静かすぎる夜

三日後。

ユカは警察のサイレンで目を覚ました。


窓の外には、青白いライトが点滅していた。

203号室――佐伯の部屋の前に、黄色い規制線が張られているのが見えた。


スマホを手に取り、ニュースアプリを開く。


【速報】杉並区の集合住宅で男性死亡

本日未明、杉並区内のマンションで男性が死亡しているのが発見された。遺体には複数の裂傷があり、外部からの侵入の形跡はなし。警察は事件と事故の両面で捜査を進めている。


「え……うそでしょ」


動悸が激しくなる。

夜中に壁越しに声をかけてきた、あの佐伯が――死んだ?


部屋から出ると、隣人や管理人が集まっていた。

顔なじみの主婦が、小声で話していた。


「変な事件よね。部屋の中、全部閉まってたんですって。なのに…」


「なのに、全身を切り裂かれたみたいな状態でしょ? 自殺なわけないじゃない」


「警察も変よ。“鍵がかかっていたことを重要視してます”とか言って…」


ユカは震えながら、自室へ戻った。


ノートが、テーブルの上に開かれていた。


――最後のページに、新たな記録が増えていた。


23:55 彼が気づいた

23:56 彼は逃げようとした

23:58 “目”が現れた

23:59 彼の声が消えた

0:00 静寂


「私…閉じたはずよね…このノート」


ユカは思い出す。数時間前、間違いなくノートを棚にしまい、鍵をかけた。

誰も入れるはずがない。


けれど、確かに――“何者か”が、この記録を書き足していた。


彼女は思わず窓のカーテンを開いた。

その瞬間、向かいの建物の影から、ゆっくりとカメラのフラッシュが光った。


“見られている”。


だが――誰に?

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