第6話 

  こういう時ってなんて言うのだろうか? 運命というのか、はたまた偶然というのか?


もしくはこれは奇遇と呼ぶべきなのだろうか。まあなんにしてもこれは偶然を越えた何かと思うことにしよう。


つまりだ。俺たちを訪ねてきたのは大きな大剣を背中に背負い、汚れたローブを身に纏っていた女冒険者がいた。


しかもしばらくここで寝泊まりをさせて欲しいというのだ。これはどう捉えるべきなのか?


ともあれだ。部屋に訪ねてきたお姉さんはびしょ濡れで風邪をひいてはまずいと思い、風呂場を借して、今はシャワーを浴びている。


俺とナナセはさっきまで口論していたのにも関わらず、今の状況についてともに考えていた。



「これって、どうなんだ?」


「どうって言われてもそんなの普通に宿がなくて、たまたまここへ来たのではないか?」


「いや、バカかお前! バカなのか! こんなの完全に俺が求めてた理想の展開だぞ。これは完全に俺に救いを求めてきた美少女に違いない」




風呂場から聞こえてくるシャワーの音を聞きながら俺はいろんな意味で興奮していた。


もしこの場にナナセがいなかったら、俺はこんな普通に理性を保つことは難しかっただろう。


しばらくするとシャワーの音が止まり、風呂場からこちらに向かってkる足音が聞こえてきてその女冒険者が素顔を現した。


その姿を見たとき俺はいろんな意味で驚いた。


その女冒険者は人間ではなく、頭に二本のツノを生やした鬼のような、というか鬼だった。


鬼だからなのか、背丈も俺より高く、体も女性とは思えないほどのガタイのいい体をしていた。


だが、それよりも俺はその冒険者の顔に目を奪われた。理由は簡単だ、とっても綺麗な顔をしていた。


この場合、不謹慎だと言われるかもしれないがこう言おう、めっちゃ美人!



「ええっと、あなたはなんですか? なんでここに?」


「……すまない、この部屋しか明かりが灯っていなかったので急なご無礼をした。申し訳ない」



俺の問いに少し戸惑いながらも謝罪をされてしまった。だからこそ、これ以上何も言えなかった。


というよりも美人で綺麗な人だから許さないなんてことがあるか? いや、ない!



「私の名はツクヨ、見ての通り鬼人族の職業は戦士だ。よろしく頼む」



ツクヨは自己紹介をしたあと、ニコリと微笑みかける。


ここで俺はあることに気づいた。それはなぜこんな美人の鬼人族がこんな夜更けに、しかもこの土砂ぶりの雨の日に。


そんな俺の疑問を悟ったのか、ツクヨはその理由を話してくれた。



「ああ。実はとある討伐で遠くの地へ赴いたのだがすぐに終わってしまって帰路に着くところだったが途中で大雨に降られてしまってな。今日はなんだか運が悪いみたいだ」



そんな自虐的なことを言いながらも笑うセナ。それは災難だった。



「討伐って、なんの討伐ですか? やっぱり凶暴なモンスターとかの討伐だったりするんですか?」


「まあ、そうだな。ただ一撃で終わってしまうからあまりいい見本とは言えないんだ」



なるほど。一撃で倒せる雑魚モンスターということか、このお姉さんならやってしまいそうな感じだな。



「そんな雑魚なら、放っておけばいいんじゃないんですか?」


「それはダメだ! そんなことをすれば、いずれ近隣にも被害が及ぶかもしれないんだ。その前に討伐しておくんだ!」



俺がそう言うとツクヨは突然大きな声で凄んできて俺はびっくりしてしまった。というよりも何か焦っているように思った。



「…すまない。なんかすごくバカなことを言ってたから」


「ああ、なるほど……」



はて? 俺、そんなバカなこと言ったか? 疑問に思ったが彼女のあの表情を見たら言うことはやめた。



「あの、一つ聞いてもいいでしょうか?」



質問しようとするナナセはにツクヨは「ああ」と言って承諾する。



「そもそもあなたのような人がなぜこんな辺境に?」


「いや、だからそれは魔物を……」


「それは知っています。だからこそなぜここへと聞いてるんです」



今回は何やら真剣で眉間に皺をとせているナナセに俺は不穏なことではないと感じた。



「あなたは魔力値が高いとは言えませんが、その大きな剣を使うほどの魔物はこの近辺にはいないはずです。それなのにここにきたということは何か知られてはいけないことでもあるのでしょうか?」


「なにが言いたいんだ?」



ナナセに勘ぐられたことでツクヨは気分を悪くしたようで眉間に皺を寄せ、顔を曇らせた。



「いえ別に。少し変だと思っただけで特に意味はありません」


「おい、ナナセ。どうしたんだお前、そんなきつい言い方することはないだろ?」


「別に私は……」



俺はナナセに少し冷静になるように耳打ちすると、何やら不機嫌な顔でごにょごにょと言っていた。


なんかこの世界に来てからナナセの様子が変なことに気づいたのだ。



「今日は少し疲れたから、私は眠らせてもらう。すまない」



そう言うとツクヨは自分のローブを羽織って、背中に背負っていた大剣を抱き抱え、床に座り眠りについた。


こうやって見ると、なんだか軍人みたいな人だな。


その夜、何かあるわけでもなくお、俺たちは眠りについた。


俺は眠る前に考えにふけっていた。それはナナセが言っていたセナに対する疑いの目と言葉。


確かに。この近辺にいる魔物や魔獣は比較的、俺が剣を振るって倒せるレベルだ。


もしここに凶暴な魔物が現れれば、ギルドが早急に対応してSランク冒険者たちに依頼して討伐などをしてるだろうな。


だからこそ、彼女のようなレベルの高い戦士職がここにいるのはおかしという考えはわかる。


どうやらこの世界について俺たちはまだ知らないことが多すぎる、はやく情報を集めてこの世界のことを知らなければ……。


が明けたあと、ツクヨの姿はなく、朝はやく俺たちに別れは告げず黙って部屋から去っていた。


鬼人族のツクヨについてナナセに聞くことにした。



「なあ、ナナセ。あのツクヨっていう人、どう思う?」


「どう、とはどういうことだ?」


「お前があんなに敵意剥き出しで言うなんて何か引っかかるところがあったんだろ」


「うむ。私が思うに彼女は魔物討伐が目的ではなかったのだ」


「えっ! じゃあ、なんでそんなことわかるんだ?」



俺はその理由を聞くとゆっくりと答えた。



「そんなのは彼女の剣を見ればわかるさ、魔物を狩ったあとなんてなかった。魔力値に反応がなかったしな」


「そっか。まあ、俺らには関係ないしな。魔物退治は諦めてアンデッド退治に戻るか」



俺は心の奥底で硬く決めていた魔物退治は諦めることにした。


なんか、面倒になったので……。

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異世界チートも生きるには大変です Tovi rock とびろっく @TOVIrock

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