15. 【ロークスユルム】普段はハチャメチャなのに戦になると有能になるよくあるパターン

星造魔法クリエイト星速馬スターホース


 魔法学園からロークスユルム国境までの間は渓谷などの足場が不安定な場所は存在しない。

 そのため魔鳥よりも高速移動が可能な魔馬を星座魔法で召喚し、それで移動することにした。


「なんじゃありゃああああ!」

「神だ! 神の馬じゃ!」

「神様、豊作をお願いしますじゃ」


 そのあまりの速さに、その姿を見た道中の村人たちが恐れ戦き、その噂がやがて歴史書に記されたとかなんとか。


「よし、ついたぞ」


 そんなことは知らないホワイトは、ロークスユルム王国との国境に位置する砦に辿り着いた。

 国境は砦を中心に強固な壁で区切られていた。


 その砦の手前では、騎士団と思われる人々が訓練をしている。

 ロークスユルムの侵略に備えているのだろう。


 ホワイトは彼らを驚かせないようにと砦から少し離れところで馬から降り、歩いて砦に向かった。


「あの、すいません」

「なんだ君は?」


 近くにいた剣の素振りをしていた三十代くらいの騎士団員の男性に声をかけた。


「私はホワイトと言います。国王陛下からの……」

「ホワイトおおおお!?!?!?!?」

「ちょっ、驚きすぎでしょ! どこ行くんですか!」


 ロークスユルムに向かうにあたり、砦の通過許可をしたためた書類を国王に用意してもらったので、それを騎士団の偉い人に渡したかったのだが、声をかけた相手は驚き暴走して砦の中に走り去ってしまった。


