07
「もう十二月になって二十五日にはクリスマスがあるなあって考えつつ歩いていたら踏んじゃったの」
「それはまた不運だったな」
昔、歩いているときに鳥の糞が落ちてきて服をやられた俺よりはまだマシ……だろうか。
あのときは困ったな、当然着替えなんて持っていなかったから慌てて帰る羽目になった。
「慌てて学校まで走って洗ったけど……朝からテンションが下がったよ――と言いたいところだけど実はそうでもないんだよね、何故なら光と入谷先輩が仲良さそうに歩いているところを見ちゃったからさ!」
「お、落ち着け」
「ふっ、一緒に登校するような仲だったとは思わなかったからその差にやられたのさ」
確かにそうだな、一緒に登校するような仲だったのか。
少しあれだが先輩から誘えているといいなと思った、あとはまたアヤラの話ばかりをして呆れられていないことを願う。
「ねえ、私達もお家の場所が丁度いい感じだから一緒に登校しない?」
「それなら早く出ないとな」
基本的に俺の方が早く学校に着くから極端に早めたりする必要がないのはいい。
また、仮に早めを求められても別に朝に弱いとかでもないしどうせ登校しなければならないんなら早めの方がいいからありがたいことでしかない。
「というか、これまではなんで一緒に登校していなかったの?」
「え、それは時間が合わなかったからじゃないか?」
「まあ、これからは一緒に登校しよう、それであの二人に負けないようにしよう」
「なにで勝ちたいんだ? 登校時間か?」
あら、黙ってしまった。
それから軽くでも攻撃をされ始めて謎の時間の開始となった、なんてな。
「いま私を恥ずかしい気持ちにさせたから修也にはクリスマスプレゼントを買ってもらいます」
「元々なにか買うつもりだったぞ?」
もう一年半以上は一緒にいるからそのつもりだった、だから本人がこうして出してくれて渡しやすくなったのは本当にありがたい。
「そ、そうなの?」
「そりゃあな、ただ本命的な存在がいるなら渡せる物は限られてくるが」
どちらにしても残る物ではなくて食べ物とかそういうところで終わらせようとしていた。
そのつもりで買っていてもプレゼント感は出したくないんだ。
「そんな人はいませんが、いてもグレンかな」
「はは、じゃあ駄目だな」
「馬鹿修也」
もうこれは馬鹿と言いたいだけだろ……。
「あ゛」
「ん?」
たまにすごい声を出すときがある。
大抵はテンションが高いときだが先程と変わって落ち着いているから今回は悪いことかもしれない。
「……でもさ、私はもうこの前買ってもらっちゃったよね?」
「あれと今回のそれは別だろ」
「いやでも、逆に私が買わなければいけない感じだよね……」
渡しても求めるつもりはなかったがそんなに暗い顔になるようなことなのか、金欠とか金はあってもそこらへんで発売する新しい商品でも買いたいとかか?
「一応聞いておくけど、修也はなにか欲しい物とかあるの?」
「特にないな」
俺がいま求めるのは春だ、サンタさんでも不可能でもずっとそれを求めている。
ただ確かに佐竹が言っていたように先輩が卒業してしまうわけだから少し寂しくはある、あと珍しくそれだったらもう少しでもゆっくりでもと矛盾めいた考え方をする自分もいる。
ほとんどアヤラのことしか頭にない人でも世話になったからなあ、あとこの前の飲食代を返せていないからそれも絶対に返さなければいけないし。
「私はあるんだよ」
「買うとは言ったが限界はあるから高額じゃないことを願っておくよ」
情けない発言だが仕方がない、期待させて結局応えられませんでしたでがっかりさせたくない。
あとは物理的に金はあってもしつこいようだが本命ができたときに邪魔にならないようにしたいんだ。
多分、言い方的になくなる物ではないだろうから尚更な。
「に、二千四百円もするんだけど……」
「それぐらいなら大丈夫だ」
それでもまた九百円とか千円以内の物を要求されなくてよかった。
「は、半分っ、半分出してくれればいいから!」
「いやだからいいって……って、直前に情けない発言をしたからだよな、悪いな」
「いや……修也が謝る必要なんかないでしょ」
「いますぐ欲しいなら今日の放課後にいくか?」
ついでにまたグレン達になにか土産を買えるからその方がいい。
だって後になればなるほどクリスマスを意識して駄目になりそうだ。
なにか物は求めてきても当日に一緒に過ごすとまではいかなさそうだし……。
「ううん、クリスマス近くまで我慢するよ」
「わかった、じゃあ授業を頑張るか」
