知り合い以上友達未満の関係ができてホッとしたクラス長は、この熱感が冷めないようにどうしようかと色々考えていた。

「長暮、ちょっといいか。」

　仏頂面の担任は何か言いたげな顔でこちらを手招きする。

　昼休み、お腹いっぱいで眠たい気持ちを抑えて数学の準備をしていたクラス長は教師の呼び声で起こられるのかもしれないという恐怖から全部吐きそうになりなっていた。

「ど、どうしましたか。」

「昨日さ、掃除3人でやったの？」

「あぁ、前の二人がすぐ部活のミーティングだったらしくて…」

　担任は不満そうに"そうか"と渋い顔をすると、いつも通りの表情に戻して

「わかった、ありがとう。」

と良いながらクラス長を返した。

「......ふうぅぅぅぅぅ、よかったあぁぁぁぁ。」

　教室に戻った時にでたのはゲロではなく大きな心情。

　しかし心配そうな顔つきは止まらないクラス長に、昨日を拳を交わした彼らはチラリ見つめて少し心配そうな顔をする。

「クラス長、大丈夫だったか？」

「いや、昨日の掃除の話で。」

「「あ～ね～。」」

　彼らはハモって納得した。

　ハモったというよりはどっちもアルトだったが。

「二人はなんの話？」

「あぁ、カラオケの一撃目何歌うかっていう話。」

「へえー、カラオケ！いい！いいね！」

　これぞクラス長が望んでいた休み時間トーク。

　クラス長はその会話に心の中で喜びながら椅子を引きずりながらスムーズに参加する。

「クラス長は.......？」

「うーん、でも大体盛り上がる系かな？」

「あ、俺らと違う回答だ。」

　クラス長の答えにハッと仲田と二釈は驚く

「俺と二釈は大体初めて歌ってみる奴じゃない？って。」

「え？そういうのって中盤のちょい飽く時間とかじゃない？」

　まるでパラレルワールドを生きてきたのかというほどの噛みあわなさに、お互いあまり生み出したくない沈黙が生まれる。

「あー、俺が一人カラオケに行くときはこんな感じ......。」

　二釈はそう言いながらスマホを取り出し音楽アプリの画面を開くと、そこには昔のポップスからネットで流行っている楽曲まで幅広く取り込まれたセットリスト組まれていた。

「え、カラオケ行くためにセトリ組んでるの？」

「まあ…...悩む時間もったいないから.........。」

　なんとなくその意見は理解できるが、一人カラオケガチ勢の二釈の意外性に驚くクラス長、その反応とは真逆に"わかる"と共感しながらうなずく。

「え、仲田さんも？」

「まあ、授業中はずっと考えてるよ。」

　仲田は机の間から自由帳代わりのノートを取りだし、精巧に組まれたセットリストを見る。

「え、ガチすぎるだろ二人とも。」

二人はスマホとノートを交換しセトリを眺めながら時々笑ったりして沢山頷きあっている。

「同じアーティスト連続で歌いたい気持ちわかる～。」

「あぁ、ここで一回しっとり系のゾーン挟むのいいね....…。」

「あ！俺もこの曲入れてる！」

「いやー、合計時間出るのいいなサブスク。」

「そっちも普通のバージョンとアウトロカットしたバージョン分けて書いてあるのすごいな......。」

　二人の共鳴に少し引きながら、このままだとまた一人の生活になってしまうことを恐れ無理矢理入っていくクラス長。

「な、なんで3時間のセトリで20分くらい余らせてんの？」

　クラス長の素人質問に二人は優しく寄り添って回答する。

「ほら、ドリンクバーとかトイレとかあるじゃん。」

「あー、確かに。」

「そうそう、あとMCとかするじゃん普通に......。」

「え？二釈君一回ストップ。」

　仲田の納得する回答は通したが、二釈の納得いかない回答を一度静止するクラス長は、深くうなずいて共感しようとする仲田の顎をノールックで抑え、真っすぐとした目線で二釈に問いかける。

