僕とヒーローと悪魔の目次録
RYU
第1話 悪夢の出逢い。
時は、22世紀半ば。
謎の幾何学模様の巨大隕石の落下により、遺伝子変異が起き、新たな異能力に目覚める者が続々と現れた。
世の中は、すっかりヒーローブームとなりつつあった。、巨大電光掲示板にはヒーローの画像が映し出され、街のものは白熱し熱狂の渦にのみこまれた。
炎を自在に操る者、時空を自在に操る者、風を自在に操る者など、様々いた。彼らは、己の能力を人助けに使った。
だが、中には己の能力を殺戮に使うものまで現れた。
街は、深い混乱の渦に飲み込まれていくようになった。
そんな中、とある平穏な地方都市で一人の青年が、新たな能力に目覚めた。
喜多川カズマは、町工場で働いている、しがない派遣社員である。
自慢できるものは何もなく、誕生日に祝ってくれる人もいない。
何処に行っても浮世離れしており、自分は宇宙人ではないか?とすら思っている。
家庭環境には恵まれず、自分が愛人の子だと知った瞬間、世界がひっくり返るような衝撃を受けた。執拗に母親に詰め寄ったこともある。親子中は特に悪くはなかったが、母親とは段々気まずくなって疎遠になってしまった。
そんな彼の誕生日は、いつも寂しい。
誰からも『おめでとう』とは言われない。
クリスマス、年末年始、バレンタイン、ホワイトデーもぼっちだ。
周囲がリア充しているのの、何が楽しいのかが分からない。
いや、本当は自分の本音をごまかしているだけなのかもしれない。
現に恒例のリア充たちのイベントの日は、ゲームに三千円以上課金してしまっている。
自分は、ヤケを起こしているのだろうか?
彼自身、人間関係が得意なわけではない。いや、なんとなく苦痛に近い。
―俺の脳の構造、ここらとどっか違うんじゃないか?
そう思い始めたのは、随分昔のことだ。自分だけが異邦人のように感じる瞬間が、あまりにも多すぎた。
幼い頃から、彼の興味は続く物に向かっていた。プラモデル、ゲーム、ガジェット類――人と関わるより、壊れたものを直している方がよほど楽しい。配線を組み直す、電極を繋ぐ、部品をはめ込む。そんな作業に没頭している間だけは、自分がどこにも属せない人間であることを忘れられた。
好奇心とワクワクの世界に満たされていた。
しかし、そうしているうちに、自分は大分浮いた存在になってしまった。
そのうえ、彼は根本的に女性が苦手である。
「場の空気を読む」「協調性を大事にする」――世の中の暗黙のルールが、どうにも理解できないのだ。
特に、若いギャル系の女性が苦手だ。
キャピキャピしたテンションの高さ、マシンガントーク、抑揚の激しい喋り方。
『何で、こんなに全力で喋れるんだ?』
と、正直、見ているだけで気圧される。
職場では、極力誰とも関わらず、静かに生きている。
社内環境と人間関係が上手くいかず、現在こうして派遣として仕事をしている。自分は、コミュニケーションがあまりにも不器用すぎてどの職場でもうまくいった試しがない。
どうも、人と話すとき空回りしてしまうのだ。自分は、思考回路が独特すぎる。物事の捉えかたや感覚、空気感が周囲と異なる。宇宙人ではないか?とすら思ってしまう。特に、女性と話すときは変な緊張感が走ってしまう。
家に帰り、
今日は、コンビニで買った苺のショートケーキとチョコレートケーキ、安物のワインで侘しいクリスマスイブを過ごす。
職場のストレスで、ワインをボトル半分ほさのみほし、ショートケーキをほほばる。
テレビの内容が、殆ど頭に入ってこない。
ほろ酔い状態で、虚無の気持ちで仰向けになる。
カズマは、そんな侘しい誕生日の夜をすごしていた。
日々の日課は、SNS呪租を吐き出すことだ。容姿や能力、コミュニケーション能力に対する不満を書きなぐり続ける。
どうして、自分はこうなってしまったのか…?自分は、どうしていつまでも変われないのかな…?と、カズマは弱い自分に絶望する。
天井や壁がゆらゆら歪む。
アルコールが、回って来たのだろうかー?
時計の針は、夜の9時を指していた。
いきなり、
地震のような大きなグラつき音が響いた。
サイレンの音が、あたりを轟かせる。
外に出ると、辺りが風に包まれ建物が次々とスライスチーズのように切り分けられた。
広場の中央には身長190センチは優に超える男が威嚇し、人々を一瞬で吹き飛ばしていた。彼は、パンクファッション風の格好をしている。かなり強そうだ。褐色の肌にがっちり鍛えていると思われる凹凸に膨れ上がった筋肉-。短く刈り上げられた赤い髪-
彼は、自分が直感でかかわってはいけないと悟る人種だ。いつも、彼のようなバイタリティー溢れる体育会系の男たちから、からかわれいじりにあってきた。
彼は喜悦に満ちた表情をし
足元には、さっきまで緑だった草がすっかり枯れ果てていた。
ーと、その時だった。あたりに乳白色の眩い閃光が包み込んだ。
『喜多川君、とうとうこの時が来たのだよ。さあ、今こそ、我が科学の結晶をー』
―は?
とこからともなく、遠くの方からハイテンションな男の声がこだましてきた。
夢でも見てるのだろうかー?
自分は、酔っぱらっているのだろうかー?
乳白色の眩い閃光が、あたりを包み込む。
カズマは目を閉じた。
しばらくして目を開けると、そこには、黒いライダースーツに身を包んだ自分の姿が、そこにあった。
「よお、兄ちゃん、お前かー?」
パンクファッション風の男は、愉快そうに嗤った。
カズマは、戦慄した。
彼の言っていることの意味が理解できなかったが、戦慄が待っていることだけは確かだった。
僕とヒーローと悪魔の目次録 RYU @sky099
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