第1話:伝説の艦が再び眠りから覚める

 伊400潜水艦・司令塔……


 暗闇に包まれた司令塔。

 かすかな振動音と、計器の電子音だけが空間を満たしている。

 無数の並行世界における日本国の危機を救った『日下敏夫』艦長は、艦長席に座りながら深く息をついていた。

 彼の目の前には艦のステータスを映し出すホログラムがゆらゆらと揺れている。


「艦長、通信が入っています!」

 通信士の声が緊張に満ちていた。


「誰からだ?」

「……信号の識別が……不明ですが……日本の皇祖神を示すコードが確認されています」


 日下は眉をひそめた。

 日本の皇祖神……すなわち、天照大神を示す符号。

 それが意味するものを理解しつつも、現実とは思えなかった。


「天照様が我々に直接だと? ……繋げ」

 次の瞬間、司令塔の中央に淡い光が立ち上がった。

 それはやがて人の形を取り、金色に輝く衣をまとった女性の姿へと変わった。

「天照……大神……様!」


 日下は息をのむと共に直立不動となり頭を下げる。

 周囲の乗組員も立ち上がり、神々しい存在に息を詰まらせていた。

 天照大神は静かに目を閉じ、やがてその瞳を開いた。

 黒色の瞳が日下を真っ直ぐに射抜く。


「日下敏夫よ、数々の並行世界を渡り歩き、幾度も日本を救ってきた勇敢なる艦長!   今こそ、お前に最大の大任を授ける」


 日下の闘士が自然と高められる。

「大任……?」

「並行世界No.12ssdのこの世界の日本は敗北により、列強による分断統治を受けている。国は引き裂かれ、誇りは踏みにじられ、民は絶望の中にある。このままでは日本の魂は消え去る……」


 日下の心臓が高鳴る。

 天照大神の声には、確かな怒りと悲しみがこもっていた。


「日下敏夫……」

 天照大神の瞳が鋭くなる。


「お前に命じる! 神々の守護を得た伊400を率い、この日本を救え!  分断された日本を再び一つにし、かつての誇りを取り戻せ! その為の仲間も用意した! 近いうちに邂逅するであろう」


 日下は瞬きを忘れていた。

 艦内に漂っていた重い空気が、一瞬で吹き飛んだように感じる。


「……承知しました」

 日下は立ち上がると、帽子のつばに手をやった。

 そして、力強く敬礼をする。


「伊400、これより出撃します! 核融合炉点火!! 我々が日本を取り戻す!」

「核融合炉点火!」

「こちらCIC! 戦闘管制システム異常なし! 全武装システム、準備完了!」

「ソナー、異常なし!」

「武御雷神の矛、異常なし!」


 日下の口元に笑みが浮かぶ。

「……天照大神様の御意志に応え、日本の未来を取り戻す! 総員、出撃だ!」

 伊400の核融合炉機関が唸りを上げる。

 深海を切り裂きながら、伝説の艦が再び目覚める……。

 日本奪還作戦が、今、始まる。

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