17. 【ロークスユルム】やっと見つけた!

「戦争?そりゃあ大歓迎さ。何ならあたしが行きたいくらいよ!」

「ワシも後十歳若けりゃ、戦いに行くんじゃがのう」

「くっそー、この怪我が無ければ大活躍出来るのに!」


 ロークスユルム王都北部の漁村。

 農業と漁業が盛んな村々に移動したホワイトは聞き込みをするが、誰もかれもが戦争について賛成派だった。むしろ女性だって戦いたいという不満があるくらいだ。


「おかしい」


 この国では老若男女問わず戦争を欲している。愛していると言っても止まないくらいの熱狂ぶりだ。


「死ぬかもしれないんですよ?」

「だから良いんじゃないか!」

「そうそう、そのスリルがたまらねーんだよな!」


 しかも戦による死や怪我を怖がりながらも、その怖さを大きな楽しみとしているではないか。


 この世界の常識からかけ離れており、あまりにも歪んでいる。

 歪みすぎている。


「やはりおかしい」


 だがホワイトが違和感を覚えたのは、その常識外れの考え方が国民に浸透していることでは無かった。


「戦争馬鹿以外は私達とそうは変わらない感性なのに、どうして全員が・・・戦争に肯定的なのだろうか」


 ロークスユルム国民の戦争に関する考え方以外の感性は、他の国の人達となんらかわらない。

 好き、嫌い、楽しい、嬉しい、悲しいなど、物事への感じ方が大きく異なるようには思えず、農業や漁業の様子を見る限りでは文化にも大きな違いは見られない。


 それなのに何故戦争に反対する人が誰もいないのだろうか。

 感性が他の国の人達と同じであれば、戦争が嫌だと思う人がいてもおかしくない。


「いくらなんでも全員が全く同じ戦争肯定派というのは不自然すぎる」


 まるで魔法で強引に国民の思考を誘導しているかのような感覚だ。

 だがそんな魔法などこの世界には存在していない。


 ホワイトですら知らない未知の魔法が存在する可能性も無くは無いが、その可能性は低いとホワイトは考えている。


「王族が何かしているならスパイがとっくに突き止めてるはずだしなぁ」


 ロークスユルムは国境に兵を配置せず監視をしていない。

 それすなわち、スパイだろうが暗殺者だろうが入り放題で調査し放題ということだ。


 もしもこの国の権力者達が特殊な魔法などで国民の思考を誘導しているのならば、とっくにバレているはずだ。

 各国の調査結果によると、ロークスユルムは子供を戦争好きになるように教育しているから全員が歪んだ思考になっている、とされている。

 ある意味洗脳だが、魔法的なものでは無く、教育についていけずに戦争を好きになれなかった人が絶対に生まれる筈なのだ。


「よし、地図を確認してみよう」


 手元の紙にメモしたロークスユルム王国の地図を見ながら、何か見落としが無いかを考える。


「今いる場所が王都の北東。南西から入って、海に出るまで北上して、海沿いに東の端まで来た。北側には農村兼漁村が五つあって、この国の食糧事情を支えている。ここまでは良い」


 事前の知識と実際の地理に大きな差は見られなかった。


「となると気になるのはやっぱり王都かな。反抗勢力を地下に閉じ込めてるとか。いや、それならやっぱりスパイにバレてるよなぁ」


 そして世界中にその事実が拡散されて非難されているはずだが、そんな事実は今のところなかった。


「いっそのこと殺して隠ぺいしてるとか。ってこれも無いか。そんなの国民には隠せ通せないし、恐怖政治だからあそこまで朗らかに戦争が好きだなんて言ってられないもんな」


 少しでも反抗的な態度をとったら殺されるのではないかという不安や恐怖により、他国との戦争を楽しむどころでは無いだろう。


「う~ん、じゃあなんだ。本当にこの国は国民全員がおかしいのか?そんな馬鹿な……」


 もしそうだとしたら、ロークスユルム王国とその他の国々で価値観が違うだけという問題になってしまう。ロークスユルム王国では誰もが本気で戦争が楽しいと考えているのならば、お前達が間違っていると一方的に価値観を押し付けて倒すことはある意味侵略しているようなものだ。


 価値観が全く違う者同士が手を取り合うのはとても難しい。

 せめてこの価値観が異常であると思ってくれている人が国民にいるのならば、そしてその人達を権力者達が強引に排除しているようであれば、その人達を支援することで国としての価値観を変えて行くことが出来るのだが。


「あれ、待てよ」


 地図を見ながら悩んでいたホワイトは、一つ奇妙な点に気が付いた。


「どうしてここだけ開発されてないのだろう」


 王都北部は穀倉地帯となっていて、農地として開発されていない場所が無いと言っても過言では無い位だ。だが一か所だけ、手つかずの場所があったのだ。王都やや北東のその場所に何があったのかをホワイトは思い出す。


