第一部 救われない魂たち
新婚夫婦
第一部 救われない魂たち
一、ずっとこのままで
「ただいま、ララ」と、ララ・・・こと、クラリスの家の門をたたく音がした。
鍵の開く音がして、カチャリ・・・として、新妻・ララの夫・フラウが仕事から帰って来た。
フラウは、占星術師として、研究所で星占いの研究をしている。
イブハール歴2035年のことである。
ララとフラウは抱き合い、その後、離れ、居間に入った。
「今日も、研究、お疲れ様!」と、ララがエプロン姿で言う。
「夕食、できてるわよ!」
「ありがとう、ララ」と、フラウ。
フラウは20歳、ララは17歳。新婚ほやほやだ。ララは、16歳で普通の学校を卒業した。フラウは、魔法の勉学の道を進め、そのまま研究職に就職した。
星の動きから天気を予測したり、星の放つ波動や光から、電力として活用できないか、などの研究をしている。
「じゃあ、今日も、主のめぐみに感謝して・・・」と、フラウが言って、二人でお祈りをして、夕食を食べ始めた。
「ララの作るキッシュはおいしいなあ」と、フラウが喜んで言う。
「ありがとう、フラウ」と、ララが微笑む。
フラウとクラリスは、幼馴染だ。
父親同士に交流があり、自然と幼少期より仲良くなった。
フラウは穏やかな性格だった。研究仲間もたくさんいて、よく家に連れてきていた。
ある日、仕事がオフの日、二人は連れだって、マグノリア帝国の首都の我が家から、田舎へ馬車を走らせ、天体観測を楽しんだ。
「別に、ガレオス(マグノリア帝国の首都)からも星は見えるけど、ここは、研究でもよく来る場所なんだ、」と、フラウは言った。フラウはたまに、泊まり込みで仕事に行ったりしていた。そういうときに、こういう場所へ来ていたのかもしれない。
フラウは、なにかと、仕事の話をクラリスにしたがった。そして、妻に理解を求めた。
草原で、天体望遠鏡を構え、フラウが、ララに、
「ほら、覗いてごらん、ララ」と優しく言った。
クラリスが、そっと小さなレンズからのぞく。フラウが焦点の合わせた、赤い星が、まざまざと見えた。
「アルデバランっていうんだ。他に、青い星もあるよ」と、フラウ。
「素敵だわ、フラウ」と、ララ。
「ミディにも、見せてあげたいな・・・」と、フラウがふいに言った。
”ミディ“というのは、ミディアス、フラウの親戚の年の離れた甥っ子だった。確か、まだ7歳だったはずだ。生まれつきの持病で、車いすの少年だった。
「ミディアス君、元気にしてるって?」と、ララがレンズから目を離して言う。
「うん、この前、メルバーンから手紙が来てね!ミディも、足のマヒ、ちょっとはとけてきたらしいんだ。リハビリがきいてきてね!ただ、お医者さんいわく、成人しても、数歩歩くぐらいが関の山だろう、と言われているらしい・・・姉がこっそり教えてくれた」と、フラウが沈んだ顔で言う。
「そう、それはつらいわね・・・」と、ララ。
クラリスも、ミディ君の病状については聞いていた。生まれてから間もない幼少期の高熱のせいで、両足がマヒしてしまったのだ。
「ほら、ララ、これがベラトリックス」と、フラウ。
星の研究成果を見せたがっているフラウは、まるで子供のようだ、とララが思って、くすっと笑った。
「僕が研究しているのがこの二つの星でね!特に、この二つの星が、波動がすごくて、どうにかして動力源として活用できないか、僕らチームも試行錯誤しているんだ」と、フラウ。
「立派なお仕事だわ」と、ララがにっこりとして言う。
「ララ、もし、将来、僕らに子供が生まれたら、」と、フラウが望遠鏡をのぞきながら言った。
「星の名前を名付けよう。女の子だったら、スピカちゃんとか、どうかな」と、フラウが微笑んで言う。
「そうね、それもロマンがあって素敵かもね、あなたらしいわ」と、ララ。
「ララの意見も、いつか聞かせてね」と言って、二人はキスをした。
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