1000文字記念 1000円あるとしたら

「プリンなら、冷蔵庫の上から2段目のところに入ってるぞ」

「そ、ありがと」

スマホから顔を上げずに妹と話す。

妹の足音で、妹が遠ざかっていくことを感じる。

「え?!これ、ぷっち〇プリンじゃないんだ!!専門店的な奴?」

バタンッ!

「冷蔵庫を雑に扱うなよ。何かの液とかが漏れちゃうかもしれないだろ!!駅前になんか見せできてたから買っておいたんだ」

返答がない。

うちの妹は、人の話を聞かないらしい・

「へぇ、あそこらへんに店できたんだぁ」

妹の鼻歌が聞こえてくる。

妹は、だいぶご機嫌なようだ。

しばらくして、妹がソファに戻ってきた。

「それで、次は1000円だな」

スマホを閉じて妹の方を見て聞いた。

「それって何かの心理テストなの?4回も連続で出されたから、何か怪しくなってきちゃった」

妹は、なぜかきらきらとした目で俺の方を見てきた。

「いや、ただの暇つぶしだ」

妹の目は、興味を失ってしまったようだ。

「1000円?そろそろ、何か物が買えそうだね。いや、まずお兄ちゃんの意見を聞いておこう。私は賢い子だから、失敗からちゃんと学べるんだよ!お兄ちゃんは、1000円あったら何をするの」

妹は、腰に手を当て、今にも「えっへん」といいそうな体制で俺に聞いてきた。

それにしては遅くない?

そんな自慢気に言うのは、2度目とかで学習した場合じゃないの?

3回すでに引っかかってる人の口ぶりじゃないだろ。

「1000円かぁ。俺なら、本でも買うかな」

妹は珍しいものを見たみたいな顔をした。

いや、表情豊かだな。

「お兄ちゃんにしては珍しいね。お兄ちゃんなんて、持ってる本が教科書しかない系男子じゃなかったっけ?」

「言うではないか、妹よ。確かに、高校生にもなって、小学校の入学祝に買ってもらった、勉強机の上の小さな本棚すらスカスカな俺だけど、本くらい欲しくなるんだぞ。兄だって、成長しているのだ」

「いやいや、本棚がスカスカなことなんて、自慢することじゃないでしょ。私を見習って欲しいよ。私なんて、部屋中本だらけなんだからね」

またしても、妹はえっへんポーズをした。

「だいたい、ゲーム関連の本だろ。それなら俺と大差ないだろ」

「お兄ちゃん、今ゲームを馬鹿にしたね!!戦争、これは戦争案件だね」

物騒だな。

妹が、ぽかぽかと俺を殴る。

妹の言葉と行動の迫力に差がありすぎて面白い。

ふと、笑みがこぼれてしまった。

「今笑ったね、これは全面戦争不可避だね!!」

妹の怒りの炎に燃料を投下してしまったみたいだ。

「まぁ、まぁ、落ち着け妹よ。それで、お前はどうするんだ?1000円あったら」

妹は、落ち着いたのかソファに座り直し、足をプラプラさせながら考えだした。

100円の時よりも早く考え終わった妹が、足を止め、言う。

「私ならね…ゲーセンで10回ゲームをすると言いたいところだけど、それだとお兄ちゃんと同じくらい卑怯になっちゃうから…ゲーセンで使えるいい感じの手袋買う!」

「ゲーセンで使う手袋ってそんなにするのか?」

妹は、素早くスマホを手に取り、何かを入力している。

多分検索をしているのだろう。

すると、妹は突然画面を俺の方に突き出してきた。

「これとか見て、お兄ちゃん」

そこには、手袋800円と書かれていた。

「これ、そんなにいいのか?100均のと変わらないように見えるんだか」

「ち、ち、ち、お兄ちゃん甘いよ。100均の手袋は、滑り止めがなくて、すごく薄いか、滑り止めがあって厚いかの二択しかないんだよ」

妹が馬鹿にしたように言ってくる。

ただ、そんな煽りよりも気になったことがあったので、イライラせず妹に聞く。

「それじゃダメなのか?」

『はぁあ、これだからお兄ちゃんは』とでも言いそうな仕草をした後に妹は答えてくれた。

「お兄ちゃん、ゲーセンのゲームって画面を触るものが多いのそういう時に滑り止めがあると、触りにくいし、薄いと手が痛くなっちゃうんだよ」

「そもそも手袋っているのか?」

妹がドン引きしている。

『はぁあ、これだからお兄ちゃんは』から『そんなことも分からないのお兄ちゃん』的な雰囲気に変わってしまった。

「お兄ちゃん、ゲーセンは公共の場だよ。いろいろな人が触るものなんだから、汚すわけにはいかないでしょ、だから手袋をするんだよ」

良かった、ここで、『誰かが触ったものとか、汚いでしょ』とか言われなくて。

そんなこと言われたら、妹が変わっちまったと言うことで、2日くらい寝込むところだった。

「そうだったのか。じゃ、また解散」

それから二人とも、何事もなかったかのようにスマホに集中しだした。

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