184
Nora_
01
「ほら、早くいかないと遅れちゃうよ」
「ん-」
学校にいかなければならない日ばかりでいい加減疲れた。
だけど逃げられるような場所はないし、またお金もないから無駄に抵抗しても余計に疲れるだけだからやめておく。
朝ご飯とかもちゃんと食べないと怒られるから食べて、食べ終えたらすぐに制服に着替えて家をあとにした。
「お、当たった」
途中にあった自動販売機でなんとなくコーヒーを買ってみたら当たって得をした。
だからそう気分も悪くなかった、少なくとも四時間目まではそうだった。
「お、ここいいじゃない」「お、ここいいかも」
教室は賑やかだからいつも一人で休める場所を探していた私にとって本当にいい場所だったのに同じような人がいて駄目になったからだ。
盛り上がりかけていたそれもすぐに消え、ただ争うことになっても面倒だから特に話すこともなくこちらが距離を作る。
「待ってよ、タイミングが被ったからって逃げなくてよくない?」
「別にそれで離れようとしているわけじゃないから」
同じタイミングで言葉を発してしまって恥ずかしい! などという風になる人間ではない。
「じゃあなんで?」
「私は休める場所を探していたのよ、なのに誰かいたら意味がないじゃない」
「まあまあ、一回二人で過ごしてみようよ」
「それこそなんでよ?」
「これも運命の出会いかもしれないからさ!」
あほくさ……。
とはいえ、自惚れでもなんでもなく離れようものなら結局休まらない時間になりそうだったから戻って座った自分がいた。
「僕は
「私は
「おお、もう少しで夏がくるからぴったりだ!」
「いやその前に梅雨でしょ」
「細かいな~」
事実でしょうが。
それよりも髪型や喋り方で男の子のように見えるけど女の子みたいだ。
私と違って「早く学校にいきたい!」とか言っていそうな子だからどう考えても続く感じがしなかった。
そもそも今回のこれはたまたま同じタイミングになっただけだ、自己紹介をしたところでずっと一緒にいようとしているわけではないか。
「実はね、五時間目は体育なんだ、だから今日はお弁当の誘惑に負けないために出てきたんだよ」
「は? 作ってもらったなら食べなさいよ、自分で作っていても悪くなりそうだから食べなさいよ」
「最初から体育があるってわかっていたから作ってもらっていないよ、つまりないから見たくなくて出てきたんだ」
まあいいや、こちらは気にせずにお弁当を食べよう。
残そうものなら大噴火、とまではいかなくても「どうしたの?」口撃をされるから無理だ。
ぼうっと空や木なんかを見ながら食べていると「いいなあ」という呟きが聞こえてきてため息をついた。
「別に後悔しないなら食べればいいじゃない」
「いいのっ?」
「でも、それだとなんのために作ってもらわなかったのかってことになってしまうけど?」
「いただきます!」
き、聞いてない……。
箸は私が使っているからアレなのだとしても手でどんどん掴んで食べていくからおおと逆に感心してしまったぐらいだ。
母からすればこんなに勢いよく自作の物を食べてもらえて嬉しいかもしれない、素直に言うことはせずに「ゆっくり食べて」とか言いそうだけど。
「美味しいっ、これきみが作ったの!?」
「お母さんよ、私は調理に関しての能力が終わっているわ」
「そうなんだっ、これを毎日食べられるなんてきみが羨ましいなあ!」
ま、たまにはいいか。
早々に終わったからお弁当箱を片付けてまたぼうっとする時間に戻した。
ここは確かに一人でも落ち着けそうだけど距離があるうえに流石に同じ光景すぎて飽きそうだから次の場所を探そうと決める。
賑やかなところも別に嫌いではないから大人しくしておくのも……うーん。
「ねえ、あんたここ以外でいいところを知っていたりしない?」
「私からしたら学校でみんながいるという時点でいいところだから知らないかな」
「うわ」
「え、なんでそこでそんな顔?」
そんなの私とは全く違う生き物だからだ。
どうすればこんな風に育つのかと考えつつ見ていたら「なにかついていたりする?」と聞かれて首を振った。
「でも、きみがいいところを見つけるまで付き合うよ」
「は、はあ? あ、流石にそこまではしてもらえないわよ、一人でやるからいいわ」
「そう? だけど困ったら言ってね、もう僕らは自己紹介をした仲なんだからね」
自己紹介をしたぐらいで誰かのために動かなければならないならこの世はもっとよくなっていたかもしれない?
