第29話


私はシャロンの家に急いで帰った。


「まぁ、おかえりなさい、レムス。その手に持っているのは………」


何も言わず戸を開けて家に入ってきた私を見て、シャロンは目を丸くした。

が、私はシャロンを抱きしめて、その唇を激しく求めた。

リュートは手に持ったままだったが、金貨の袋は床に捨てた。


初めは戸惑っていたようだったシャロンも、私に応え始めた。

私は息つぎも兼ねて一旦唇を離し、シャロンの後ろのテーブルにリュートを置いた。


「………レムス、どうしたの?何かあった?ライリーに何を言われたの?」


私はシャロンの問いに頭を振って、彼女を責め始めた。


「ちょっと待って。まだ明るいわ。誰かが来たら………」


シャロンは少し抵抗したが、私は彼女を欲しがった。

やがて諦めたのか、シャロンは髪を留めていた杖を外すと、振った。

鎧戸が降り、窓が閉まり、戸に鍵がかけられる。


私はシャロンをテーブルの上に乗せた。

リュートのすぐ横で、私達は愛し合った。







「………で?そろそろ話してくれても良いんじゃない?」


私の頭を胸元で抱きかかえ、シャロンはそう言った。

私はシャロンの腰に回していた手でシャロンを抱きしめ、その胸に顔を埋める。

シャロンは小さく息を吐いて、それでも私の頭を撫でてくれた。


「………嫉妬したんだよ。君達の仲の良さに」


私達は裸のまま抱き合い、ベッドで横になっていた。

シャロンが小さく笑った。


「なにを聞いたのか知らないけれど、私にとってライリーは家族なの。ライリーの恋人だって知ってるわ」

「………彼に恋人が?」

「えぇ。もうすぐ結婚するのよ」

「そうか………ねぇ、シャロン。君には酷な申し出だとは思うけれど、できれば、ぃや、もう二度とライリーと話して欲しくないんだ」

「え?」


シャロンが私の髪を触っていた手を止めた。


「彼が君の家族だという事は分かった。でも、お願いだ。ライリーとは縁を切ると言って欲しい」


シャロンが体を離し、私を見た。

困惑しているのが見て取れた。


「君は覚えていないだろうか?私が崖から落ちた時、金貨を持っていたという話」

「覚えているわよ。随分な大金を持っていたって。でもそんなもの、何処にもなかったって教えたわよね?」

「あったんだ。金貨が入った革袋は。ライリーが持っていた。彼が私の懐から盗んでいたんだよ」


シャロンの目が大きく開いた。


「………ぅそ……」

「嘘じゃない。テーブルの上に置いた革袋がその証拠だ。私をここから動けなくする為に盗んだ、と言っていたが、本当かどうか分かったものじゃない」

「あなたを引き止める為………そう」


シャロンは小さく息を吐いた。

まるで全てを察したかのように。


「レムス、ライリーのした事は良い事ではないわ。決して、ね。あなたが怒るのも無理はない。でも、その所為であなたとこうして愛し合えるようになったのだから、私はライリーのした事を責められないわ」

「それは………でも、それとこれとは別問題だ。彼が私達のキューピッドになった事と私の金貨を盗んだ事はね」


何としてもライリーに会って欲しくない。

彼の話を聞いて欲しくない。

だがシャロンは微笑んで、私をなだめる様に私の額にキスした。


「レムス、その話は後にしましょう。今、とても幸せな気分なの」

「………分かったよ、シャロン」


私はシャロンを抱き寄せた。

シャロンはまた私の髪をいじり始める。


「ねぇ、レムス………」

「……ん?」


心地よい眠りに引き寄せられそうになっていた私は、シャロンの声に意識を戻した。


「帰って来た時、手に持っていたのって………リュート、よね?」

「あぁ、そう………ライリーがくれた」

「やっぱり?!そうじゃないかと思っていたの」


シャロンの声が弾む。

こんな事になると思っていたんだ………


私はライリーの株が上がったような気がして面白くなかった。

こんな事なら革袋をそっくりそのまま置いて来るのだった。

そうすればリュートは彼から買ったのだ、と言えたのに。

あの時は一刻も早くあの場を離れたかった。


きっとこの話から、ライリーとは縁を切れないと言いだすのだろう。

本当は良い人なのよ、とでも言うつもりなのだ。

だが、シャロンは私の予想とは違う事を口にした。


「ねぇ、レムス、お願い。少しで良いから弾いてみてくれない?」

「え?」


私は顔を上げた。


「私、あなたの歌声を聞きたいわ」


シャロンは期待に目を輝かせている。

私は己の邪推を恥じた。

なんて優しい人なのだろう。

私の気持ちを推し量ってくれている。


「もちろんだよ、シャロン。君の為に歌おう」


私はシャロンにキスをして起き上がった。

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