延長戦

 Side 赤城 レツヤ


 =昼・黒ヶ崎 ビルの廊下=


「何なんだよ、何なんだよ!? どいつもこいつも手のひら返しやがって!? ふざけんなよ!? 」


 全てが終わった。

 超常的な何かが起きて、堺知事や黒ヶ崎社長の悪事や明智 誠二の悪行、赤城 レツヤの行いも全てが世界中に知れ渡った。


 もはやEー00ファイルは効力を発揮しないだろう。

 頼れるのは自分の身分、総理大臣の愛人の息子と言う肩書きが効力を発揮するかも分からない。

 まさか事件が世界の存亡規模にまで発展するとは思わなかった。

 民衆はその怒りの矛先を確実に自分にも求めるだろう。


「もう終わりにしましょう。赤城――」

 

 そんな赤城 レツヤの前に現れたのは—―青峰 せいなだった。

 まるで憑き物の全てが取れたような顔だった。

 後ろには辻沢 風花、北川 舞など大勢の人間がいる。

 赤城 レツヤの周囲が取り囲まれた。

 子供でも分かりやすい終わりの時だ。

 レツヤはその場に座り込んだ。


「私も同じ穴の貉だから。犯罪者として捕まってあげる」


「何が犯罪者として捕まってあげるだ!? このビッチが!? 今更ヒーロー気取りか!?」


 レツヤが火が付いたように。

 どうせ最後だから言いたい事は全部思いついた端から言う事にした。


「どいつもこいつも正義の味方面しやがって!? そんなに世界を救ったのがえらいのか!? いいか!? 言っとくがな、世間の連中は一時は感謝するが、それだけだ!! 一ヶ月も経てばどいつもこいつも、ああそんな事もあったねとか言って忘れやがるんだ!!」


「ロボルガーXの時がそうだったろ!? マスコミの連中はまるで芸能人の不倫と同じような感覚で大はしゃぎしながら報道しただろ!? ぶっちゃけ、世の中の人間は自分さえよければどうでもいいんだ!! 自分さえよければ誰誰が死のうが、辛い目に遭おうが、日本がブラッドスペクターに支配されようが、ブラッドスペクターを倒そうが、どうでもいいんだよ!!」


「ヒーローなんてどいつもこいつも本当は承認欲求が欲しい、人気が欲しい、良い暮らしをしたい、正当な理由で暴力を振るいたい、女にモテたい、抱きたいとかそんな理由の奴ばっかりだ!! 実際ナンバーワンヒーローの肩書きに見る目のない女が群がって来る!! 女なんて多少ルックス良くて、モテ要素が2、3あって口説き方さえあれば股を開きやがるんだ!! 信じられないなら俺のスマホのリストを見て確認してみるといい!!」


 などとあらん限りの罵詈雑言を絞り出す。

 だが言葉が出尽くしてこれ以上何を言えばいいのか分からない。

 誰も何も言わなかった。

 ただ静かにせいなが駆け寄り、「気は済んだ?」と言う。 


「私も気持ちは分かる。私はアナタと同じだったから」


 そしてせいなは自分の気持ちをレツヤに語り掛ける。


「幾ら不平不満を嘆いても、腹は膨れない。世の中は変えられない。だからと言ってやり方を分かってて間違えれば相応の報いがくる。それに気づくのが遅かっただけ」


「私、自首する。これから先の人生、何処まで出来るか分からないけど、罪を償って生きていくよ」


 それを聞いて赤城 レツヤは「はっ、バカじゃねーの。そんな事しても世の中変わらないよ」と言うが、セイナは「それでも構わない」と言った。


「世の中はそんな簡単に変わらない。当たり前だよ。皆それが分かってるから私達みたいなのが幅を利かせていたワケだし。だけど私達は無様に敗北した。例え勝利していたとしても、ただ死んでるような人生を生きるだけの道を歩んでいたと思う」


「世の中、本当に変えたかったら――自分自身が変わって、周りの人達に呼び掛けて、様々な苦難、困難にぶち当たって乗り越えて、それでようやくスタートラインに立てるの――ちょっと頑張っただけで変わる世の中なら、そんな世の中滅んじゃえばいいんだよ」


 と、最後は過激な物言いで締めくくる。

 だが言ってる事は道理ではあった。

 少なくとも何も考えずに言ってるワケではない。

 キチンとした意見の一つだった。

 だから誰も何も言わなかった。


「――最初から何もかも道を踏み外した結果がこれか。逮捕してくれ。もう、何もかも、全てがどうでもよくなった」


「死刑になっても文句はいわねーよ。死刑するなら手短に頼む」


 赤城 レツヤは憑き物がとれたように言う。

 

「俺は世の中変えたいとか、NO1ヒーローとか、そう言うの本当はどうでもよかったんだ。ただ――愛されたかっただけ。それだけだったんだ」


 そう言って赤城 レツヤと青峰 せいなはお縄に付いた。

 

(全部終わったんだ……)


 すっきりとしない。後味の悪いものを感じる。

 だがそれでもいいかと風花は思う。


 そして――

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る