「ああ、確か岩場が多い場所だったよな。あそこなら農業は出来ないだろうけれど……」


 人気ひとけが無かったためスルーした岩場地帯。

 思い返せばそこは海岸近くに高い崖があり、その下に洞窟らしきものが無かっただろうか。


「まさか……ね」


 考えすぎだと思いながらも、どうにも気になる。

 ホワイトの移動速度なら確認するのはすぐであり、最後にそこを確認してから王都の調査をしようと考えた。


 そうしてホワイトはその気になる崖へと向かい、崖下に降りて洞窟を確認した。


「まさか当たりだったとは」


 洞窟の中には家があり、多くの人が生活をしていた。

 しかも彼らは一様に暗い顔をしており、元気が無い。


「あの、ちょっと良いですか?」

「だ、誰!?」


 近くを歩いていた若い女性に声をかけたが、かなりホワイトを警戒している。

 朗らかに相対してくれた他の村の住人とは全く雰囲気が違う。


「私は歴史学者のグレーと言います」

「歴史学者?」


 彼女を警戒させないようにと丁寧に話をしたところ、叫ばれたり逃げ出されたりするようなことは無さそうだ。

 それどころか、彼女の方から先に質問をしてくれた。


「もしかして他の国の人ですか?」

「はい」


 ホワイトが外国の人物だと知ると、彼女は眼をカッと開きホワイトに体を寄せた。


「あ、あの。お願いです!たす……」


 彼女は最後まで言葉を紡ぐことが出来ずに、悲しそうな表情になってまたホワイトから距離を取った。


「あの、どうかなさいましたか?」

「いいえ。なんでもございません。どうかこの場からお引き取りを」


 そして明確にホワイトを拒絶したのであった。


「(まさかさっき『助けて』って言おうとしたのかな。だとすると、どうして一旦言おうとして止めたのだろうか)」


 その理由は分からないが、彼女が助けを求めている可能性が少しでもあるのなら、ここで素直に帰るわけにはいかなかった。


「(さて、どうしたものか)」


 彼女はホワイトの元から逃げるように去ろうとしている。

 このまま彼女に話しかけるか、それとも他の人に話を聞くか。


 少し悩んだ結果、ホワイトは前者を選んだ。

 どうせ他の人に話を聞こうにも同じような反応をされるのだろうなという予感があったからだ。


「あの、一つだけ教えてください」


 それで居なくなってくれるのなら、と思い話を聞いてくれるかも知れないとの狙いだ。

 その狙い通りに彼女は振り返ってくれた。


「……何でしょう」

「(あの手で行こうか)」


 彼女から情報を引き出すには『信頼』が足りていない。

 ホワイトならば彼女達をなんとかしてくれると思わせるほど『信頼』されれば、彼女の心の壁が取り除かれるかもしれない。


 そしてその『信頼』を得るための何かをホワイトは持っている。


「リング・コマンドを知っていますか?」

「え?」


 世界中で知られるようになったリング・コマンドだが、果たしてこんな隠れたような場所に住む彼女達も知っているのだろうか。知っているのならば話が早い。知らないのならば一から考え直さなければならない。


「……知っていますけど、それが何か?」


 どうやら考え直す必要は無さそうだ。


 ホワイトがどうやって彼女達から信頼を得ようとしているのか。

 リング・コマンドを知っているかどうかの質問に何の意味があるのか。


 その答えはとてもシンプルだ。


「私は本当はホワイト・ライスと言います。リング・コマンドの発見者と言えば分かりますか?」

「え…………ええええええええ!」


 女性は大声をあげて驚き、その声を聞きつけた人々が集まってきた。

 これ幸いと、ホワイトはちょっとしたパフォーマンスを見せることにした。


「証明になるかは分かりませんが、面白いものをお見せしましょう」


 ホワイトはリング・コマンドを出現させ、炎の魔力を選ぶ。


「炎魚」


 そして小さな炎の魚を宙に生み出した。


 次にまたリング・コマンドを出現させ、今度は水の魔力を選ぶ。


「水魚」


 そして小さな水の魚を宙に生み出した。


 土、風、雷、光、闇。


 それぞれの属性の小魚を生み出し宙で泳がせる。


「きれい……」


 色とりどりの鮮やかな魚達が泳ぐダンスする姿に、女性は目を奪われている。


 多くの属性を使えて、それらを使い慣れていること。 

 リング・コマンドの発見者であれば、リング・コマンドを最も育てていて、全ての属性を扱えてもおかしくはない。一般的にはまだ二つか三つの属性魔法を使えれば進んでいる方なのだ。逆に言えば、全ての属性を扱えているということがリング・コマンドの発見者である可能性が高いと言うことになる。


「どうでしょう。これで私がホワイトだと信じて貰えたでしょうか」


 魔法魚のショーを終えたホワイトは、今度こそ情報を引き出すために、女性に話しかけた。


 するとその女性は夢現で幸福そうな表情からハッと現実に戻り、悩むことも無く今度こそホワイトのそばに急接近して伝えたのである。




「ホワイト様お願いします。私達を、この国を、お助け下さい!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る