第3話
「それよりも何が聞きたいの? 冒険者については色々と教えれるよ」
先ほどまで暗かった表情だったが一瞬でもとのクールな表情にもどった。
ちょっと重くなった気がしたが、俺の気のせいと思うことにした。
「なあ、アクタくん。このお姉さん、もしかして……」
と、七瀬が俺にヒソヒソと耳打ちしてきた。
七瀬のやつ、もしかして勘づいていたのかと俺は内心嬉しくなったのだ。
なぜなら理数の人生だけしか歩んでこなかった七瀬が人の心理や表情を読み取るなんてことができなかった、あの七瀬がついに!と感激していた。
俺は胸に期待を膨らませて七瀬の次の言葉を待つのだ。
「お、おう。なんだ、言ってみろ」
「ものすごく美人なのでは?」
と、何を今更と思うようなことを言った七瀬に対して無表情と無言になってしまった。
だが逆にこいつがこういうやつだと安心している自分がいた。
しきりなおしてお姉さんから冒険者になるための説明を受けることにした。
「まずはこの冒険者ギルドに登録する。それから冒険者カードを受け取って簡単なクエストこなしていくの。クエストをこなしていけばそれに応じてレベルが上がっていく。まあ、最初は難しいかもだけど慣れれば、なんてことないわ」
お姉さんはそう言って優しく微笑みかけてくれた。
だがその笑顔を見て俺はどことなくだが、悲しくつらそうに見えたのだ。
「それじゃ、私はここで失礼するね。あとは自分たちでできるわよね?」
「ああ、ありがとうございます。色々と助かりました」
「うん、じゃあね。運がよかったらどこかで会うかもしれないね」
お姉さんはその言葉だけを残して部屋から出ていったのだ。名残り惜しい気はするけど、まあお姉さんの言うとおりどこかで会うかもしれないな。
こうして俺たちは冒険者になるための手続きを受けることにした。
「それでは冒険者になるための手続きを始めますね。まずはこちらの石板に手をかざしてください。そうするとその人の能力をこの石板が記してくれます」
受付のお姉さんに言われて俺はワクワクして胸が高まるばかりであった。
こういう展開は言わずともわかる、この石板に手をかざせば俺の潜在能力が明らかになって騒ぎになってしまうに違いない。
俺はこれから起こるであろう展開に口角が上がって上がって仕方ない。
ルンルン気分で余裕な顔で口笛を吹きながら石板に手をかざすと石板が急に光り、反応した。
さあさあ、早く早く俺の潜在能力を見せてくれ。異世界ならではの王道な展開を俺にくれ!
「はい。アクタ・ソータさん、能力値は平均ですね。こちらがアクタさんの冒険者カードになります。ご確認ください」
そう言われて俺はカードを受け取ると同時にこの異世界に不満と疑問を抱いていた。
「すいません、ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「これって、本当にあってますか?」
我慢できずに俺は受付嬢に疑問を投げかけていた。
「はい。あってますよ。こちらがアクタさんの冒険者カードです」
「いや、なんかどっかでその石板の不具合とか故障とかしてませんか?」
「いえ、そんなことはありません。正常です」
俺はもしやと思ってたが受付嬢の人は満面の笑顔で言っている。
そして俺は深く頷き、深く息を吸うと力いっぱい項垂れた。
こんな展開は予想していなかった!
もっとこう俺超強ぇみてぇなこととか、俺超無敵みてぇな展開とかを期待してたのになんだよこの仕打ちはよぉ…。
打ちひしがれている俺を横目に七瀬が横を通りすぎていくと石板に手をかざすと、俺よリも強く光り出した。
「ええっ! 嘘でしょ!」
さっきの俺の時よりも明らかに声色を変えて驚きの声をあげていた。
「これはすごいことなのか?」
「すごいなんてものではないですよ。ステータス値は平均を大幅に超えていますし、腕力などを必要とする剣士職などの対人戦は無理ですが魔法職、治癒師などができます」
「ほうほう、私はそんなに素晴らしいのか。私はここにきてこんなに褒められるとはこの世界にきた甲斐があったというもんだ!」
今までずっと静かにしていた七瀬だったがわかりやすいお世辞に気分が良くなって自慢げにしていた。
『なんでこんな奴が』と俺は心の中で不満が増幅していく一方だった。
「おい、アクタくん。これで私たちは冒険者というものになったのだな」
「ああ、そうだよ。よかったな」
求めていた理想の展開が起こらず不満を抱える俺、アクタとこれからの出来事に期待を膨らませるナナセと、こうして俺たちは冒険者になったのである。
どうして、こうなった…?
俺は心の底からこの異世界について早くも不満を覚えるのであった。
それから数日後、冒険者になってからクエストを重ねていき、順調にレベルを上げていった。ナナセだけだが・・・・。
「なあ、ナナセ。ちょっと聞いていいか?」
「なんだね、アクタくん?」
「俺たちさ、冒険者になったものの、これといって大したクエストこなしていないよな?」
「何を言っている! ちゃんとやっているではないか! 見てみたまえ、私のレベルもしっかりと上がっているでないか」
「お前だけじゃねぇか! こっちとら、オメェのクエストの手伝いをしてんじゃねぇんだよ!」
誇らしげに冒険者カードを見せつけてくるナナセに俺は不満をぶちまけている。
そう、俺はこれまでレベルが低いので魔物などを狩りまくってレベルを上げていこうと思っていたが、俺のレベルでは難しいクエストばかりが掲示板に貼られていたのである。
これはあまりにも不公平だ。
だからこそ俺よりも平均値のステータスを持っているナナセの能力を頼ってクエストを手伝っていたがやっていて気づいたことがある。
ナナセの能力は『治癒師・回復術師』という職業いわゆる怪我やクズの手当てをするヒーラーだ。それに加え、アンデッドや浄化魔法をも得意とするのだ。さらには回復ポーションなども作れるらしい。
なんて不公平なんだ。
「そうは言ってもアクタくんよ。君のレベルとやらではできるクエストが限られているだろ」
「それがどうした! このままではアンデッドクエストばっかりで俺のレベルは一生上げられないで終わっちまうんだよ!」
「ではどうしろと言うんだ?」
「そんなもん決まってるだろ! 魔物を狩りまくるんだ!」
こうして俺とナナセは魔物狩りのクエストを開始していくのであった。
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