仕方がないから一人でいってなにか土産でも買うか。
佐竹に誘われた走るという行為はまだ一度も行われていないから多分今日も暇になるだろう。
で、本当に特に誘われることもなく一人でいって帰ったときの話だった。
「グレーン――お? どうしたアヤラ」
今日は攻撃することもなくグレンが陣取る前に足の上で丸まったんだ。
「あれ、グレンもなんでそんなところでこそこそ見てきているんだ?」
元々アヤラの方が上という感じがしたがこれは……喧嘩でもしたんだろうか。
改めて呼んだら来てくれたがそれでも猫二匹分ぐらいは距離を作っていてまるで自分が警戒されているように感じてくる。
アヤラを撫でてみるとそれでも攻撃してくることはなくて別にグレンに意地悪がしたくてこうしているわけではないみたいだ。
「グレン」
物凄く慎重に近づいてきたグレンに対してもそう。
自分達も映るからあれなものの、カメラの一つでも設置してなにがあったのかを見たいぐらいだったができないから残念だった。
「入谷先輩、なんか最近アヤラが懐いてくれているんですよ」
「寧ろこれまで甘えていなかったのか?」
「はい、距離こそ近くても一回こちらに触れてからはグレンにしか意識がいっていませんでしたからね」
「それならよかった」
まあ、確かにいいことだ。
アヤラのことを考えてやっていてもグレンばかりを優先していたのは事実だから、これからはもっとどちらも可愛がることができる。
「ところで、アヤラと俺って似ていないか? アヤラのことしか頭になかったのに気が付いたら人が気になっているんだ、アヤラの場合はグレンから三上にって感じでさ」
「あ、そういえば一緒に登校していたみたいですが入谷先輩が誘ったんですか?」
「スルーか……登校のことについては誘ったんじゃなくて佐竹が加わったって感じだな、そうとしか答えられない」
「え、ならいいことじゃないですか」
今回のこれも誘ったわけではなくても時間を貰っているわけだよなあ。
引かれないように適度な距離感でいようとしているのかもしれないがやっぱりもったいないことをしているな先輩は。
そうでなくても俺らより時間がないのに、だがこういうところが佐竹も気に入っているかもしれないから難しい。
「そうだな、それは間違いなくそうだ。ただな……ああいうのを続けられると勘違いして誘いたくなるから困るんだよな」
「クリスマスとかの話ですよね、言ってみないと始まらないこともありますからね」
うん、自分にも突き刺さった。
そうであっても自分から出さないで待つつもりでいるから自分はしないくせになにを言っているのかとツッコまれてもおかしくない件だ。
「だからさ……四人で集まらないか?」
「俺は大丈夫ですがそれは二人に確認してもらわないと」
「だから頼む……」
連絡先を交換しているからそれで確認しようとしたのにこの前の公園で待っているとのことだったからなんか直接いくことになった。
「はーい――あ、三上君」
「佐竹、クリスマスに四人で過ごさないか?」
待った、これってなんか虚しくないか?
これだと先輩達を利用して佐竹と過ごしたかったみたいに見えてしまいわないだろうか。
「え、あー……」
「もう予定が入っているとか?」
もうこうなったら仕方がないから嫌なら真っすぐに振ってくれればいいがなるべくそうではないことを願う。
「ううん、ただクリスマス当日は毎年家族と過ごすことになっていて無理だからイブに私から入谷先輩を誘おうと思ったんだよ」
「ま、マジ?」
「う、うん、だからごめんね」
「わかった、じゃあ対応してくれてありがとな」
あれ、だがこれをどうやって伝えればいいのか。
無理だったという事実だけを伝えたら勘違いして一気に駄目になりそうだが……。
「待ったっ、いま入谷先輩は公園にいるんだよ、無理じゃないならもう言ってやってくれないか」
隠しておきたかっただろうに……すまん。
どう考えても上手く対応できる自信がなかったから本人に頼るしかなかった。
「え、えー……」
「頼むっ」
「じゃ、じゃあ……付いていくよ」
単体で戻ってくると思っていただろうから驚いただろうな。
でも、佐竹が本当のところを話したらそれはもう嬉しそうな顔になっていた。
送るとかも言い出して佐竹もまたそれを拒まずに受け入れてすぐにここから去ったが。
「――という感じだな」
「じゃあみんなで過ごすのは無理だね」
「そうだな」
そのつもりだったならアレだが邪魔をするわけにもいかないことは彼女もわかっているだろう。
