道中 花しりとり

 異世界に来て初めてのダンジョンを攻略した後、俺達はそのことをギルドに報告しに行った。


 その途中で3人組とも合流して7人の集団でダンジョンだった場所から出ると、辺りには魔力の流れから攻略した事を察したのか人だかりができている。

 その人達から熱烈な歓迎を受けて凱旋することになったが、正直攻略自体はレリアがひとりでやったようなものなのでちょっと気まずかった。

 それで彼らの人波を掻き分けていくと、その中にギルドの職員さんが2人来ていたので一緒にギルドまで行って報告及びダンジョン核の引き渡しに個別聴取を終えてこの事件は解決ということに。


 その後はキーツの親御さんにキーツをダンジョンに入るよう煽ってしまった子供たちとその保護者達を呼んでの説明があったけどこれはもう思い出したくない。

 それはそれはどえらい怒声が響いていた事は伝えておこう。

 まあ子供たちも自分達がやっちゃいけない事をやったということは分かっていたらしく、本気でキーツに謝っていたので大丈夫だろう。

 意外にもキーツの親から他の子の親達に要求したことは自分の子に二度と考えなしの行動はしないように言い聞かせておくことだけだった。

 きっとあの人もキーツに友だちが居なくなってほしくなかったんだろうなと思う。


 そこでキーツ達とは別れて、6人になった後ギルドからダンジョン攻略の報奨金が貰えたので分け前を相談する。結果レリアが7で俺が1、後は3人組が持っていくという結論になった。

 エルドの分が無いのは、よくよく考えてみれば俺は何もしてなかったと本人が発言したことで全員納得したのでこの形に落ち着いた。正直言えばレリアが9割持っていっても良かったんだけど、これも本人がこうすると言ったのでしょうがない。

 それで報酬を得た後はエルド達も帰ることになって、4人と手を叩きあってまたいつかと約束し別れた。

 俺はまだギルドでやる事があったので居残ることに。

 理由はもちろん雑用係の登録。


 街に入る時に審査官のヴェイニさんから転生者だからと貰った紹介文を受付の人に渡すと個室に通され手続きをする事に。

 登録する前にダンジョン入っていた事や街に来てから既に一日経っていた事で呆れられはしたものの見習い職自体は受け入れられて無事ギルド職員(雑用係)ということになった。

