03

「って、なんで結局なにも買えていないのよ」


 スーパーにいこうとしても止められ、コンビニに入ろうとしても止められて家までなにもできなかった。

 それに倉本が言い出したことなのに倉本がいないことが微妙だ、代わりに岡田がいてくれてももやもやは消えたりはしない。


「まあまあ、お客さんである僕達がいいって言っているんだから気にしなくて大丈夫だよ」

「これじゃあ最低限の常識もないみたいじゃない」

「そんなことはないから、寧ろいきなりいきたいと言ったのに普通に受け入れてくれただけで十分だよ」

「……で、言い出した倉本は?」

「友達に呼ばれたとかなんとかで無理になったんだって」


 駄目だ、これももう彼女のそういう作戦に見えてくる。

 既に一度騙されているから全てが妄想ということもないだろう。

 だから警戒しつつ注いでおいた麦茶を飲んでいると「そう警戒しないでよ」とあっさりバレたみたいだった。


「今日は結局雨が降らなかったね」

「そうね」

「僕も倉本さんと同じで晴れている方がいいから大歓迎だけどね」

「私とあんたって合わないわよね」

「え、絶望したくなるほど合わないならこうして一緒にはいられていないと思うけど」


 別にそこまでは言っていない。


「ま、言い出した倉本がいないんだからある程度したらあんたも帰りなさい、急に降ってくるなんてことがあるかもしれないんだからね」

「それなら一旦帰って着替えを持ってくるね」

「は、はあ?」

「いってきます!」


 まともに話すらできなくなったらおしまいだろう。

 なにを意地を張っているのか、別に私に拘らなくてもいい存在は周りに沢山いるのに。


「ただいまっ、あっ、途中で倉本さんを発見したから連れてきたよ!」

「岡田が悪いわね」

「いや、私もいきたかったからありがたいぐらいだよ」

「ちゃんと言いなさいよ」

「え、これが本音だけど」


 岡田に対するソレは微妙でも流石に嘘をついたりはしないということなのだろうか。

 その後も楽しそうに会話をしていたから初回のときのあれはなんだったのかと言いたくなる。


「カレカレカレー」


 いやでもこればかりはありがたいか。

 余らせると微妙だからカレーが大好きらしい彼女に沢山食べてもらえばいい。

 まあ、実際のところを言うといま自信を持って食べてもらえるのはカレーぐらいというのが大きかったけど。


「岡田はよくそんなに食べられるね」

「寧ろ伊波さんと倉本さんがおかしいんだよ、そんな量じゃ一時間もしない内にお腹が空いちゃうよ」

「あんまり食べすぎると太るよ。この後は大して動かないし、これぐらいでいいと思うけど」


 いまのは倉本が言っただけだけど本当に合わない。

 褒められたくない病の彼女的にわざと狙っているのだろうか、それなら効果は出ていると思う。


「終わったら食器とかも置いたままでいいから先にお風呂に入っちゃって」

「倉本さんからでいいよ?」

「それなら先に入らせてもらおうかな、ごちそうさまでした」


 さっさと洗い物を終わらせて――と動き出したところで腕を抱かれてぞわっとなった。


「あんたそろそろなにか目的なのかはっきりとしなさいよ」

「伊波さんと仲良くなりたい」

「本当にそれだけ? 言っておくけど私の反応を見て遊ぼうとしてもつまらないだけだからね?」


 自分でもなにを言っているのかと呆れたくなる件だ……。


「そんなことしないよー」

「……とにかくいまみたいにくっついてきたりするのはやめて、まだそんな仲じゃないでしょ」

「じゃあ仲良くなれたらいいの?」

「まあ、同性同士なんだから仲良くなれたらいいんじゃない?」

「それならそのときまで我慢をするよ!」


 延々とこないまま終わりそうだ。

 今度は岡田がお風呂にいって倉本とゆっくり話をしていた。

 どうにも岡田が切った女の子に無理やり連れていかれてすぐに来ることができなかったみたいだけど岡田が誘ったときには既に一人だったらしい。


「その子、いまはどうなの?」

「当たり前だけどまだ気になるみたい」

「それなら倉本が橋渡しみたいなのをするのはどう? さっきだって仲良く話せていたし、その友達も倉本がいてくれれば安心してもう一回岡田と話せるでしょ」


