第42部 4202年42月42日
何もない空間に僕はいた。
何もない空間というのは、その空間の中には如何なるものも存在しない、という意味であって、空間自体は存在する。この場合、しかし、僕はその空間にいるわけだから、多少の矛盾を感じる。僕以外の何ものもない、という注釈付きなのだろうか。
「chigau yo」
突然背後から声が聞こえて、僕はそちらを振り返る。見ると、彼女が僕の後ろに立っていた。後ろで手を組んで、少し笑みを浮かべながらこちらをじっと見ている。彼女にしては、珍しい素振りや表情だった。
「kimi ga, kono kuukann sono mono na n da yo」
そうか、と僕は理解する。
「しかし、そうだとすると、君は、どうしてここに存在できているの?」
「watashi mo, kimi to issyo ni, kuukan da kara」
「君と一緒に空間って、なかなか奇妙な表現だね」
その空間に本当に何もないのであれば、色も存在しないはずだ。しかし、何もない空間というのを想像するとき、僕の頭の中には、必ず真っ白な平面が四方に広がっている様が想像される。
彼女がゆっくりとこちらに近づいてくる。
「koko de, nani o suru ?」
「何をって……」僕は考えながら話す。「何もないってことは、空気もないはずなのに、どうして、僕達は会話をすることができているの?」
「kotoba wa aru kara da yo」
「どういうこと?」
「dou iu koto da to omou ?」
僕は黙って考える。何もないという状況を想定するためには、言葉が必要だということだろうか。たしかに、何もないとしても、それを表現するためには「0」や「×」といった記号が必要だ。 と表現したところで、それが何もないことを表していると解釈されることはほぼないだろう。
僕はその場にしゃがんで、真っ白な床に触れてみる。
僕自身が空間だから、触っても、触った、という感じはしなかった。何も感じない。しかし、それは、何も感じないということを感じる、ということ。
彼女がゆっくりと僕の背中に腕を回してくる。
はっとして辺りを見回すと、空間は一瞬の内に真っ黒になっていた。
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