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 二日間の自宅謹慎と反省文の提出。それがアネゴに下された処分だった。

 想定外に軽い処分は、示しがつかないから形式的に下された、という印象を拭えなかった。

 卒業した後で知ることになるのだが、翌年度、桜木先生は転勤になる。転勤先は、過疎の町にある廃校寸前の高校だ。

 オトナの事情など知る由もないが、先生は身を挺してアネゴをまもったのだ。

 当日、一限目をサボった二年生がいた。お気に入りの、校舎の陰。ヤマボウシの木々に遮られて、どこからも死角になる場所。そこで彼は早弁を楽しんだ。ただし、その場所の近くには校長室の窓があった。

 二年生は、室内から漏れ聞こえるやり取りに、ご飯粒を噴き出しそうになった。

 卒業後、ボクが伝え聞いた話では、あの日、校長室でこんな寸劇が展開していた──


校長「金子 流美の退学はもう決まったことだ。今さら変更はないよ」

桜木「生徒の未来をまもることが、教師の使命と考えます」

校長「高認(高等学校卒業程度認定試験)があるだろう。あの子の学力ならだいじょうぶ。何も変わらんじゃないか」

桜木「変わりますよ。母校に見捨てられたという心の傷が残ります。それに、子供たちはオトナのすることを見ています」

校長「誰に向かってモノを言っている」

桜木「四年前、グラウンド拡張工事に関わる会計について、不明朗であるとの指摘がなされました。うやむやで収まりましたが、ワタシは内部調査委員の一人でした。当時の校長はアナタの伯父さま。関係業者は奥さまのご実家」

校長「何が言いたい?」

桜木「表に出なかった資料を持っています」

校長「……脅迫か。まるでヤクザだな」

桜木「ヤクザにも悪魔にもなります、子供たちをまもるためなら。ワタシは独りモンでしてね。あの子らはみんな、自分の子供です」

校長「──なるほどな。キミが出世しないわけだ」

桜木「お褒めの言葉と受け取ります」

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