 でも、そこでの問題も解決すれば岡田を敵視する必要もなくなるうえに私といる必要もなくなる。

 それこそ他の子のことで安心どうこうなどと言っている場合ではなかった、これでは安心していられない。


「それ、もうやってみたんだよ、だけど岡田ははっきりと言うだけだった」

「あ、隠さなかったのね」

「うん、流石に言わないままじゃ延々平行線になると思ったんじゃないかな」


 だからって全く関係のない私が動いても邪魔になるだけだから本人に頑張ってもらうしかないか。

 本当に友達でいたいならそれ以上全く動かずに終わるなんてこともないはずだから。


「伊波が協力してくれたらいけるかも」

「私なんて全く役に立てないわよ」

「そんなことはないよ、私が頼んだときだってすぐに結果を出してくれたでしょ」


 どこがよ。

 友達になったからとなんでもよく言えばいいわけではないのだ。

 そういうのもあってこのときばかりは岡田の気持ちが一ミリぐらいはわかった気がした。




「伊波さんもう寝ちゃった?」

「……まだ起きているけど、というか布団だって下に敷いてきたのになんでここで寝ているのよ」

「はは、十分前にも同じことを言っていたよ」


 これでは積極的に倉本を仲間外れにしているように見えてしまうから布団を持って、彼女には持たせて客間に移動することにした。

「あ、来たんだ」とこちらも普通に起きていたから今日は客間で寝たい気分だったと言い訳をして寝転ぶ。


「ああ、はは、私としては一人で広くてよかったけど伊波は私のことを考えてくれたんだね」

「あんたそういうのやめなさい」

「私に対してあんた呼びも嬉しいよ」

「岡田、最近はあんたの気持ちが少しわかるわ」

「でしょ? なんでも褒められてもそれはそれで困るんだよねー」


 それより明日も学校だ、お喋りしていないで早く寝よう。

 特に攻撃されることもなかったから朝までぐっすりだった。

 朝ご飯を作る約束をしているから二人よりも早く起きて動き始める、何故か眠そうな岡田も付いてきたけど約束は守らなければならない。


「見て見て……ウインナーの髭ー」

「あんたまだ寝ていなさいよ」

「ふぅ、だけど伊波さんともっといたいんだよ」

「ちゃんと付き合うから、なるべく疑わないようにするから寝ていなさい」

「え、なんか安心できない……」


 彼女を客間まで運んでからゆっくりと作りった。

 まだまだ初心者でいまは見られなくないのもあった。


「いい匂いだね」

「あ、お母さんおはよう。もうできるから二人を呼んでくるわ」

「わかった」


 で、いってみたら何故か拘束されている岡田がいた。

 理由を聞いてみるとよろよろしていて危なかったかららしい、まだしゃっきりとはできていないみたいだ。


「もうできたから食べなさい、倉本もありがとね」

「普通のことをしただけだよ」


 朝から疲れる展開にならなくてよかった。

 食べ終えたらそうゆっくりもしていられないからみんなで着替えて家をあとにする。

 それでも一旦帰るみたいだったから倉本とは別れて岡田と二人きりに、二人きりになっても朝は微妙みたいでまたふらふらしていたけど。


「僕のこと嫌いなんだと思っていたけど実際は違うみたい、なんかもうこっちを抑えるときとか物凄くやさしく掴んでくれるからね」

「あくまで友達のことを気にしているだけなのかもしれないわね」

「でも、例えば伊波さんが似たような理由で切られたら僕なら怒るけどね」

「いやあんたが言うな」

「はは、その通りなんだけどー」


 やっぱり彼女は切る側だからわからないのだ。

 でも、いまとなっては切られて一度経験してみてほしいとも思えない、というか元々そんなに酷いことを考えるタイプではない。


「夏休みになったら伊波さんには僕の家に来てもらう」

「誘われればその前にいくわよ」

「いいのっ?」

「断ると思ったの? 特にいきたいところもないから付き合うわよ」


 まあ、このあたりは時間が経過すれば解決するはずだ。

 ただ仲が深まればやっぱり切られるリスクも高まるから複雑だったりする。

 いまはこうしていい笑みを浮かべて隣にいてくれても結局去られたのでは意味がない。

 切られないためには思っていても褒めないことが大切――守れるだろうか?

