第6話 回想(3)~なぜか代表を任される~

「ちがうよ! ユーグはさ、自分の容姿に自覚がなさすぎるんだ。老若男女問わず、ユーグに惚れたヤツらが後で『無性』と知って落胆するところをどれだけ見てきたか。これから一緒に働くんだったらちゃんと言っとかなきゃかわいそうだろ!」


 シアンが猛然と反論した。


「あの、心配しないで。見とれてたけど惚れてませんから」


 うわあぁ、私も何言ってるんだか……。

 いや、ホント、圧倒的な美貌ってあるんだなって彼(彼女?)の姿を見て思う。


「やきもちってことはお二人はいい仲ってことですか?」


 親密なふんいきの二人に先ほどの発言について問うてみた。


「えっ、そっち?」

 

 美形のユーグが目を丸くする。


「いやいや、そっちじゃないだろ! そもそもやきもちじゃねえし!」


 猫キュートなシアンが猛然と反論する。


「面白い発想をする娘だね。名前を聞いていいかな?」


 ユーグが笑いながら言う。


 私は再び自己紹介をした。


「よろしく、ミヤ。さっそくだけど、君にはこのガーデン全体の管理責任者をやってもらうからね」


「はあ?」


 突然の申し出に私は素っ頓狂すっとんきょうな声を上げてしまった。


「あの……、『責任者』ってどういうことですか? 私はガーデンで働くように神に言われただけで……」


 なぜ新参者がいきなり?


「あぁ、説明を受けていないのか、やれやれ」


 微笑みながらもユーグはあきれたようなポーズをとった。


「うっ……」


「ごめん。君のことを怒ったわけじゃないよ。リンデンさんの話によると、亜空間の超越者はいつも説明不足のまま異世界人をこちらに送り込んでくるらしいから」


 亜空間の超越者とは『神』のことだろう。

 確かにこちらが質問をしてもまともに答えてくれずはぐらかされ、そして聞きたいこともまだまだあったのに放り出されたもんね。


「私はここにやって来たばかりですし……」


 遠回しに『できない』ということを私は告げる。


「大丈夫! 地球にだって似たような仕組みはあるんだろ」


 ユーグはあっさりと言う。


「いいえ、ダンジョンなんてシロモノ地球にはありませんでした!」


「ダンジョンは確かにね。でも、お店の店長とか、公的な施設の館長とか、それに似た役目を引き受けてもらいたいんだよ。それならわかるだろ」


「だから、どうしてそれを新米の私がやらなきゃならないんですか?」


 ノーテンキに押し付けようとしているユーグに私は反論する。


「シアンは人と接触するのが苦手だし、私もあまり表に出ないよう言われてるんだ。だからここに来る挑戦者やダンジョン組合の対応などを任せたい」


「俺もユーグも人前に出るとトラブルが起こることがよくあるからさ」


 ユーグが説明し、さらにシアンも付け加えてしゃべる。


「……」


「超越者にはそれができる人材を頼むって言っておいたし、そうしたら君が来たんだよね」


 聞いてないよ!

 もうそれ、引き受けるの前提で送り込まれたってことじゃん!


「前任者の博士が亡くなってからはリンデンさんが代理でやってくれていたんだ。でも、あの人も魔道具店の経営があるから忙しいんだよ」


 再びリンデンが話に出た。

 何かあったら相談すると良いと神が言っていた人だ。


「親切な人だし、超越者と違ってこれまでの仕事もていねいに教えてくれると思うよ」


 比較の対象のレベルが低すぎ。

 説明する能力をあの『神』と比べたら誰でも『教え上手』の部類に入ると思う。


「外部の人間との折衝せっしょう以外の仕事はゆっくり覚えていってくれればいいから心配しないで」


 ユーグは言う。


 しかし、私には経験がある。

 地球の前世でバイト面接のとき、店長は『ゆっくり覚えて言ってくれればいいから』と新人の不安を和らげるような言い方をする。しかし、いざ仕事に入ると、忙しすぎて新人もベテラン並みの働きを求められ、パワハラまがいの怒鳴られ方をしょっちゅうされたことがあったのだ。


 雇われる前の甘言など真に受けない方が身のためだ。

 だけど、信用できないとか、胡散臭いとか思ったところで、引き受ける以外の選択肢が私にはない。


「わかりました。でも、無理だと思ったらすぐにやめてもいいですか? あくまで代表のことで、この施設での仕事なら雑用でもなんでも頑張りますので……」


 これが今の私の精一杯の抵抗の言葉だった。


「奥ゆかしいんだね、わかった」


 私の本意が伝わってないのか、ユーグは笑みを絶やさず言った。

 

「とりあえず、その軽装じゃここでは都合が悪いだろう。女性用は……? そうだ、博士の服が残っていたからそれを着ていてもらおうか。倉庫にあったはずだから取ってくるよ」


 ユーグは立ち上がった。

 私のための服を持ってきてくれるらしい。


「博士の服じゃ、ミヤはチビっこいから合わないんじゃないのか?」

 

 シアンが口をはさんだ。


「大丈夫。博士の服は様々な魔法が込められている。着る人に合わせてサイズも調節される仕様だったはずさ」


 ユーグは部屋を出て入った。


「あの、博士って誰?」


 私は残ったシアンに聞いた。

 私より大柄な女性だというのはさっきの会話でわかったが、いったい?


「このガーデンを作った人さ。十年前に亡くなったんだけどな。俺もユーグもかなり世話になったから、今もここで働ているんだ」

 

 シアンは私に説明しながらも、目をこの世にはないどこか違う世界を見るように細めるのだった。


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