 こちらに来てから……なんだったら向こうの世界を合わせても初めての仕事にちょっと緊張したものの既に雇われたのでこれから頑張ろうと気合を入れる。


 初仕事は明日の昼からということで一日空いて暇になったのでその後はレリアとひたすら街をぶらつく。そのまま夜はレリアの家で一泊泊めて貰った。

 割と緊張したものの結構疲れはあったのですぐに寝て、起きた時にはもうレリアが朝の用意をしていたので特に何かのイベントもありはしなかった。

 そして朝飯を済ませた後は、レリアとも別れて仕事を覚えに街に出ていくことになる。

 そこでようやくレオンさんのことを忘れていることに気づいた俺は、挨拶するために貴族街まで赴いた。


 ――という事があって、そこであの人に捕まってしまったというのが事の顛末だ。

 そんなこんなで色々あって、時はまる1日経っていた。


「あぁああああ…………。エラい目に遭った……」


 さっきまでレオンさんに捕まって尋問みたいな状態で元居た世界について吐かされ続けていた。

 知識欲が暴走して目がヤバイことになっていたレオンさんの質問は留まることを知らず結局5時間もこの屋敷に拘束されることになってしまった。

 本当に疲れたというか嫌になったというか過去の軽率にあの人に着いていった自分を殴りたくなったというか……。

 もう二度とあの屋敷には泊まるまい。


「やっと解放されたけどこの状態で俺ギルド行かなきゃいけないの……? 勘弁してよ…………」


 今は貴族街を通りながらギルドまでの道を進んでいる。

 疲れた……。いやマジでどうしよう。このままギルドに行くのはしんどいっていうか普通にキツイというか。

 いやそんな事言ったって行くしか無いんだけども。

 ちくしょう……。どうして異世界来てからこんな個性豊かなメンバーとばっかり出逢うんだ。レオンさんといいレリアといいちょっとは人の事情を鑑みて動いてくれよ。

 あの2人本当に似た者同士というかなんというか、本気で義理の兄妹とかなんじゃないのか。

 本当にさ…………。


「ああぁ、ギルド行きたくなぁ〜い……!」


「そうなのか、まあ仕事など誰もが好きでするものでは無いからな。気が優れない日は嫌にもなるだろう」


「まったくですよ……折角今日は初日だし頑張ろうって気合い入れてたのに最悪だ…………っん?」


「ふむ…………そんなに嫌なことがあったのか。それはご愁傷さまなことだ。まあ頑張って気を入れ直してくれ」


「えぁ……?」


 なんか居る。

 いつの間にか隣に金獅子の如き人が居る。

 さっき屋敷で俺を連れ込んで部屋に閉じ込めひたすら質問攻めにしてきた人が居る。

 ていうかこのハイロンド第1王子レオン・アルクレシアさんその人が居た。

 気づかぬうちに当たり前のように俺の横をとり普通に並んで歩いていた。

 えっ? いつから……?


「あの、ずっと居ました……?」


「そうだな……「エラい目に遭った」とか言っていた頃には後ろに居たぞ」


「もうそれあの屋敷出てからずっと着いてきてるじゃないですか…………」


 どうしてこの人達は気配を隠して近づいてくるんだろうか?

 敵意が無いから意識しづらいのを考慮しても上手く気配を消してくるの止めてくれない……?

 普通に結構怖いから。

 異世界来てからほんとに調子狂いっぱなしだしずっと人の接近に気づけないんだけど、感覚ズレてるのかな……?

 というかひょっとしてひょっとせずともあのシェンとかいう護衛の人近くに居るよね。

 本当にどこ居るか分かんないな。

 これでもゲームでは気配察知部門7位だったんだけどな…………。

 現実は甘くないということなのか。

 疲れも影響してる気はするけどな…………。


「――ところでこのままギルドまで着いてこようとか考えてませんよね……?」


「流石にそこまでは…………というかそもそもお前に着いていくつもりでここまで来た訳じゃないぞ。途中まで行く先が同じだったからこの道を歩いているだけだ」


「あっ、そうなんですか……。勘違いしちゃってすみません…………」


 なんだ、恥ずかしい。行き先が違ったらしい。

 間違いなく着いてきてるものだと思っていたらそうじゃないのか…………。

 それじゃどこに行きたいんだ……?


「あの、だとしたらどこに行くつもりなんですか……?」


「なに、ちょっと教会までいくだけだ。お前と出逢ったあの場所だよ」


「ああ、あそこですか…………」


 何故に教会へ?

 前回もあそこに行っていたし、ずっと何かを祈り続けていた。

 日課なのか……?

 意外にも信仰心強めの信者……?

 この人が……?

 イメージつかないな…………。

 正直祈ったりしてるのもこれまで接してきた感じ驚きで、何か祈るぐらいなら自分で動いて叶えるってタイプだと思ってたけど。


「まあそれなら確かに途中まで一緒ですね」


「ああ、だからまあ分かれ道までは着いていこうと思ってな。お前もまだこの街に慣れてないだろうし迷うかもしれないだろうからな」


「いや流石にこの先は真っ直ぐ行けば辿り着けますし迷いませんよ…………」


 この道は街を二分するメインストリートで教会への道にも繋がっているし、そのまま直進すればギルドに着くので迷いようがない。

 これで迷子になれたらそいつはもう呪われている。

 まあそもそもゲームで既に覚えた道なのでどちみち重要な施設には辿り着けるのだが。

 しかしそれまで暇だな…………。

 しりとりでもするか。


「暇ですししりとりでもしません? 花の名前縛りで」


「何故に花限定…………まあいいぞ。俺には勝てないだろうがな、ネモフィラ」


 できんのかよ。冗談だったわ。

 まさかの発言にびっくりである。ら、ら、ランタナ…………。

 な、なでしこ……!? くそっ……! 俺の好きなやつを……! おのれコオニタビラコ……!!

 結局その後別れ際まで戦い続けることになる。

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