第2話【入隊】

 見覚えのない天井の下で目が覚めた海斗。そこはとある病室の一室だった。海斗が眠っていたベットの横にはあの彼が椅子に座って寝ていた。しばらく辺りを見渡していると、病室の扉が開いた。

「あ、起きてる。体調は大丈夫ですか?」きりっとした少女の声だった。

「え、あ。はい。大丈夫…です?」気まずい空気に耐えられなかった海斗は思い切って話を切り出した。

「あ、あの!お二人は…一体?…。」海斗の質問に彼女は答えた。

「あ、失礼しました。私は”防衛軍対怪物殲滅第103分隊”の隊長補佐の”大栗鞘”です。貴方様は?」

「あ、僕は中島海斗です…それで…」海斗がそう言いながら彼の方を見ていると突然、鞘が彼の頭をひっぱ叩きパチンをいう何とも爽快な音が響くと同時に彼はびっくりして飛び起きた。

「痛いな!泉、せっかくいい夢見てたっていうのに…って…誰?…」「はぁ、蓮隊長またやってしまったんですか?私は隊長を同じ部隊で隊長の補佐をやっている大栗鞘です!」

「あぁ、そうなんだ…。」蓮?という人はそのままうつむいてしまった。

「あの…蓮さん?は大丈夫なのですか?…」

「はい。この人はこういう人なので。私から紹介するとこの方は私と同じ部隊の隊長の”滝川蓮”です。」鞘の紹介に海斗はお礼を言った。

「では、話は変わりますが。…貴方、なぜあの場所にいたのですか?」

「あの場所?…」海斗はそう聞かれあの時の事を思い出した。同時に恐怖と目の前で親しき友人がぐちゃぐちゃに殺されたトラウマが蘇り、目眩や頭痛、ましてや想像もできない吐き気に襲われた。

「はぁ、すまない。嫌なことを思い出させたみたいだな。一旦、落ち着くまで出ていくよ。」と言い。鞘は病室から出て行った。

海斗が苦しんでいると横にいるのを忘れたいた蓮が水を差しだしてくれた。

海斗は水を一口飲んで深呼吸すした。すると、さっきまで黙っていた蓮が口を開いた。

「大丈夫か?…。」優しく落ち着いた声で聞いてきた。

「はい。もう大丈夫です。すこしトラウマが…。」

「そうか…。」しばらくの沈黙のあと

「まっ!めそめそしていてもしゃーないし元気出していこ!俺にも、忘れることのできないトラウマがあるんだ。だから、その気持ちは大いに分かる。だから、まあ…。」その時、病室の扉が勢いよく開いた。

「さーて、落ち着いたか?」鞘だった。鞘は片手になんかの紙をもっていた。

「鞘、だったか?なんだその紙。」

「これは、この子が気を失っていた時に行った健康診断と適正診断書です。」

それは、海斗が気を失っている間に行われたという健康診断と何かの適正診断書だという。

「適正診断?…」海斗がそうつぶやくと蓮が答えた。

「あぁ、君はあの怪物の巣の中にいた。普通だったらその場には入れないし。入れたとしても気を失って怪物の糧になるかどっちかなんだよ。でも君はあの中にいても少しは気を保てていた。だからもしやと思って俺から診断するよう指示をだした。」

何を言っているのかが理解しがたい海斗だったが、続けて鞘が説明を入れてくれた。

「この適正診断というのは一般的に、この国の国民が5歳以上になった場合受けることのできるいわば生命エネルギー診断です。簡単に言うと魔力みたいなもので、この魔力をもとに今、私を隊長がつけている時計を介して怪物を倒すための来客(ゲスト)を生み出すのです。」