「え、二人MCすんの？」

「当たり前っしょ。」

　そう言いながら二人はカバンの中から自分用のマイマイクを取り出して、MCのジェスチャーをする。

「受付とかで買えるあのマイク買う人いたんだ.......っていうか学校持ってきちゃだめだよ普通に。」

「え？普通に買うもんじゃないのこれ。」

「あぁ、もしかしてクラス長は店の使うのか.......？」

店の使うだろ。

　と思いながらも、当たり前の顔をして色違いのマイクを見せ合っている二人を見ると反論できなかった。

　マイノリティに挟まれたマジョリティは必然的にマイノリティになってしまうことを実感したクラス長は頭を抱え、二人の"して当然だろ"と言わんばかりの目線に少し恐怖を感じる。

「え、てかクラス長はMCしないの？」

「しないよ！！」

「え、じゃあどうやって盛り上がるの......？」

「曲だろ！！」

　二人は少し首をかしげながら無理やり納得した。

「二人のMC見て見たいし今日帰りにカラオケ行かない？」

「あぁ、いやそれは........。」

「......クラス長の前で歌うの恥じいかもな。」

「どこ恥ずかしがってんだよ！」

　

　彼の声が響いたと同時に鳴り響く5時間目の始業チャイム。

なんとなく三人の立ち位置が決まった気がした。

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おまけ

　授業が終わり、掃除の時間になった。

「さっきなんとなくで言ったけどカラオケマジで行く？」

　クラス長は前回のゲーセン帰りが初めての寄り道だったため、掃除中に少し緊張しながら二人の元へ聞きに行く。

「あぁ、全然俺は良いよ！」

「俺も......。」

クラス長の班は掃除をさっと済ませ、重たいカバンを背中に背負うと、あえてドスンドスンしながら階段を降り、まだ少しだけ世に吹く春風に包まれながら校門を出た。

「先にコンビニでなんか買うか。」

500円というルールを設け、三人はそれぞれ買い物をする。

「うわ、え？二釈君食玩買うの？」

「いやこれマジで探してたやつなんだよ......。」

そんなこんなで買い物を終えた三人はレジ袋を片手に、近くにあるボロボロのカラオケ店に足を運ぶ。

「じゃあジャン負け受付対応だな。」

「わかった。」

「ういー......。」

　無駄にデカい駐車場の隅で、素早くジャンケンを終わらせると

「マジで一回も勝てんなぁ....。」

　

クラス長はそう言って首をかしげながらスタスタと店内へ入って行った。

...数分後

「え、その感じ人いっぱい？」

　浮かない顔して出てきたクラス長を見て仲田がそう問いかけると、少し間をおいてゆっくり頷いた。

「うん...外ボロボロで中ギュウギュウ。」

「なにそれ、最悪のたこ焼き？」

「そう、最悪のたこ焼きだからカラオケ入れないや...。」

　仲田渾身のボケ例えを流してしまうほど落ち込んでいるクラス長。

　なにを思ったか、仲田はレジ袋を二釈に渡すと無駄にデカい駐車場でカバンを漁り始めた。

「クラス長、ここから盛り上がれますか！？」

「...え？」

　マイマイクを強く握りながらもう片方の手を高く掲げた仲田は突如MCを始めた。

「声聞こえないぞ～？盛り上がれますか！？」

「お、おー。」

「じゃあ、なんかこのお菓子家に持って帰って一人で食べるのも、なんか道中で気分じゃなくなったりしそうで気持ち的にもったいない気がするから、なんかどっか近くの公園とかにでも行って、なんかゆっくり話しながら交流を深める的な感じで食べますか！？」

「おー...って誰がコールでそんなダラダラ喋るんだよ。」

　三人はお菓子家に持って帰って一人で食べるのも道中で気分じゃなくなったりしそうで気持ち的にもったいない気がするから、なんかどっか近くの公園とかにでも行って、なんかゆっくり話しながら交流を深める的な感じで食べた。