Day.28たまには私も手伝おうか
「陶子、これつけといて」
学校が休みの日にうちにやってきた伊織がそう言って差し出したのは指輪だった。
「可愛いけど、どうしたの?」
指輪の話は結婚すると決めた時にしてある。
言っても私たちは学生で親の庇護下にある。
だから今は自分たちのバイト代で買えるくらいのファッションリングを買って、10年後、スイートテンダイヤを自分たちで働いて稼いだお金で買おうと二人で決めた。
「こう言う時はまともなこと言うのになあ」
などと伊織にはぼやかれた。
普通に失礼だけど否定できない。
まあそれはいい。
今はこの指輪だ。
伊織はちょっと目を逸らしてから悩んで、下を見て話し始めた。
「こないだ知り合いと飲み行ったんだけど、そいつら幼馴染みで」
それで大体を察した。
初の彼氏と友達のなんとかくんたちだ。
ちょっと前に伊織と初と初の友達の男の子と飲みに行ったあと、初はサークルの先輩たちからサークル内で彼氏を取り替えてると揶揄われたらしい。
当たり前だ。
初は自分に恋愛感情がないものだから、他の人がどう見ているかの認識が鈍すぎる。
「そんでそいつら20年幼馴染みやってんのに、色恋沙汰で距離出来ててなんか嫌だったんだよ」
あー、なるほど?
友達の方は初彼が好きだったんだ?
そういえばこないだもやたらロマンチックなこと言ってたもんね。
けど、それとこの指輪が全然結びつかない。
「ちょっとしたことでさ、離れちゃうの嫌だから、約束っていうか」
いや、あいつらからしたらちょっとしたことじゃないんだろうけど、なんて伊織はごちゃごちゃ言っている。
でも大体わかった。
わたくし、伊織との付き合いはそれなりに長く、親御さんの次に伊織を理解していると自負しておりますのよ。
ちなみに伊織は私のことを親より理解している。
「関係が変わって距離が開かないように拘束ってこと?」
「言い方!」
「男の子ってロマンチストだよね。いいじゃん。伊織は私の伊織なんだからじゃんじゃか束縛していいんだよ?? プレイ用のロープってどこで買えるっけ」
「情緒のかけらもねえ女だな! とにかく付けとけよ」
不貞腐れたように口を尖らせる伊織が手を伸ばすので、ニコッと笑って素直に手を出した。
「病める時も健やかなる時も、私は伊織と一緒にいますよ?」
「はいはい。病める時も健やかなる時も、俺は陶子の世話をし続けるよ」
ほんと、おままごとみたいだ。
でも本気なんだ。
結婚式はしない。成人式の前撮りの時に一緒に写真を撮るだけの予定。
もちろん新婚旅行もないけど、代わりに卒業旅行を豪華にしようと考えている。
とりあえず籍だけ入れて、生活はそのままにして。
卒業したら寮を出ないとだけど、初めての会社勤と同居を同時に始めると新しいことだらけで死にそうだからそこら辺のタイミングは家族も含めて相談中だ。
「伊織」
「うん?」
「好きだよ」
「知ってる。愛してる」
部屋の隅にはヘッドフォンが二つ転がっている。
伊織とゲームしたり映画を見るときに使うものだ。
(寮は壁が薄いから、そうしないと近所から怒られちゃう)
二人で住む家はヘッドフォンなしで映画が見られる家がいいな。
照れたのか、昼めしなんにしよっかとか言いながら立ち上がる伊織を追いかける。
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