第8話 追い風の力

「今回、魔獣に届くことはできなかったが、支配下の獣を一掃した!さらに、元蝶の盾宮本焔さんが魔獣の腕を切り落とした!この機を逃さず次は魔獣を倒すぞ!」

イフウが風の軍隊の士気を挙げていた。

イフウの手には焔が持って帰った魔獣の手が握られていた。


風の軍隊にはイフウ同様隊長があと6人いる。

その全員が風のマキアシリーズを持っていた。

焔は全員にあいさつをすましていた。

その中で弓使いと銃使いの女性2人と話していた。

「あなたたちが、さっきの戦いで援護をしてくれたんだな。」

「ええ、はじめまして。」

弓使いの女性はふわりとした金髪をしており、非常におっとりしていた。

そこに真面目そうな黒髪の銃使いが口を開く

「先の戦い、何か不手際があったのだろうか?」

「そんなことはない。非常にいい援護だった。まるで弾や、矢が風に舞っているようだった。」

「それは私たちの武器の力ですわ。風のマキアシリーズは風を操る力を持っていますの。その力を使って、矢を風に乗せ、縦横無尽に飛ばしていたんですの。」

「だから、あのように物理法則を無視した動きをしていたのか。」



3人で話しているとイフウが焔のもとに来た。

「宮本さん、フウリン様から伝言です。話があるからわれのもとに来い、と」

「承知した。ありがとう。では失礼します。」

焔は3人に礼をして、フウリンのもとに戻った。


「おかえり。よくやった。」

「ありがとうございます。しかし、命までは落とせませんでした。」

「よい。此度の衝突で魔獣の支配下の獣は一層できた。風で森に探りを入れた。」

「良かった。あの魔獣、明らかに連携を取っていました。おそらく一匹の命を取った瞬間、私は残ったほうに殺されるでしょう。」

「ならば、3匹同時に叩かねばならんということだな。」


少し沈黙が流れた。

「フウのことについて話さねばならんな。」

フウリンが口を開いた。

「この風車は、この王国の教会のようなものだ。つまり神官がいる。」

「聞いたことがあります。フウリン様の一番近くにいる存在だと」

「神官は、風のマキアシリーズの杖を受け継いだものがなる決まりだ。」

フウリンは語る。

神官は、神の側近であり、風の軍隊のトップ。つまり、フウリンが頂点に立つジャム王国の中で、人間の中で一番権力を持っていて、一番強い存在だと。


「しかし、先代は5か月前に死んだ。そしてその役目を受け継いだのが、フウだ。」

「しかし、あの子は」

「内気な性格故に、その役目を果たせていない。それもあり、風の軍隊は実質的なトップを失っている状態だ。しかし、あの子が前に出れないのは私の教育があの子に合わせて上げれていないのが原因だ。」

「理解しました。しかし、その話と魔獣に何の関係が?」

フウリンは焔を見つめる。

「私はこの機会が好機だとみている。おぬしの戦うさまをフウに見せてほしい。あの子は勉強熱心な子だ。きっとおぬしの戦い方から何かを学んでくれる。」

「私に何をしろと?」

「おぬしを鍛えてやる。」

焔は、少し笑いそうになる口を頑張って動かさないようにした。


「なぜそうなるのですか?」

「おぬしの戦いを見て思った。エンジン剣から炎を切り離せていない。エンジン剣に炎を纏わせているだけだ。しかし、私の風の力を使えば、小さな火種でも広がり、燃え盛る。」

フウリンが指先に風を纏わせ、遊び始めた。

「それに私自信がおぬしに興味がある。風の力を纏ったおぬしに」


「こちらに来なさい。風の流れをつかむ訓練をしてやろう。」

「神様からの訓練。まさか私が稽古をつけてもらえるとは。」

「不服か?」

「いえ、喜んでお受けします。私は、殺さなければならない人がいる。ヤツの喉元に届くのならなんだってやります。」

セラといる時には見えなかった殺気が焔の目に映っていた。

フウリンはその目を見て、面白そうに微笑む。

「風を恐れるな。風を味方につけろ。」


中が完全に空洞の円柱の塔に案内された焔は正座をしている。

焔は、鍛錬の時にいつも着ている死装束を着ている。

正面にいるフウリンが突風を起こす。

「強すぎる風は、火を消してしまう。しかし、適切な量の風であれば、火種が火となり、炎になる。」

焔はエンジン剣をゆっくり抜く

「風の流れを読み、火が大きくなる角度を見つけるのだ。」

「しかし、エンジン剣に風邪を起こす力はありません。」

「自ら風邪を起こせ その答えを探せ」

「答えなら出ている。」


フウリンは焔をにらむ。

「エンジン剣に風を起こす力はないが、私にはある。」

フウリンは目を見開く、そして自然と笑みが溢れた。

(私は彼女の復讐心を侮っていた。これだから人間は面白い。これならフウも)

焔は、エンジン剣のグリップを回す。

フェーズ1

剣に火が灯る


そして焔は宙を舞った。


次の日

森の入り口には、風の軍隊が並んでいる。

緑の鎧を着た隊長7人も武器を携え、いつでも戦える状態になっていた。

そこに、エンジン剣を持った焔がやってきた。

「まぁ!」

弓使いの隊長が思わず声を上げた。


焔の髪がコゲでチリチリになって痛んでおり、肌も汚れていた。

「焔様!何があったのですか?」

「おはようございます。フウリン様に稽古をつけてもらってな。」

「まさか、フウリン様が我々以外に稽古をつけるとは」

イフウが驚いたよ雄で声をかけた。

「皆の者、よく聞け」

フウリンの声が風に乗って聞こえてきた。


風の軍隊の皆が姿勢を改める。

「此度の戦いは焔殿がカギだ。よって、皆はサポートに回れ。」

「はっ!!!」

風の軍隊の皆が声を上げた。


焔は一人で森を駆け抜けていた。

森をコの字に風の軍隊と隊長が囲っていた。

弓使いの隊長と銃の隊長は木の上に登って待っていた。


「神威式型エンジン剣!」

エンジン剣を引き抜き、右に振り下ろす。

すると、飛び出してきた熊の魔獣の攻撃を防いだ。

(豪快に来ないあたり、こちらを警戒しているな。そしてこいつは囮!)

