どっかのクラス長

佐久間 ユマ

第一章 日常のはじまり編

第1話 どっかのクラスの新学期

「あー呼びに行くのめんどくさいな…。」

 不貞腐れながらワイワイした教室を出ていった彼の名は長暮ながくれエイジ、この学校のクラス長である。


 クラス長、別名学級委員。

 クラスの中では生徒以上教師以下の権力を持つことが出来る役職。

 しかし教師から生徒への伝言や、生徒から教師への言いずらい意見のどちらも聞いて行動しないといけないという観点で見てみると校内では感情に自由が利かないパイプ役である。


 眠たい理科の授業をなんとか舌を歯でゴリゴリしながら耐え、眠たい目をこすりながら職員室へと向かう彼がどうしてクラス長になったかというと…。


…数日前に遡る


「...え、ほんとに誰もクラス長やりたくないの?」

チャイムと同時に始まったクラス長決めから早20分、無言を貫き誰も手を上げないクラス全員は各々がこう思っていた。


"誰か行ってくれ…!!"


「勝手にこっちが決めたいけど、やりたくない人にやらせるのは今の社会的に問題になるしどうすりゃいいんだよ......!」


 クラス長になった長暮もこの時はその一人として教師の抱える頭を見守っていた。

 

 こんなに決まらないのであれば他の役員も決めればいいが、なぜか六澤も六澤で順番に決めたいと言うこだわりで意固地になってこんな時間になってしまった。


「わかった......おまえらがそうやって過ごすなら、俺はこの選択をとるぜ!!」


 クラスの空気に耐えられなくなった六澤はその言葉を教室に残すと、猛ダッシュで教室を出ていってしまった。


 まさかの行動に生徒全員あっと驚く。

 高校生活一日目から担任を職員室に帰らせたクラス。


 そんな噂が広まってしまった場合、やばい集団だと思われてしまうかもしれないその感覚が心臓から肌に巡っていく。


 落ち着いたふりをするクラス、全員がいつもよりちょっと上を向きながら吐く小さなため息で空気が重たくなり始めた頃、その重力に逆らうように席を立つ一人の男。


「…えっと、あ、あー。」

 言いたい言葉が全然出てこない彼は周りの視線を痛いほど感じながら、口から出てきてくれない行ってきますの言葉を大きな一礼で表現して外へ走っていった。


 色んな感情の強い視線を背中で感じていたが、一度立ち上がった足は一歩ずつ職員室へと向かっていく。


 ホッとする声や申し訳程度のざわつきを背に、六澤がくぐった中途半端に開いたドアを通り、誰もいない廊下で耐えられない緊張から解かれた心臓を跳ねさせながら小さい階段を降りてしっかり閉まった職員室の扉を開く。


「失礼します…六澤先生。」

「…え、長暮?」


 六澤は二度見をして軽い会釈をする。

 正直クラスの中でもパッとしないタイプなのは一目で見れば分かる、そしてそれは長暮自体も自覚している。


「いや...まあ、でもそうだな...ありだとな。」

「めっちゃ不満ありそうじゃないですか。」


 職員室で作業をする教員たちの目が痛くて仕方ない長暮はキョロキョロしながら担任に教室への帰還を頼み込む。

「ああごめんな、行こうか。」


 六澤は作業風に見せつけていたパソコンを閉じて立ち上がると、長暮と共に職員室に一礼してクラスへ戻る。


「はい、ということで…って」

「え?」


 部屋に入りながら目に入っていた黒板を見て二人は驚愕した。


「え、他の委員会決まったの?」


 長暮が教室を出てから戻るまでの時間の約5分、委員会の横に書かれたこれから覚えていく予定の名前。


「本当に職員室帰ったの間違いだったじゃないですか。」

「...帰りの会始めよかー。」


-------


……そんなこんなで今


「失礼しますー…あっ六澤先生。」

「あーおけ、少ししたら戻るよ。」


 引き出しを漁っていた担任の姿と目を合わせ、小さく会釈した後に教室へ戻る長暮         


「この呼びに行く作業意味ある…?」 


 何事もなかったように時が進むクラスの教壇に立ち、帰りの会の準備をする長暮を見ながらじわじわと席に着く生徒達。


「あ、長暮殿。」

「あ、どうした勝男さん。」


 小走りで近づいてきた丸メガネの彼は勝男がちおタク。

 喋り方や雰囲気で中々空気感を掴みづらいが、実は気が使える良い奴である。


「その、......が。」

「え…あっ。」


 "チャック"と口パクしながら長暮の前に立ち、席からの視点から見えないようにしている。


「マジありがと。」

「気にするなでヤンス!」


 下手くそなウインクをしながら舌を鳴らし席に戻る彼と入れ替わるようにやってきた女生徒。


「長暮くん、先生になんか言われた?」


 隣に立つスラッとした彼女はいつのまにか副クラス長になっていた瀧田たきだキラ。


「いや、特に…。」


 そっかと良いながらありがたそうに手を合わせて綺麗にウインクをした副クラス長は性格から勉学までとてもレベルの高い人間である。


 しかし、ほんの少し抜けてる部分があるため

"~親近感がある秀才~"

というキャラクターを確立した。

 そのため、長暮自体も副クラス長にこんな可愛い子がいるなら別にいいやとどうでも良くなっていた。


「はい、じゃあ始めます。」


 全員座り始めた頃、ちょうどよく戻ってくる担任。


「...えっとじゃあ明日の2時間目なんですけど…」


 これは自分自身のキャラクターを模索しながら慣れないクラス長という仕事をこなし、個性の強い生徒達と徐々に打ち解けていく日常の切り抜きである。


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