二年の梅雨前だからまだまだ時間はある、ゆっくり一人で探していこう。
「よし、負けちゃったけど上手く乗り切れたよ、ありがとう」
「どういたしまして、午後も頑張りましょ」
「うん、頑張ろう!」
元気ねえ。
それから授業を受けている最中、何故か物足りなく感じていた。
誰かと喋ることができて舞い上がってしまった結果ならただただ恥ずかしい。
「やあっ、二組だったんだね、僕は一組だからいつでも来てね」
「あんた……また来るとは思わなかったわ」
「え、なんで? 何回でもいくけど」
「それなら一緒に帰りましょ」
「うん、帰ろう!」
なんとなく、そうなんとなくだけど急にご飯を作れるようになりたいと思った。
お腹が空いているのに母がいなくて食べられないことが続いた経験があることも影響しているのかもしれない。
少なくとも一人の時間が増える夏休みまでにはなんとかする、約二ヵ月ほどあれば初心者でも大丈夫だ。
なにより大きいのは昔と違って調べればすぐに出てくること、軽いから持ち運びができるのも大きい。
「僕ね、家から逃げ出したいんだ」
「虐待をされている……とか?」
そういう子もどこかにはいるだろう。
転校していった子の理由が親が転勤になって付いていかなければならないから、だけではないことはわかっている。
小学生の頃、虐められていた子が急に消えたあの件だって……。
「ううん、みんな優しいよ。だけどさ、なんでもかんでもいい方に捉えられてもそれはそれで疲れるんだよね。だからずばずばはっきりと言ってくれる友達がいいというか、先生とかもいつでも褒めてくるわけじゃないから落ち着くんだよ」
「ふーん、そうなのね」
「うん、そういうのもあっていいことばかり言ってくれる子とは関係を続けられないでいてね」
「私からしたらそれは贅沢よ、あと私がそういう人間だったらどうするの? というか、中には微妙だと思っていても関係を壊したくなくて言わないようにしている子だっているんじゃない?」
「はは、そうかもしれない、みんな来てくれるのに自分が決めたルールで自分を苦しめるなんてアレだよね」
個人の自由で犯罪でもしていなければ好きなように生きればいい。
でも、余程のことがなければ友達のことは悪く言わないわけで、後々切られるとわかった状態で馬鹿みたいに一緒にいることはできない。
期待を持ったところで切られたりなんかしてみろ、いまでもアレなのに益々酷くなっていく。
「じゃあ私とあんたは合わないわね、これで終わりにしておいた方がいいわ」
「え、嫌だよ、ちゃんと関わったうえで判断したい」
「ちゃんと関わってから切られるのが嫌なのよ、あんたは切る側だからいいかもしれないけどね」
普通だ、それぞれで違うと言われてもこれは誰にとっても普通、当たり前のことだろう。
「おおっ、じゃあ僕とずっと一緒にいたいってことなんだね!?」
「は? あーだから別にあんただからどうこうじゃなくて普通は切られたくないでしょ」
「うんうんっ、そうだよね!」
これ、ちゃんと聞いてくれているのだろうか……。
なんか一人で盛り上がっていたから参加することができずに時間だけが経過した。
「あ、ここだから」
「家も近いっ、これはやっぱり運命の出会いだ!」
「あんた声がでかすぎ、恥ずかしすぎるわ」
「そういうところもいい!」
無関係を装うためにささっと挨拶をして中に逃げた。
流石にその状態で追いうち的なことはしてこなかったからほっとした。
一人でまだまだ母が帰宅するまでに時間があるから早速スマホを利用して頑張っていく。
まずは卵焼きだ、お昼ご飯とか夜ご飯とかも大事だけどお弁当を自分で作れるようになりたかった。
「ほー……」
うんまあ、卵は焦がしさえしなければ熱が入っていてもそうでなくても美味しいから悲惨な結果にはならなかった。
初心者でもただ炒めるぐらいならなにも問題はない、漫画やアニメみたいに紫色の物体が出てきたりもしない。
「ただいま――急にどうしたの?」
「おかえり、私も少しは作れるようにと練習をしていたのよ」
「え、熱が出ちゃったのかな? 体温計は……あった、これでちゃんと計ってね」
えぇ、流石にこの反応はない。
いまからやろうとしていたところだったのに勉強をしろと言われて萎えるときのそれと一緒だ。
「なかなかに失礼な親ね」
「だって急だった――あ、もしかして気になる男の子ができたとか!?」
「岡田か」
もう私の二倍の時間を過ごしているのだからもう少しぐらいは落ち着いてほしい。
父はこういうところが好きだって言っていたけどね……。
「伊波だよ? それにやっぱり気になる子ができたってことだよね?」
「岡田は女の子よ」
