で編まれた衣服を自在に操り、戦場を踏破する構築形式。
「お、おい、再生してるぞ・・・!」
風によって取り払われた砂塵から見えるその光景。遠くからその常軌を逸した光景を見ていた砲手たちは皆一様に目を奪われた。
もはや芸術的な美しさすら感じる、物質を織り成す一つ一つが礫のように舞い、人の形として定着していく。
《うぅっ・・・・・ふぅ——————。・・・俺は、まだ・・・死ねない———》
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