P.20 アネゴ
二学期開始早々、わがA高は不穏な空気に包まれた。
駅前乱闘事件はテレビのワイドショーでも取り上げられた。高校生と教育実習生が街のゴロツキに絡まれ、返り討ちにしてしまったのだから。
舞島先生の実習は中止。アネゴにも処分が下されそうだ。ケンが暴行被害を訴えたからだ。たしかに先に手を出したのはこちらだが。
女子高生に暴行されただって。情けねえ。それでもゴロツキかよ。
ボクはうんざりしていた。
朝のホームルーム。担任の桜木先生はいつもの快男児ぶりが影をひそめ、グズグズと要領を得ない話をした。詳細に触れたくないのだろう。が、報道やSNSでの拡散、それにウワサがウワサを呼ぶ。この二日で、生徒たちはもうすべて知っている。
舞島先生は教師になれないかもしれない。アネゴは退学になるかもしれない。そんなことが始業前にささやかれていた。
アネゴの退学はあり得る。これまで積み上がった素行不良のブロックは崩れる寸前だ。そこへ暴力沙汰と、校則違反の20時以降のバイト。しかも、バイト先は限りなくブラックに近い。
アネゴは蝋のような顔で机を見つめていた。
「金子、先生と一緒に来なさい」中途半端な話の後で桜木先生は言った。
退学を言い渡される? 教室内に緊張が
アネゴが椅子を引いたとき、突然立ち上がった生徒がいた。
「わわわ、ワタシ、金子さんは悪くないと、思います」林という、まるで目立たない女子。対人恐怖症みたいなところがあって、話しかけられると目を逸らしてオドオドするし、立って話す時はいつも赤面する子だ。
その林が起立し、真っ赤になりながらも顔を上げて、先生にまっすぐ視線を向けている。自分から発言している。
みんなの目が林に集中した。
「わわ、ワタシ、金子さんに助けてもらいました。何度もなんどもK高の人たちにおカネ取られてたんです。た、たまたま金子さんが通りかかって、やめろって」いつもの消え入りそうな声じゃない。はっきりと言うべき言葉を押し出している。「それきりK高の人たちはワタシに近づかなくなりました。か、金子さんは悪い、って言われてるけど、ちち、違うと思います。金子さんは悪いフリしてるだけです。こんなワタシを、友だちだからって──」感極まって泣き出した。
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