06
「だん、佐竹光の話を聞いておくれ。それは昔、私がうんと小さい頃の話だった」
なんか急に始まった。
それでもなにも言わずに聞いていると昔は一杯で我慢できていたのに大きくなっておかわりを我慢することができなくなったという話だった。
どうせ女子が食べる量なんて少ないだろうから食べたいなら食べておけばいいと思う。
「それで私は最近、二キロも体重が増えたんだ」
「体重なんか常に一定じゃないからな、変なダイエットとかしない方がいいな」
「問題なのはそれでも食べようとすることなんだ。最初は二キロだけでも次は四キロ、六キロと増えていってブクブクと太ってしまうかもしれない」
「どうせそうなる前に止めるだろ?」
「そうかな、三上君は私にそんなことができると思うの?」
不味いと思っているならできるはずだ。
「でも、不安になった私は入谷先輩に頼んで一緒に走ってもらったの、だけど残念ながら付いていくことができなかったんだ」
あり得るか? あの人なら佐竹のことを気に入っていようとそうでなかろうと合わせようとすると思うが。
あと俺を含めて若い人は大袈裟に言うところがあるからこれもそのまま信じるのは危険だ。
結局は本人を召喚した方がいいということで先輩を呼びだした。
「ああ、走ったことは本当のことだな、ただ付いていけなかったというところは間違いだ。佐竹は俺よりも先を走っていたよ」
前からなんか嘘をつきたがるみたいだ。
困らせたくてしているわけではないだろうが遊ぼうとしているのはあるのかもしれない。
本人は平良が相手のときと違って「うげ」とか言ったりはしないでただ表情も変えずに見てきているだけだが。
「三回目ぐらいのときだったかな、平良がグレン派って話をしていたけどそれは本当か?」
「あ、それは事実ですよ、グレンの写真ばかり撮っていましたからね」
「そうか、全てが嘘じゃなくてよかったよ」
まあ、全てが嘘の人なんていないだろう。
あ、だからこれも露骨な結果というやつではないだろうか。
俺の前では嘘をつく、だがそれでも平良や先輩の前では嘘をつかない。
これだけはっきりしてくれているのはいいことでしかない。
「なんでこんなにもグレン派ばかりなんだ……佐竹だって『グレンって格好いいですよね』とグレン派でな……」
「心配しなくてもアヤラは可愛いですよ」
「おおっ、三上はアヤラ派か!」
「あ、いえ、俺はどっちも好きなだけです」
毎回攻撃してくるが毎回近いところにいるから可愛い存在だった。
グレンがいるからだとしても関係ない、絶望的に無理ではないからこその距離感だからな。
「……俺はもっと味方を増やさないと」
「アヤラも可愛くていいと思いますけどね」
「改めて聞くと佐竹もどっちもいい派でしかないだろ……」
「あ、いっちゃった」
先輩も自分から佐竹との時間を減らしてどうするのか。
やはり自分が三年生で来年の春にはこの学校にいられないことを気にしているんだろうか。
「頭の中にアヤラしか存在していないよね」
「気になるか?」
「うん、だって一緒にいるときもずっとそうだもん、それこそ走っているときなんか酷かったよね」
「あ、それで拗ねたか怒っていて嘘をついたのか?」
意識していなくてもそうでなくても自分といるときに猫の話ばかりされたら気にする人もいるかもしれない、俺みたいにわかりやすく動いてくれてラッキーみたいに考えるのは当たり前ではない。
「複雑だったのはそうだね、だけど嘘は癖になっているというか……」
「本当に大事なときに邪魔になるかもしれないからやめた方がよくないか? 特に入谷先輩みたいなタイプのときはさ」
あ、いや違う、だから先輩のときは嘘をついていないんだ。
これだと自分のときにもやめてもらいたくて言っているようにしか見えない。
「気を付けるよ」
「なんか偉そうに言って悪い」
「はは、三上君が謝るのは変だよ」
恥ずかしいから席で大人しくしておこう……って、大人しくしていた結果がこれだから救いがないというか、責められなかっただけマシだと考えておくか。
「そうだ、三上君に付き合ってもらおうかな。三上君って寒いのが苦手なんでしょ? だから走ればポカポカしていいんじゃないかなって」
「なら入谷先輩にも話をしておいてくれ」
足手まといにならないようにしないと。
それこそただ緩く走っているだけなのに付いていけなくて距離ができる、なんてことになりそうだ。
みんなと走る前に走って練習をしておいた方がいいかもしれない。
「私はもう入谷先輩とは走らない、なんてことはないけど、うん、三上君や杏花がいないなら次はないかな」
「なら平良に話しておいてくれ」
「うん、任せて」
意識しているからついつい違う話をしてお互いに黙っている時間をなくしたいというところなんだろうが佐竹に対しては逆効果でしかない。
そのことに気づいてくれればいいが……最悪の場合は直接言おうと決めた。
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