第40部 4202年40月40日
珍しく、夜に目が覚めた。
僕は布団から起き上がり、窓の傍に寄る。しかし、どういうわけか、外は見えなかった。おかしいな、と首を傾げつつ、僕は階段を下りて玄関に向かう。ドアを開けて外に出ると、また家の中にいた。
どうやら、窓やドアの外というのが存在しないようだ。窓とドアが鏡のような役割を担っていて、正反対の二つの空間を繋いでいる。
きっと、これも彼女の魔法によるものだろう。チープなアイデアだが、体験してみると面白かった。
僕は、今やって来た方の家で、彼女が眠っている部屋に向かう。いつもと何もかもが反対だった。普段は時計回りに上がっていく階段を、反時計回りに上がる。部屋の前まで来ると、ドアの右側に付いているはずの把手が、左側に付いていた。僕はそれを開けて部屋を覗く。
覗いた傍から、僕が姿を現した。
「あれ、僕じゃないか……」僕は言った。「彼女は?」
「彼女はって、君が彼女じゃないか」こちらの世界の僕が言う。
「え?」僕は驚く。「さっきまで、何もかもが反対というのは、そういう意味じゃなかったと思うけど……」
「何もかもが反対というのも、反対になるんだよ」僕ではない僕が言った。「つまり、君が妥当だと考えたことも、実は反対だ」
「随分と都合がよすぎるんじゃあ……」
「君は、彼女だろう?」反対の僕が提案する。「ちゃんと、話し方も彼女みたいにしないと」
「sou ka」僕は彼女になって言った。「konna kanji ?」
「そうそう」僕は頷く。
私は、僕と一緒にもう一度布団に入ることにする。私は、布団の中に潜るのが嫌いだから、天井に浮かんだ。もちろん、一枚しかない毛布は、私が使わせてもらう。
「ちょっと」私の下で彼が言った。「ちゃんと寝てくれないと」
「oyasumi」私は告げる。「moufu ga hoshikattara, koko made oide」
私は、いつも私が言っているように言い返す。
私は、今は私だから、魔法の使い方が分かった。思っていた以上に簡単そうだった。文字を書くくらい簡単かもしれない。
しかし、当の魔法……、何もかもを反対にする魔法だけは、解けそうになかった。それは、その魔法によって、魔法を使えるのが、私ではなく、彼になってしまったからだろう。
「nee」私は言った。「onegai. watashi no mahou o kaeshite」
「嫌だよ」眼下の布団の上で、彼があかんべーをしながら言った。「魔法が欲しかったら、ここまでおいで」
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