第12話

あと一歩

踏み込んでしまえば、もう後戻りはできないことが世の中には存在している。


思い出したくないことなのに捨てたはずなのに

何度も夢に出てくる。

昔の出来事

捨てたはずのこと

誰からも救われない、

3人グループなのに自分はいつもスペア。

隣のあの子よりも性格いいはずなのに。

隣のあの子よりも私のほうが「いい人だよね。」と言われるのに。

なにが私には足りないのかわからなかった。

でも、そもそもそんなこと考えること自体

私がスペアになった要因なのだと何年かして気づいた。

「いい人だよね。」という言葉の陰には

『相手の都合が悪くなるようなことを言わない人』

という意味があることも同じくらいの時期に知った。


「桜。桜。」

兄の声と体をゆすられる感覚に目を覚ます。

「なに?」

目をこすりながら兄の顔を見ると兄は少し安心したかのような表情をしていた。


しばらく兄は黙っていた。

「ねぇ、どうしたの?」

「何でもない。咲が夕飯買ってきてくれたみたいだから下いこう。」

「夕飯?」

時計を見ると針は7時半を指していた。


眠い体を起こして階段を降りると

兄と咲さんは何か笑いながらしゃべっていた。

「あ、桜ちゃん。ごはん食べよう。」

「うん。ごめん寝すぎた。」

「ううん。疲れてたんでしょ。たくさん働いてくれてたもんね。」

差し出された幕の内弁当と割り箸を開けて口を開く。

口を開いて入れて閉じて咀嚼する。

その行為を何度も何度も機械的に繰り返した。


「そうそう。夏樹惣菜店で弁当買ったんだけどね、」

「あ~この前俺が行ったとこか。」

「そこのお店の会計してくれたのが。私がこっちいたときによく遊んでた子でね。」

「へ~。俺の時は奥さんっぽい人だったけど」

「それでね久しぶりにその子と少しだけお話ししたんだ~。」

「よかったじゃん。どうだった?」

「童顔だからそんなに顔は変わってなかったかな。

でも話し方とか雰囲気は少し変わってた。」

「何歳なの?」

「確か17って言ってた。」

「じゃあ桜と同じくらいか。なぁ、桜。」


「へ?」

ただ無心で食べるという行為に没頭してたせいで何も聞いてなかった。

「私のね知り合いの子が桜ちゃんと同じくらいなのって話してたの。」

「あ、そうなんだ。   友達になれるの楽しみ‼」

そう口角をを上げて見せる。 

「そうでしょ。私も二人が仲良くなってくれたらすごくうれしい。」

そう言った咲さんはうれしいそうに、楽しそうにご飯をほおばった。


急いでまた無心で口に入れる。

空になった弁当箱を見て息を吐く。

「ごめん、私限界。」

箸を乱暴において席を立つ。

二人は驚いた顔をして私のほうを見ていた。

「眠気、限界。先に寝るね。」

にこりと笑いながら弁当を片付けて二人の方向に手を振りながらあくびをして

部屋を出る。


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