海斗はこの時思った。

「(これって、いわゆる異世界転生ってやつか?…でも、場所は知らないとは言え俺が住んでいた街並みそくっりだ。)」海斗はしばらく考え込んでいた。

「もしや、君…この世界の住民じゃないだろ?」そう聞いてきたのは蓮だった。

「隊長、やはりですか?」海斗は驚いた。異世界転生なんてあるわけがないものをさも当然かのように言ってきたのだ。

「この世界の住民?…。どういうこと?」

「たまにいるのだ。別世界からきた人間がこの世界に迷いこみ怪物の被害に会う。怪物の被害にならなくとも言語の問題があって意思疎通ができない。最近の研究で別世界から君のような人がやってくる原因は”クラヤミ”という怪物にあると。奴は、別世界で人間をとらえては恐怖を植え付けて弄んだあと、君の世界で言う異世界(パラレルワールド)に引きずり込んでくる。そのあとは君の仲間のように四肢やらをめちゃくちゃにして喰らい、己の力に変える。奴らは面倒なことに隠れるのがうまくてな、捜索の手間がかかる上にその間に縄張りを変える。しぶといネズミみたいなもんだ。今回君が助かったのは運がよかっただけだ。」

「そう、…だったんだ…。えっ、言語の問題って言ってたけどなんで今は普通に話せているの?」

「それもまだわかっていないんだよ。クラヤミのサンプルデータが少ないからな。」

「サンプルデータ?…」

「あぁ、怪物を倒すと"ラバーチェイズ"と言ったサンプルデータを採取することができるのだが、それには時間がかかるしラバーチェイズの元となる成分、生命エネルギー(HE)が短期間で消えてしまうのだよ。とくに、クラヤミとかな。だからデータが少ないのだよ。まぁ、怪物のランクが上がるにつれ採取しずらいって思えば分かりやすい。」

海斗には分からないことだらけだ。

まだ正確にこの世界の事を知った訳では無し、元いた世界の常識とは違うのだ。

「あの、後1つ聞きたいのですが…。その…適正診断?…ってなんですか?」海斗が最も気になっているものの1つである。

「あぁ、言ってなかったな。俺たちがいう適性診断とは我々防衛軍に入隊するためのとある指標を表したものだ。診断書によると君は、Lv2.4ST(ステージ)1だな。我々の隊に所属するための必要最低条件だ。」

なぜか、もう入隊が決まっているかのような説明がなされた。

「異世界転生して初めての診断でこの数値はすごいぞ、成長の兆しがある。最低でもLv4.7ST3には行けるやもしれん」

「ちょっと蓮隊長、海斗さんが困惑してるようなので一旦黙ってください。」

そんなことはお構いなしに蓮は話をどんどん進める。

「我々の部隊の平均数値は3.6LvST2だ。部隊の平均値より大体Lv1引いたくらいが最低条件となる。ちなみに我々の部隊は9人構成で、最高Lv5.1ST2、最低Lv3.1ST1だな。もちろんその最高は俺だ。」

 「はぁ、ここぞとばかりに自慢みたいに…。でも、実力は確かなので否定はしませんけど。」あきれるように鞘は言う。

「とにかく君は我々防衛軍に入隊することができる。入隊すれば衣食住は完備されている。危険も伴う仕事柄給与もそれなりにある。高いと感じるか低いと感じるかは人それぞれだ。それに怪物を討伐するとそれに伴って即日手当ももらえる。言ってしまえばお小遣いだ。どうだ?我々防衛軍に入隊するか?言っても君には入隊する以外道がない。この世界での身分が証明できない君は仕事も住むところもない。露頭に迷って飢えて朽ちるだけだ。」

海斗は一瞬、身をすくめた。

確かにこの世界での身分は海斗にはない。蓮の言う通りに軍に入隊するのが賢明である以上海斗の選択はもうすでに決まっていた。

「お願いします。僕を入隊させてください。」蓮はニヤリと言わんばかりの顔をした。

「歓迎しよう。我が軍へようこそ!…と、本当は言いたいところだが残念ながら君を正式には歓迎できない。」海斗は理由と尋ねた。

「正式に我が軍に入隊するには入隊試験に合格してもらう必要がある。」

「入隊試験?…」


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