幕間4
「あるもんですね」
「言った通りでしょう」
得意げにする相手が、やけに癇に障った。
「しっかし、それにしても不気味ですねぇ」
「そうですかね」
編集者は、多少大げさに驚くような仕草をした。
「これはこれは。先生はホラー作家であるのに、不気味だとは思わなかったんですか」
「まあ」
意図しているのかしていないのか、やけに厭味ったらしい言いぐさだった。私は唇を湿らそうとして、カップにコーヒーが残っていないことに気づいた。
「ホラー作家だからこそ、かもしれません。いまいち盛り上がりに欠けるというか、整理すれば大したことがありませんから」
「そんなもんですかねぇ」
そんなものだ。あの話を整理すれば、
①アルバイトの店員が倒れた
②語り手は嫌な気配がした
だけの要素しかない。
つまり、正直言って怪談話としては全く派手でない。かなり地味な部類であるから、ストーリーテラーの腕が悪いと本当に面白くない。
私は嫌いじゃないけど、パッと目を引くかと言われれば、当然そんなことはないだろう。読者、つまり一種の観客を相手にする商売において、目立たないことはそれだけでマイナスとなるのだ。スプラッタ映画が株を得ているのが良い例である。
「あなたが担当する小説だって、こういうのは少ないでしょう」
「ええ、そうですね」
あっさりと認める編集者。半ば予想はしていたが、何が本音かさっぱりわからない。
こういう人だ、と諦めるように思う。
「それはそうと、次の当てはあるんですか?」
「知り合いに聞いてきたんでもうできています」
「おや、それはそれは」
嫌味なのか、本心なのか、編集者は驚いたように目を見開いた。わざとかどうかは知らないが、少なくとも、かなりイラつく仕草であることに間違いはない。
私は内心で、表面上に出ないように溜息を吐いた。
「プリントアウトはしてないんで、メールで今から送りますね」
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