幕間11

メールを読み終わり、私は軽く唸った。

実体験、という縛りで聞いたはずなのだが、ファンタジーめいたものが送られてきてしまった。


それから何度か読み直し、私は違和感に気づいた。


このメールの差出人は現在、首都の方に住んでいる。そして出身地は、地名こそ聞いたことはないが、帰省の度に「移動に疲れた」と言っているのをよく聞く。


そして、子供の時のことはかなり細かく書かれていたのに、大人になってから祖母と話したことは、描写が少なくぼんやりとしている。


移動疲れのことが一切書かれていないのだ。


ただ単に書く必要が無いと判断したのかもしれないが、それにしてはやはり子供の時の話が具体的すぎる。ということはもしかしたら、移動のことを書かなかったのではなく、書けなかったのではないだろうか。


なぜなら彼女は、移動していないから。


祖母との邂逅はおそらく、夢か何かだったのだろう。だからこそ、移動の描写がなく、どこかピントの合ってない書き方になっているのではないだろうか。夢の中での出来事は、概してぼんやりとしているものだ。


そうでなければ説明がつけられない。



と、考えに一区切りついたところで、都子に神社に行くことを推奨されていたのを思い出した。


時刻は深夜を通り過ぎて、早朝になっていた。長時間パソコンを見たせいで眠れるような気がまったくしない。目を休めるのも目的に含め、神社へ歩くのも良いかもしれない。


外に出てもいい恰好に着替え、玄関から出て、鍵をかけたときだった。


「あれ、作家先生じゃないですか」


背後から、朝だからか元気の無い声が聞こえた。


振り返ったそこに居たのは、近所に住む女子高校生だった。名前は知らないが、たまに歩いているのを見かける。軽い会話も一度したことがあるが、その時に名前を聞くのを忘れていた。


しかし相手はそうではないようで、私の職業を知っている。本のカバーにある顔写真で発覚したらしい。改めて考えるとかなり危なっかしいので、それ以来写真は載せないようにしている。


「こんな時間に珍しいですね。何かあったんですか」

「何かあったわけでもないけど、散歩でもしようかと」


そうだ、と私は思う。彼女にも怪談が無いか聞けばいいじゃないか。私は彼女にも事情を話した。


「なるほど、怪談ですか……。残念ですけど、そういう話には縁が無く……あ」


彼女は何か思いついたようで、「怪談ってほどでもないんですけど」と話し始めた。

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