5000文字記念 5000円あるとしたら
「小芝居するのも面倒くさくなってきたから、直球で聞くけど、5000円あったら何する?」
「…」
妹は、スマホに夢中なのか答えてくれなかった。
もしくは、俺のことが嫌いになってしまったのかもしれない。
「…」
少し待ってみても、やっぱり妹は反応してくれない。
もしかして、聞こえてないのかな?
妹の肩を、トントンと叩く。
「…」
でもやっぱり、妹はスマホから顔を上げてくれない。
「おーい、妹!!聞こえてるか?」
ソファから立ち上がり妹の目の前で手を振りながら言った。
「え、なに?」
妹は、耳に軽く触れた後に、耳に手を当て言った。
妹は、どうやらイヤホンをしていたらしい。
最近のノイズキャンセリングってすごいんだな。
いつの間に、イヤホンなんてしたんだ?
さっきまでイヤホンなんてつけてなかっただろ。
どこから持ってきたんだよ。
いろいろ言いたいことはあるけれど、とりあえず妹の問いに答えるとしよう。
「5000円あったら何するか気になって」
俺の言葉に間髪を入れず、妹が答えた。
「お兄ちゃんの会話デッキってそれしか入ってないの?そんなに、それ聞いて楽しい?楽しいなら答えてあげてもいいけど。会話の導入に使おうとしてるなら、確実にお兄ちゃんに向いてない会話デッキだよ、それ。」
妹の辛らつな言葉に、お兄ちゃん、泣きそう。
確かに俺は、何でこんなことを聞き続けているのだろうか?
なんとなく気になって仕方がないのだ。
何でだろう。考えたことがなかった。
他の人との会話デッキには、この話題は全く入ってないのに、妹を目の前にするとつい聞きたくなってしまう。
「何でだろうな?他の人の金の使い方はどうでもいいんだけれど、何でか知らないが、お前の金の使い方だけ、異様な暗い興味がわいてくるんだよな。何でだろうこれ?」
今度真剣に考えてみよう。
「急にどうしたの?なんかすごく気持ち悪い。キモイ口説き方をしてるみたいになってるよ、お兄ちゃん。大丈夫?」
「俺の発言、そんなに気持ち悪かった?口説いてるつもりなんて全くなかったんだけど。妹相手に、口説き落とそうとか思っている兄がいたら、それは相当ヤバいやつだね」
妹に心配されてこんなにも心をえぐられることってあるんだなぁ。
ふて寝したいくらいには、落ち込んできた。
「それでなんだっけ?5000円で何するかだっけ?」
空気が重くなっていることを察したのか、妹が話題を戻してくれた。
やっぱりうちの妹は、優しいいい子だ。
中学校に入って口が多少悪くなってしまったけど、根はいい子なんだ。
良かった。妹が変わってなくて。
なんだか泣けてきちゃう。
適当な脳内芝居はこれくらいにしておいて、せっかく空気を換えようとしている妹の思いを無駄にしないように、全力でこたえていこう。
「そうそう、今度は5000円」
「5000円かぁ」
妹は、足をパタパタさせ始めた。
忘れてしまっている人が多いと思うのでおさらいしていこう。
うちの妹は、考えているふりをしているときには、顎に手を添える。
ちゃんと考えているときには、足をプラプラさせるのだ。
ちゃんと覚えておこう。
ここテスト出るからね。
暇だと、余計なことを考えてしまうなぁ。
そんなことを考えているうちに、妹の足のパタパタが収まってきた。
どうやら考えがまとまったらしい。
「ゲーセンで50回って答えを求められているんじゃないんだよね。それなら、今はまってるゲームのサントラ集のCDを買うかな。確かそれくらいの価格だった気がするから」
やっぱり、ゲーム関連なんだな。
根っからのゲーム好き、恐るべし。
「お兄ちゃんは、何するの?5000円あったら」
妹はこっちを上目遣いで見てきた。
俺は何も深く考えずに答えた。
「俺なら、普通に服とか買うかな」
「意外」
妹がやけに驚いたような顔をしている。
何でだろう?
「俺、そんな変なこと言ったかな?普通だと思うんだけど」
「いやいや、いやいや。さっきまで、あんなに適当なことばっかり言ってたのに、急に普通なこと言いだすから、疲れて頭が回らなくなったのかもって思っちゃった」
妹は、芸人顔負けの反応を見せた。
うちの妹、リアクション芸人行けるんじゃないかな?
「だって、お前がちゃんとツッコんでくれないんだもん。5テンポくらいツッコみが遅いから、これボケないほうがいいんじゃないかって思い始めてきたんだよ。もうちょっと、ツッコみにキレがあったらなぁ...」
「ボケないなら、ボケない方がありがたいんだけど。何か物足りないなぁ。何だろう。お兄ちゃんのボケが癖になってたのかなぁ」
何かが足りないと言いたそうな顔をする妹。
「うちの妹が、ドMになってる!!」
「ドMじゃない!!!」
妹が顔を真っ赤にしながら、ぽかぽかと俺の方を殴っている。
やっぱり、妹をいじるのは楽しいな。やめられない止まらない。
妹はしばらくすると怒り疲れたのか、自然と俺の方を殴るのをやめ、スマホへ意識を戻してしまった。
俺もまたスマホに集中しだしている。
この話題もまた終わってしまった。
俺は最後に小声でつぶやいた。
「解散」
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