 とにかく、楽しい時間ではありつつも不安になる時間でもある彼女といられていないときは楽でよかった。

 今日は一日大人しくしていた、クラスメイトに忘れられないためにも必要なことだ。


「はぁ」

「大きなため息ね」

「ああ、友達が体調を悪くして帰ったから心配なんだよ」

「それなら放課後はいってあげなさい」


 言われなくてもという話か。

 こういう季節が変わるときは弱りやすいからよく見ておいてあげた方がいい、特に岡田とかね。

 普段元気がいっぱいだからこそだ。


「そのつもりだけど私だって伊波といたいからね」

「私となんていつでもいられるじゃない」


 いやもう本当にそこまでの価値がないのに何故なのか、録音でもしておいて少し時間が経過した後に聴かせてあげれば言わなくなるだろうか。

 これだとよいしょをしてくれる子を自分の側に集めたみたいに見えてしまう、存在しているだけで恥ずかしいのではないだろうか。


「あ、そうだ、伊波も付いてきてよ」

「は、はあ?」

「お願いね、もちろん来てくれたらちゃんとお礼をするからね」


 だからお礼とかそういうことが気になっているわけではないのに。

 せっかく整っていた内側も放課後が近づくにつれてどんどん駄目になっていった。

 岡田も今日は無理みたいだったから「いこうか」と言って歩き出した倉本に一人で付いていくしかないようだ。

 大体、私みたいな知らない人間に来られたら悪化する気がする。

 倉本が薬局で買い物をしている最中、ここで逃げたらどうなのかとまで考えたけど結局は逃げなかった。


「ここだよ」

「マジで私も?」

「気になるならそこで待ってくれてればいいよ、ここまで付いてきてくれたから十分だよ」

「いや……ここまできたらいくわよ」

「そっか、じゃあインターホンを鳴らすよ」


 すぐに本人が出てきてくれて嬉しいようなそうではないような、という感じ。


「あの薫ちゃんと一緒にいられるんだから伊波さんはすごいね」


 そういえばそんな名前だったか。


「出会ったばかりだから、時間が経過すれば私だって、ね」

「知っているんだ?」

「あ、倉本が教えてくれたのよ、あと岡田が隠そうともしないからだけど……ごめん」

「あ、謝らなくていいよ。ただ、やっぱりお友達ではいられなくなった理由が納得できなくて最近は同じところをぐるぐると回っちゃっているんだ」

「私でよければ協力するけど」


 馬鹿、役に立てないくせになにを言っているのか。

 ふざけているわけではないけど最後までやり切れる自信があるときのみそういうことを言うべきだろう。


「いいの?」

「あー口にしておいてあれだけど連れていくことと話しているときに一緒にいることしかできないけどそれでもいいなら」

「それならお願いしたいかな――うん? なんで尚代ちゃんはにやにやしているの?」


 そうだ、なんでここでそんな顔をするのか。


「いや、前に同じことを頼んでみたんだけどすぐに断られた身としてはその差が面白くてね」

「倉本、笑ったら怒るからね」

「笑わないよ――あ、勝手にこぼれてしまったけど私からすればありがたいぐらいだからね」


 まあいいか、今日のところは悪化させないためにもここらへんで帰るべきだ。

 家をあとにして少ししたところで「ありがとう」とぶつけられて振り返ったら凄く真面目な顔で一瞬なにも言えなくなった。


「なに? さっきのはあの子の前だから自然と出てしまったということ?」

「思ったより元気そうで安心したのはそうだね」

「……私だけじゃ無理だからあんたも協力してよね」

「当たり前だよ。それでもし上手くいかなかったら岡田のことなんて忘れて私達三人で仲良くしよう」

「いやそういうわけにもいかないでしょ……」


 少なくともそれではあの子的に失敗なのだ。

 途中で別れて一人歩いていると出会ったばかりなのに見慣れた感じのする岡田と遭遇した。


「僕は最高のタイミングで家を出ることができたみたいだ」

「用ってのは?」

「もう終わったよ、弟のために早めの夜ご飯を作ってきたんだ」

「あんた弟がいるのね、会ったことはないけど元気なんでしょうね」

「それはもう……ふふって感じかな」


 弟のためにご飯を作るくらいなのだからいてあげなさいよとぶつけてみたら「もうお母さんが帰ってきたから大丈夫なんだ」と返されてしまった形になる。


「倉本さんの友達は大丈夫そうだった?」

「元気そうだったわ」

「それならよかった、元友達だから元気でいてほしいんだよね」


 自分から出してきたならありがたい。


「岡田、あの子と仲直りできない?」

「少なくとも切った僕からは動けないよ、伊波さん達が協力してくれるならなんとかなるかもしれないけどね」


 お、結構意外な反応だ。

 似たような結果になるから、無駄になるからやめておくよとか言われると思った。


「言ったからね? あんたちゃんと約束を守りなさいよ」

「伊波さんがいてくれるならね」

「ちゃんといるわよ、冗談で言っているわけじゃないわ」


 テンションが上がってきた、これで倉本が相手のときみたいになにもできずにお礼だけされてしまうなんてことは避けられそうだ。


「なんで急に変わったの?」

「あら、あんたからしたらマイナスのこと?」

「ううん、嬉しいけど僕は拒絶されていたと思っていたから」

「確かに自分を守るために距離を置こうとはしたけど拒絶はしていないわよ」


 よし、頑張ろう。

 ここで頑張れば自分にとってもいいから益々力が入るのだった。

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