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「光治……」アネゴは茫然とした。
「何だい、アンタは」ウインドウが全開になり、オバサンが顔を出した。
「金子の同級生です」
「ふうん」浅黒い顔から放たれる鋭利な眼光が、上から下までボクを舐める。
「なに言ってんだよ、関係ないくせに。引っ込んでろ!」アネゴは気色ばむ。
「黙ってな」低い声で一喝する。
それだけで、あのアネゴが押し黙った。
「流美、帰りな。代わりができたんだ。後はこの坊やと話をするから」
「コイツ、関係ないですよ。じゃあ、ワタシ今夜出ます」
オバサンは猪首を巡らせてアネゴを睨んだ。「今日から三日休みをやる。代わりはこの坊やだ。二度言わせるんじゃないよ。帰って母親の看病してな」
蒼ざめた顔で、アネゴはボクを見る。何てことするんだ、と表情が語っている。それでも自転車のスタンドを蹴り上げ、乗って駐車場を後にした。
「なあに、簡単な仕事さ。坊やにもできる。ちゃんとお給料だってあげるよ」
「給料は金子の借金から引いてください」
オバサンはちょっと驚いた顔をして、それから笑った。「そうか。流美に惚れてるんか」
「彼女は級友です」ボクは毅然と応える。「ボクには、別に、ガールフレンドが居ます」
「おもしろい子だね」浅黒い首の根元には、大ぶりのダイヤが鈍く光る。
遠くで蝉が鳴いていた。
*
夕方、カップ麺で腹ごしらえをし、辰則の家で一緒に勉強する、と言い置き家を出る。
「あら、そう」オフクロは怪訝な顔をした。「たまに環境を変えるのもいいか」
西陽の射すホームで電車を待ち、どっと降車する通勤者の群とは逆に、県庁のある隣市へ向かった。
辰則にアリバイを頼んだ。勝手にやってろ、とヤツは怒鳴った。ボクが雪ちゃんと夜デートを
雪ちゃんはひどく心配した。とてもヤバくて、危険が伴うのではないかと。
ボクもそう思う。でも、誰にも相談できないじゃないか。アネゴが隠している事が表沙汰になると、厄介なことになる。18歳未満のアルバイトは法律上22時まで可能だが、ウチの学校は20時までと規則にあるからだ。
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