高校生の始まりと少女の運命

それからまた2年の月日が経った。

あの美夢が虐められていた件は風のように去っていった。

そして僕と勇人、美夢は高校生へとなった。

ちなみにだが僕達は同じ高校へ通っている。

僕と勇人は成績的に大丈夫だったが、美夢は事情があったため授業にも遅れていて、成績もギリギリだった。

しかし美夢はギリギリついていき、結果僕達と同じ高校へと通えたのだ。



……

………



桃色に染まった木の間を通り抜けるように僕は新しい学校へと向かっていた。

周りには僕と同じ制服を着た生徒達が沢山いて、それぞれ緊張している人、ワクワクしている人、といった様子が受け取れた。

僕もこれからの新しい学校生活が楽しみだ――というわけでもなく、何故か妙になんの感情も沸かなかった。

感情が沸かないというより、と言ったほうが正しいだろうか。

どういうことだろうか、とそんな疑問を抱えながら僕は桜の道を引き続き歩いた。


「お〜い! 魁斗〜」


桜の道を歩くなか、僕を呼ぶ声が聞こえた。

その声の主へと顔を向けるとそこには二人の男女がいた。


「魁斗くん! 早く来ないと置いてくよ〜!」


手を大きく振りながら視界に映る少女はそう言った。

言うまでも無いかもしれないが、二人は勇人と美夢だ。



幼馴染であり、僕の大事な親友と言うべき存在である。

僕はそんな二人目掛けて、歩くスピードを速めたのだった。



……

………



「〇〇部はいかがですか!」

「こちらの部ではこんなことするんですよ!」

「よかったら仮入部だけでも!」


入学式が終わり、廊下をざわめきで空気を支配しているこの場面は、部活の勧誘だ。

どうやら熱心な部活の人達が部員を新入生から勧誘しているらしい。

僕にも声は掛けられるが、上手いこと回避している。

部活に入る気なんてないのだ。

理由はただ面倒くさいだけだ。

そう、ただそれだけだ。


僕はそう思いつつ、一箇所だけ場違いほどに人が沢山いるところに目を向けた。

その大人数の中心にいるのは勇人と美夢だった。

二人はとても困惑な顔をしながら大丈夫ですと答えていた。

僕はそれを見て人気者は辛そうだなと思った。


「あの! そこの君、この部活仮入部だけでもだめかな!」


どうやらまた部活の勧誘に声を掛けられたらしい―――――



……

………



私には好きな男の子がいる。

その男の子は一見無邪気そうに見えるが、時々年齢に似合わない、大人の顔をしたりする事があった。

そんな所が私は好きだった。

こんな感情を持ったのはいつの頃だったか。

そしてその感情はある日を境に大きくなった。

中学2年生の秋、それが私の分岐点、或いは私の運命の日だったのかもしれない。


私はある女同級生に虐められていた。

よく殴られたし、あることない噂を流されたり、そんな日をほぼ毎日。

私は辛くて家に引きこもった。

心配してか、勇人くんと魁斗くんは私の家に来ていた。

だがこんな姿を見せたくなかった私は家に上がることを拒否した。

それから時間が過ぎていった。

そしてある日、魁斗くんが一人で私の家に訪れた。

私はいつも通り上がらせないで、とお母さんに言った。

けれど何故かお母さんは魁斗くんを家に上がらせた。


そして魁斗くんは私の部屋の扉の前へと来た。

なにを言うのだろうか、とそんなことを考えていると、「ごめん」と魁斗くんが言った。

なんで彼が謝る必要があるのだろうか。

それから私と魁斗くんは色々と話をした。

その中で私は周りに頼っていいのだと気がついた。

私は覚悟を決めて彼に弱音を吐いた。

彼は馬鹿にせず真剣に受け止めてくれた。

それだけで私の心はどんなけ軽くなったか。

私は自分の部屋の扉を開けて、向き合って彼に感謝の言葉を伝えた。

ありがとうって。

そう言うと彼はこう返した。

どういたしまして。困ったら僕に言って。頑張って助けるからさ。

そう彼は照れくさそうに笑顔で言った。

私はその笑顔を見て―――





―――ああ、やっぱり私は彼が好きなんだな




そう思った。

その日を境に、私の中にある水の入ったグラスにヒビが入った。

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【短編】 三角関係ラブコメ漫画の一人に憑依した俺は、主人公を応援していたらヒロインの様子がだんだんおかしくなって……。 ふおか @Haruma0000

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