「なんだったんだ……」


 その奇行っぷりに唖然としていたら、やがてドドドドという爆音と共に砦から大量の人がホワイトに向かってやってきた。


「ひえ」


 思わず魔法をぶっぱなして蹴散らしてやろう思ってしまったが、相手は騎士団だったのでどうにか自重した。


「ホワイトどのおおおおおお!」


 集団の戦闘を走るのはむさ苦しい髭が目立つ派手な鎧を着た男性だった。


「ようこそ、ようこそロークス砦へ!」

「ふぎゃ!」


 その勢いのまま抱き着かれ、妙な声を挙げてしまった。

 ホワイトだから良かったものの、普通の人だったら熱烈な抱擁で全身の骨が折れていてもおかしくない程の威力だった。


「は、離れてください!」

「おっと、すまんすまん」


 平気とはいえ、痛いには変わらない。

 慌てて力づくで振りほどいた。


「すげぇ、団長のハグを喰らって平然としてやがる」

「あれが稀代の天才、ホワイト様の実力か」

「うちの団に入ってずっと団長の相手してくれねーかなぁ……」


 不穏な言葉が聞こえてきたが、今は無視だ。

 せっかく団長自ら来てくれたのだから、書状を渡さねば。


「俺は第五騎士団団長、ヤキニク・ジュージューだ。我々はホワイト殿を歓迎いたすぞ!」

「は、はぁ……ご存じのようですが、私はホワイト・ライスです。陛下からこれを渡すように申し司っております」

「うむ。しかと受け取った。さあ、堅苦しいことは抜きだ。歓迎の祭りじゃああああ!」

「いやいやいや、何言ってるんですか!」

「はっはっは、冗談だ冗談!」

「冗談に聞こえませんでしたよ……」


 無駄なテンションの高さにホワイトはついていけずに困惑していた。


「だが少しくらいは時間があるだろう」

「まぁ少しくらいなら」

「なら砦で少し話さんか」

「え?」


 時間はあると言ったが、話をする必要はない。

 多くの人と友誼を結ぶのは大事なことではあるが、今はロークスユルムに向かう方が先決だ。

 騎士団が特に問題を抱えているという話でもなければ、ここに滞在するつもりは無かった。


「団長を止めろ!」

「うおおおお!」

「ホワイト様、お進み下さい!」

「ぬお、き、貴様ら何をする!」


 何故か騎士団員が団長に襲い掛かり動きを封じようとしてきた。


「ぬううううん!」

「ぎゃああああ!」

「諦めるな!」

「数で押しつぶせ!」

「甘いわああああ!」

「「「「ぎゃああああ!」」」」


 しかし団長は複数人にのしかかられようとも軽々と吹き飛ばし、その後も襲い来る団員を子供のように軽々といなしていた。


「何これ」

「大変申し訳ございません」

「君は?」


 意味が分からずカオスな状況を眺めることしか出来ないホワイトの傍に一人の女性団員がやってきた。


「ミスジ、と言います。団長の補佐をやっております」

「補佐……ご苦労様です」

「ありがとうございます」

「(こんな労いの言葉だけで涙ぐみとか、どんだけ苦労してるんだよ!)」


 目の前の大騒ぎと彼女の涙を合わせて考えると、第五騎士団は団長に相当苦労しているのだということが確信できた。


「それで、何が起きているのでしょうか」

「団長は話し出すと長く、特に気に入った相手とは軽く数時間以上は話そうとします」

「え?」

「その上、どんな手段を使ってでも相手を引き留めようとします」

「それってほぼ監禁じゃあ……」

「そうならないように情で訴えようとしてくるところが最悪です」


 そのことを分かっていた団員達は、ホワイトのために団長を止めようとしてくれているのだ。


「団長はホワイト殿のことを高く評価し、会って話がしたいと常日頃から漏らしておりました。ホワイト殿を発見した者は一刻も早く報告しなければならない。少しでも手間取ったら地獄の罰が待っている、などという頭の悪い規則を作るくらいには……」

「(それでさっきの人は慌てて報告に行ったのか)」


 大慌てで報告に向かってしまう程の罰とは、一体何なのだろうか。


「もしかしてさっき、全員が走って私の方にやってきたのって……」

「団長を止める為でした。失敗しましたが」

「やっぱり」


 だが仮に止められたとして、団員達は団長に叱られないだろうか。


「放せ!放さぬか!放さねば貴様ら全員地獄の特訓フルコースだぞ!」

「それでも放せません!」

「ホワイト殿に迷惑をかけるなど具の骨頂!」

「我が国を滅ぼすおつもりですか!」

「うるさああああああああい!」

「「「「ぎゃああああ」」」」

「(一体、私はここでどのように思われているのだろうか)」


 これまではリング・コマンドや魔力過剰症治療について知識的な意味で称えられ、実力は未知数と思われていることが多かった。しかしここではまるで悪魔のような扱いでは無いか。それだけの実力があると知られている理由が気になった。

 そんなホワイトの内心を読み取ったのか、ミスジが事情を教えてくれた。


「団長はスープ辺境伯様と旧知の仲でして、ホワイト殿について色々と聞かされて、たいそう羨ましく感じておりました」

「(なるほど、だから私の強さについても知っているのか)」


 知り合いと言うことで、世間に喧伝しているものよりも詳しい話を聞かされたのだろう。

 そしてそれを過剰に表現して団員達に常日頃から聞かせていたのだろう。


 ホワイト殿なら指先一つで山を吹き飛ばせるぞ!

 ホワイト殿なら寝ながらでも一万の大軍を無効化するぞ!

 ホワイト殿なら息をするだけで国を滅ぼせるぞ!