「修也のご両親ってなにか拘りがあったっけ?」」
「特にはないな、食事にいくとかもないが家で盛り上がることもしない」
グレンとアヤラがいればいつも通りご飯を食べてのんびりするだけ、俺もなにもなければそうなる。
全く気にならないというわけでもなかったから今年はあの二匹がいてくれるだけありがたい話だ、だからなにもなくても贅沢は言ってはいけないと片付けて可愛がるだけだ。
「なら私は修也と楽しもうかな、私の両親は食事にいくから二人でお家で過ごそうよ」
「グレンとアヤラがいた方がよくないか?」
ではない、冷静なふりをするだけで精一杯だ。
平良も平良でやらかしくれるというか……真剣な顔で誘ってきたりなんかしないでほしい。
喜んでいたとしてもだ、慌てていることが知られたらなしになるかもしれないから大変だった。
「ううん、前回もそうだったけどグレン達だってお休みの日がないと駄目でしょ? それにクリスマスに集まれているのにグレン達ばかりに意識を向けられても困るし、さ」
「そ、そうか、なら食べ物代ぐらいは出すよ」
「いいよ、だって欲しい物を買ってくれるんでしょ?」
「じゃあ半分ずつ出すのはどうだ?」
世話になるならそこは譲れない、そこを許可してくれない限りは参加しないようにする。
ただそれでもいいなら……自分に正直になるしかない。
「んーそれならいいかもね、だから……うん、そのつもりでいてよね」
「わかった」
いやマジでグレン達がいてくれてよかった、いなかったら当日まで……。
でも、一つ気になるのはどうして突然このように動き始めたのか、ということだ。
これまで友達だったのは確かなことだが甘い雰囲気になるどころか朝に話したらそれで終わる……なんてことも多かったから気になる。
「じゃ、今日はこれで……と思ったけどなんかこのまま別れるのも微妙だな」
「なあ平良、やっぱり佐竹から影響を受けているのか?」
わからないから聞くしかない、それで答えていく内に勢いで動いてしまっているなら冷静になれて彼女的にはいいと思う。
「光? ああ……前にそんなことを言っていたよね。大体ね、登校時間で勝ちたいとかそんなこと思うわけがないでしょ」
「じゃあなんであの二人に負けないようにって――痛い痛い、そんな前までのアヤラじゃないんだから」
あれか、急に変わりすぎたアヤラに比べたら――いやそれと同じぐらい不思議だ。
「……だって一年半以上一緒にいる私達以上に出会ったばかりの入谷先輩と光がそんなに仲良くしているんだよ? そんなの気になるでしょ」
「でも、最近まではなにもなかったんだよな? なにがきっかけで急に――そ、そんなに怖い顔をしてくれるな……」
だからといって前々からそうだったなんて思えない、でも、最初は怖い顔のように見えたそれも段々と悲しそうな顔に見えてきてまた勘違いしそうになってしまった。
「とりあえず……帰りは送るからグレン達でも見るのはどうだ?」
「はぁ……いまそういうパワーは足りているから大丈夫なの」
「それならどうする?」
これに関しては腕を組んでから「そうだね……」と攻撃をしてくるわけではなくて助かった。
焦らせないように違うところを見て待っていると「まだあれから一回も走っていないから二人で歩こうよ、言い出した光はいないけどね」と答えてくれたから頷く。
「はは、走るのはアレなんだな」
「うん、いまはゆっくりしたい気分だから」
「よし、いくか――なんだ?」
そこで不安そうな顔をしなくたってちゃんと合わせる、一人で歩くような趣味はないから平良がいてくれないと意味がない。
「……ちゃんと言わずに自分勝手なことばかりしてごめん、だけど……もう少しぐらいは修也にもそのつもりでいてほしい」
「いいのか?」
「うん、これも言っておくけど連れていっておきながら仲良くやっている修也と光を見て焦ったんだよ」
「あー佐竹ってすごいよな、滅茶苦茶喋りやすかったからな」
「うん、……それに私のときよりも楽しそうだった」
「差を作っているつもりはなかったがそのように見えてしまったなら悪い」
「ううん、だから負けたくないの」
それなら先輩にしか意識がいっていないから俺が頑張ったところで意味がないわけだしもう警戒する必要はない。
でも、言葉で安心させようとしても今回は意味がなさそうだから少しずつ変えていくしかなかった。
ここまではっきりとされたならちゃんと集中するだけだった。
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