第5話
妹を背中に乗せて踏切を渡り坂を上った。
家の前までついた時には俺の足は力が入らなくなっていた。
玄関に入り、妹を座らせる。
「千花~ついたよ。起きな。」
「ん~」
目をこすりながら歩く妹を後ろから見守りながら
洗面所まで連れていく。
手を洗わせて、うがいをさせていると後ろから人の気配を感じた。
「誰かいんの?」
誰かは大体想像はついていたが一応聞いてみた。
「俺だよ。」
声の主は父親だった。
千花の手と口を拭きながら、
「父さんか、今日は早いね、もうお店閉めたの?」
と尋ねてみた。
「あぁ、今日は完売してな。」
「へ~。」
「なぁ、駿。」
「なんだよ。」
「お前ちゃんと進路のこと考えてんのか?」
またこの話題か。
もう何回も暇さえあればそう聞かれてきた。
「俺、まだ高2だぜ、早くね。」
少し軽くそう答えると父は少しむっとした顔をして
「もう、だろ。お前の人生はお前で決めなさい、」
と口調を固く答えた。
「わかってるよ」
そう投げ捨てて自分の部屋へ戻った。
中3の時、高校選びのことで父とはもめた。
俺は音楽関係の仕事を目指していたのでそれ関係が充実しているところに
行こうと思っていた。
でも、秋の三者面談の時にそれまでは何も言わなかったのに、
いきなり先生の前で自分は反対していることを宣言した。
先生も俺の志望先にはよく顔をしかめていた。
だからだろう。
その日のことはよく覚えている。
父がそう宣言した後、俺は驚いて父の顔を見た、
すました顔をしていた。
そのあとすぐ
「音楽で食べていくのは大変ですからね、
今の時代プログラミングとかITの仕事はいいですよ。
夏樹君成績優秀なので進学校でも工業高校でも狙えると思いますよ。」
と言ってパンフレットを差し出してきた。
示されてきた高校は、どれも音楽関係に携われないようなつくりだった。
「なぁ、あれどういうことだよ。」
家に入るなり俺はそう言った。
「いい機会だから言っておこうと思ってたんだよ。」
「なんだよ、それ。結局自分の願望押し付けてるだけじゃねーか!」
そう言って俺は家を飛び出した。
夜中に家に戻って自分の部屋へはいると俺が集めたCDもギターもアンプも
全部捨てられていた。
とても大事にしていたものだった。
自分の意見を言っても結局無駄だなのだと身に染みてよくわかった。
その後のことはあまりよく覚えていない。
俺はセミの抜け殻みたいにからっからになった。
成績は維持しないと後がめんどくさいので勉強は続けた。
担任の先生はきれいごとばかりで反吐が出そうだったが、
下手に反抗してめんどくさくなるのが嫌だったので優等生を演じた。
親の説得も先生の圧力も何もかもめんどくさかったので
最寄駅から3駅隣の工業科の男子校に入学した。
全部がどうでもよかった。
そんなめんどくさいことをまた思い出してしまった。
「くそが。」
そう吐き捨てて音のしないヘッドフォンを耳に当てた。
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