 そんなことを言いながら団員をしごいていたのなら、その訓練のキツさがホワイトに対する恐怖に繋がってしまってもおかしくないだろう。


「せっかく彼らがこうして体を張ってくれているのです。どうかお急ぎを」

「そう言われてもねぇ」


 こうして体を張ってくれている彼らを見捨てて先に進むというのはどうにも気分が悪い。

 せめて自分がロークスユルムに向かった後に彼らが罰を受けないようにさせたいが、果たしてそれを言葉で伝えて通じるだろうか。


「(無理そうだよなぁ)」


 これは罰では無い、などと言いながらホワイトと話せなかった鬱憤を晴らすかのように団員をしごきそうだ。


「(団長さんが団員のことなんか忘れて夢中になる何かがあれば良いのかな)」


 それならば団員がとばっちりを受けることは無いだろう。

 そう考えたホワイトは一計を案じた。


「ヤキニク団長さん」

「ぬ?」


 部下を放り投げながらヤキニクはホワイトの方に駆け寄ってきた。


「プレゼントがあります」

「プ、ププ、プレゼントとな!?」


 憧れの人物からのプレゼントと聞き、ニヤニヤが止まらない。

 興味を惹くのは大成功だ。


「準備しますのでちょっと待っててくださいね」


 ホワイトは訓練の邪魔にならなさそうな壁際に移動して、指先を光らせた。


星造魔法クリエイト偽大剣イミテーションラージソード


 すると大男ですら持つのがやっとと思えるほどの大剣が出現した。


「おおおおおおおお!」


 ホワイトの魔法を見れたこと。

 そして自分好みの大剣が出現したこと。


 二重の喜びでヤキニクは歓喜する。


「これをプレゼントします。さあ、どうぞお取りください」


 ホワイトはその大剣を地面に突き刺すと、ヤキニクにそれを手にしろと誘導した。


「よ、よよ、良いのか? 本当に頂いて宜しいのか!?」

「もちろんですよ。ささ、どうぞお手に取ってください」

「う、うう、うむ」


 見るからに力強そうな豪華な剣。

 それをもらえると知り緊張で心臓が張り裂けそうだ。


 焦る気持ちを必死で抑え、慎重にヤキニクは剣の柄を手にとった。


「ふん!」


 そしてそれを引き抜こうとするのだが。


「ぬううううううううううううううん!」


 どれだけ力を入れようとも、それが抜けることは無い。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、ぬ、抜けん!」


 大人の団員達を軽く放り投げる程の怪力の持ち主であっても抜けない剣。


「あれぇ、おっかしいな」

「!?」


 しかしホワイトがそれを手にすると簡単に抜くことが出来た。

 その様子に愕然とするヤキニク。

 力には自信があったのだが、ホワイトに敵わないどころか圧倒的な差を見せつけられたのだから当然だろう。


 ホワイトは再度、剣を地面に突き刺してヤキニクに告げた。


「おそらく少しだけ・・・・力が足りないのでしょう。これを抜けないようではこの剣は扱えません。ですので、もう少し鍛えてみたらどうでしょうか」

「鍛える……」

「はい、そういうの大好きですよね?」

「お、おう!」


 傷心しかけていたヤキニクの表情が満面の笑みへと変わる。

 大好きな鍛錬を積むことで、強力な剣が手に入るのだ。

 しかもホワイトが言うにはもう少し・・・・鍛えるだけで良いらしい。


 やる気が出ないはずが無い。


「そうそう、いつまでもこんなところにあっても邪魔でしょうから、私がロークスユルムから戻ってきたときにまだ地面に刺さっていたら消えるようにしておきますね」

「え?」

「大丈夫ですって。ヤキニクさんならすぐですよ、す・ぐ」

「お、おう。そうだな!がはは」

「私はそろそろ行かなきゃならないので、鍛錬を始めてみてはいかがですか?」

「そ、そうか。承知した。素晴らしい贈り物をありがとう。恩に着るぞ!貴殿の成功を願っておる!」


 そうしてヤキニクは慌ててその場から去り、遠くで訓練を始めたのであった。


「ぬおおおおおおおお!」


 これでヤキニクは訓練と剣のことで頭が一杯で、団員に罰を与えることなど忘れているだろう。

 ホワイトは最後にミスジに声をかけた。


「ということで、これで良いでしょうか」

「ありがとうございます。ちなみにこれってやっぱり……」

「はい、私が帰ってくるギリギリまで絶対に抜けません」

「ですよね」


 抜けないように魔法的な仕掛けがしてあり、どれだけヤキニクが馬鹿力を発揮しようと抜けることは無い。ホワイトが一度抜いてみせたのは、何も仕掛けなんて無くて抜ける物だと印象付けるためだったのだ。


「ありがとうございます!」

「助かりました!」

「これで団長の扱きからしばらく解放されます……」

「あ、あはは……」


 団員達はガチ泣きであり、ホワイトはドン引きだった。


 なんてトラブルに見舞われつつ、ホワイトはようやく砦を通過してロークスユルム王国へと足を踏み入れるのであった。


 サンベール王国第五騎士団という、大量のホワイト信者が生まれたのは言うまでもない。

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