幕間12

「私、もうその映画見たな」

「あ、そうなんですか」

「けど、声とかはわからなかった。注意して聞いてないからだと思うけど」


私好みのじめじめしたホラーではなかったけれど、怖かったは怖かった。


「私が聞いた時も、かなり小さくて、聞き逃すくらいでしたからね。その歌手のファンとか、耳が良い人じゃないとわからないと思います」


彼女はそう言って、学校に行く旨を私に伝えた。学校に遅れると大変なので、すぐに別れ、家に戻った。


何かを忘れているような気もしたが、それよりも明らかに眠気が勝っている。女子高生の話をパソコンにまとめてしまってから、私はすぐに布団にもぐりこんだ。



目が覚めたら、時計は午後8時30分ごろを指していた。


もしかしたら集めてきた怪談よりもホラーかもしれないが、重要なのは夜食を食べずに早朝まで起きていて、そこから12時間以上寝た弊害が発生したことだ。


要するに、とてもとても空腹だった。


食べないとまずいだろうか、なんて、それはそうだろうと突っ込みたくなるようなことを考えながら、冷蔵庫に向かった。寝起きなせいか、脳の動きが本調子じゃない。


ホテルに置いてあるものの2,3倍ほどしかない容量のそれを、がばっと開けて——そして、絶句した。


壁際にいつ買ったかぱっと思い出せないヤクルトが転がっているだけで、おおよそ食品と呼べるものは入っていなかった。あるのは申し訳程度の調味料だけだった。


無かったものは仕方が無いと、インスタント食品をストックしている棚に目をやるが、そこもほとんど空っぽだった。辛うじて期間限定の焼きそばはあるが、焼きそばパイナップル味なんて誰が食べたがるのだろう……。なぜ買ったのかさっぱりわからないが、そうだ、確か都子に押し付けられたような記憶がある。


それでもやっぱり食品が無いので(謎味の焼きそばは見なかったことにする)、非常食用のカップ麺を漁った。けれど、取り出したカップ麺の消費期限は、どれも半年以上前に切れていた。


「……きっと運命が私に外に出ろと言っているんだ」


なお、私は運命論者ではない。



運命(?)に抗うのも馬鹿らしいので、大人しく近所の複合型施設へ行った。


カップ麵をストック用込みで10個、野菜をいくつか買い終えると、食品売り場のコーナーを離れる。


出口に向かおうと、衣料品店の前を通り過ぎたとき、ふと違和感を覚えた。


振り返って確認すると、店内に等間隔に立っているマネキンに、抜けがあるのだ。明らかに、ちょうど間にマネキンが一体入れるような構図になっている。


店の様子を見るに、客も少ないようだったので、店員さんに声をかけた。


「あの、ご迷惑だとは思うのですが、あそこにはマネキンがあったんじゃないですか?」

「はあ、まあ……」


店員さんは訝しげに曖昧な返事をした。当然の反応だろう。客っぽくないし。


「ええと、よろしければ今度、なぜ撤去したのか教えてもらいたいのですが」

「すみません、仕事がありますので……」

「そうですよね……。無理を言ってすみません」


どう考えても業務を邪魔してしまっている。アポ取りというのは、こういうことを防ぐためにあるのだとつくづく実感した。


「あと、もう一つ聞きたいことがあるんですが……」

「……なんでしょうか」


こんなに胡散臭い相手に、一応聞き返してくれた。良い店だ。私だったら適当な嘘を吐いて逃げている。



「おすすめの服ってあります? 何が良いかわからなくて」


お店と店員さんに敬意を表し、着る機会のわからない服を数着買った。結論、最近の流行はわからない。

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