「うん、いまは同性とか関係ないみたいだから千夏が好きになれば関係ないよね」
残念ながら同性とか異性とか考える前の壁でぶつかっているから母がこの件で喜ぶときはこない。
だから先に謝っておいた、それでも親としては娘が元気よくいてくれるだけでいいはずだからそっちを主に見てほしいところだった。
悪いことだってしていないのだ、学校にだってなんだかんだ言いながらもちゃんと登校しているのだから許してもらいたい。
「私、千夏の子どもがみたいなあ」
「多分、いまからでもお母さんが頑張って妹を産んだ方が夢に近づくわよ」
「まあ、いやらしい子ね」
「誰よ……」
「お母さんだよ?」
疲れた、それにもう十分二人分のおかずができたからご飯を注いで食べよう。
味見したのもあって新鮮さもなかったけど苦くて涙目になったりすることもなくて一回目は成功に終わったのだった。
「伊波さんに言いたいことがあったんだよね」
「そう、それでなにが言いたかったの?」
珍しくクラスメイトと会話ができている私がいた。
「岡田と関わるのやめた方がいいよ」
「なんで急に?」
まさかこんなことを言われるとは。
既に自分が本人に対してあんなことを言っていたことは棚に上げて誰かに言われて変えるつもりはないけどねと内で呟く。
「私の友達がずっと岡田と過ごしてたんだけど特になにもしたわけじゃないのに急に切られたからかな」
「あー悪い癖が出てしまったのね」
「知っているの?」
「いや、ほとんど知らないわ、ただ拘りがあることは知っているわね」
「話はそれだけだから、特に理由もなく切られたくなかったら考えた方がいいよ」
や、優しい子だ。
だから去っていく背中をうるうると潤んだ目で見つめていると急に見えなくなった。
すぐに離してくれたから振り返るとそこにいたのは件の岡田で。
「あの子は確か……ああ、あの子の友達が僕のことを何回もよく言ってきたんだよね」
「本当に変な拘りよね」
そりゃ自分の友達が普通に仲良くできていたのに急に切られたらなにか言いたくもなる。
それでも本人にではなく私にというところが不思議だけど誰にでもいいから聞いてほしかったのかもしれない。
「それはわかっているよ、だけど大事なんだ」
「ま、好きにしなさい。私はここに残っていくからご自由にどうぞ」
「それなら残るよ」
普通に頑張っているだけなのに熱なのか~なんて心配されるのは嫌だから母がいない土日のお昼に練習しようと変えていた。
だから既に飽きたかのように見えてしまうかもしれないものの、実際はそうではないから誤解しないでもらいたい。
「みんなそうだけど言いたいことがあるならはっきり言えばいいのにね、我慢に我慢を重ねてまで一緒にいるとかもったいないと思わない?」
「自由に言えるなら苦労はしないってやつでしょ、あんたがわかってもらえないように相手だって同じ気持ちなのかもしれないわよ?」
「押し付けるなってこと?」
「そうね、自分がされたくないなら避けるべきね」
まあ、それができているならごちゃごちゃ言われるようなことでもないと思う。
自分の選択によって友達が消えてもお互いにちゃんと言い合える仲の友達が一人でもできたらそれでいいのだろう。
「んーだけどお互いに我慢をしていたらそれは仲良くできていると言えるの?」
「表面上だけでも上手くできればいいじゃない」
「それは嫌だよ」
「なら去りなさい、私とずっといたところでずっとこのまま延々平行線よ」
いや、相手に動いてもらうのは違うから今回も私から動こう。
追ってくるようなことはなかったから特に寄り道をすることもなく家に帰った。
ご飯の方はそのままにして、リビングでただただだらだらして母が帰宅するのを待つ。
「ただいま――あ、今日はご飯を作っていなくてよかったよ。お父さんがお友達と飲みにいくって話だったから私達もお店にご飯を食べにいこう」
「たまにはいいわね、ちなみにお母さんはどこにいくつもりだったの?」
「ふふふ、焼肉屋さんかな」
「それ、お父さんが聞いたら後悔するんじゃない?」
「いいよ。さ、いこうか」
知らなかったままの方がいいこともあるというやつか。
なにを言おうと結局は母といって味わうことになるのだからそれこそごちゃごちゃ考えても仕方がないか。
いくなら最大限に楽しむ、大食というわけではなくてもお肉が食べられるならそれでいい。
とはいえ、食べてばかりいると母が自分のことを後回しにして焼いてばかりになるから積極的に焼きつつ食べようと決めて母と一緒に焼肉屋さんまで歩いた。
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