後ろに横切りをすると、まじかまで迫っていたオオカミの魔獣の牙の攻撃を防ぐ。


「囲まれていたか」

「もう一頭の魔獣も見えました。」

風に乗せて、弓の隊長の声が聞こえた。

風の隊長たちは風に声を載せて通信をする。

その知らせが焔に届いた。

「合流まで約3分です。腕も回復済みです。」


「どっちの方向?」

「北から」

「なら私を囲いやすいように、そっちに向かおう。」


「わざと囲わせるのか?!危険だ!」

イフウの焦りの声が聞こえた。

「3体同時に倒すから、そのほうがやりやすい。」

焔は残り2体を引き連れて北に走った。


もう一体の魔獣と合流し、焔はエンジン剣のグリップを捻る。

フェーズ1

(風を起こして、炎を切り離すイメージで)

焔は1回転するために足に力を込めて、体を捻る。そして、少しだけ跳ねる。

焔が開店する勢いで、風が起きる。

しかし、3体にその斬撃が当たることはなかった。


(風が弱すぎた!)

当たりはしなかったが、炎にたじろぎ、3体が動きを止めた。

その一瞬を見抜き、熊の魔獣の背に跳んで、包囲網から抜け出す。

「そこから倒すことはできないのか?」

イフウから疑問が飛ぶ。

「1体や2体なら倒せるけど、どう考えても3体目がそのすきに攻撃してくる。そしてその攻撃をよけることはできない。」

焔は焦ってはいなかった。むしろもう一度挑戦するために構えなおしていた。


その時、森全体に突風が吹き荒れた。

「これなら」

焔は風を読んで宙に跳んだ。もう一度グリップを捻る。

フェーズ1

3体の中心にもう一度飛び込む。

着地に成功すると、浅く回転切りを放った。

「風装・炎舞!」


風に乗り、3体の獣がいる方向へ、炎の斬撃が刀身を離れて飛んでいく。

風によって威力が増して、炎の大きさは3倍になっていた。

3体の魔獣は、放たれた斬撃によって縦に真っ二つになってしまった。

「任務完了。3体の死を確認。」


イフウと弓の隊長、銃の隊長が焔のもとに現れた。

「やりましたね。」

「お疲れ様です。」

「本当に3体同時に倒したのか。」

4人が緊張を解いた瞬間、焔は殺気を感じ取ってエンジン剣を構えなおす。

「!」


「どうしました?」

3人はなぜ焔が構えたのか分からなかったが、10秒後とんでもない殺気を感じ取った。

「森全体に殺気が満ちている!全員退避だ!」

フウリンの声が響く。

しかし風の軍隊、隊長の皆はあまりの恐怖に武器を構えることもできず立ち尽くすしかできなかった。

動けば死ぬ。ただ皆の本能がそう告げていた。

その中で、焔だけは息を整えて、殺気の先を見ようとした。


木々の間から見えたのは、とんでもない巨体の獣だった。

先ほどのオオカミの魔獣は普通のオオカミの三倍の大きさをしていたが、さらにその何倍も大きな巨体だった。

そして、3つの首があった。それぞれオオカミのような顔だった。

焔は、姿を確認するとその魔獣に殺気を放った。

その瞬間、その魔獣は去っていった。


「あれが3体の魔獣を操っていたようだ。」

風の軍隊と焔がフウリンの元に帰ると、フウリンがそう告げた。

「もうどこか遠くに行ってしまったようだがな。」

「あれはなんだったのでしょうか、フウリン様?」

イフウが訪ねる。

「あれは魔獣の頂点に立つ種族、幻獣種だ。」


「魔獣とは、もともと存在していた生き物が負のエネルギーが蓄積して誕生する。

幻獣種は、大昔に神が作ったとされる幻の生き物が負のエネルギーの発生源になった存在だ。魔獣の長と言ってもいい。この世の理から外れた存在だ。」

「神が作った生き物、そんなものが存在するのですか。」

焔が訪ねる。

「神の中の一柱である私でも存在しているのかどうかも分からん存在だ。だが、現に現れた。何が原因かは分からないがな。しかし、考えても仕方がない。」

「幻獣種はあの一体ではないですね?」

「その通り。3つ首のオオカミのような顔。あれはケルベロスだ。」


「とにかく焔殿、此度については力添え感謝する。」

「いえ、セレナ女王からの依頼でしたので」

「それでも、助かった。あやうく王国一つ滅ぶところだったのだから。報酬はセラのお嬢ちゃんに渡している。」

イフウが前に出る

「我々からも。助かりました。またお会いすることがあればよろしくお願いします。」

「ああ、よろしくな。」


「おねえちゃん、お疲れ様。」

「おまたせ。いい子にしてた?」

「うん。」

「それじゃ、いこうか。」

焔とセラは、森を横切って次の目的地に向かった。

フウリンによる祝福のそよ風をその身に受けて。


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赤髪の炎 兎速 香声 @uhayakasei0423

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