第9話

 最近、学校の様子がおかしい。


「ん……おかしい」


 ウチこと、南宮くんに振られてしまった山野ふうかは呟く。


「ん……ん……ん……」


 スケッチブックに鉛筆を当てる度に、癖で小さく声を漏らす彼女。


 想い人?である南宮彼方、友人の三人組。

そして、南宮くんに告白…をされていた霧島笹乃。



「…ん…………?」


 描き終えた人達の姿を見て首を傾げる。


 学校の様子がおかしいのは、きっと南宮彼方くんのせい。


 彼は、何故かは分からないけど自分の性格を偽って色々な事をしている。


ピピピッ。

「んっ…」


ット!


 携帯のアラームが鳴り、フウカはピクッと背筋を伸ばし反応する。

いそいそと、小さい身体で大きめのスケッチブックをカバンに差し込み、トテトテと急いで移動し始める。



ガラガラッ!



「はぁ……クソ」


「ん………………何回見てもうっとり…」


 物陰から、とある倉庫を出できたカナタの姿を覗き込んだ。


「……つぎは…………あっち」


 カナタが、前髪をかき上げた仕草を見て、フウカはそう遠くない所にある公園の方へと動き出す。


「ん…かんぺき」


 彼女の予想通り、カナタは公園にやって来て水道で顔を水で洗い始めた。


「ふふふ………ウチの勝ち」


 一人でニヤリと笑い、誰に向けるわけではないがピースをした。



 彼女は今、何をしているのか?

物陰から姿を見て、付け回す行為…そう、カナタのストーカーをしていたのだ。


 実を言うと、彼女は一度もたりともストーカー行為を辞めたりはしていなかった。


 数ヶ月間ずっと、南雲くんに振られてからずーっとストーカーしてた。


罪の意識はあった、けどそれ以上に彼の事が知りたくて…気になって……バレなければいいと思った………いや…


「ばれても…………ん…移動した…」



 今までの彼の行動から、次は家に帰るのだろうと覗き見しやすい位置へと先回りする。


「んしょ……」


 あらかじめ置いておいたカモフラージュ用の葉っぱが沢山付いた木の枝を持ち上げて、自分の姿を隠す。


「………」


 後はもう少しであそこの角を曲がってくる彼を待つだけ。




「………ぁ…」


 彼が来る前に、ウチは道の反対側から来る人を見つける。


「「「………」」」

 

 三人組………下を向き、何処かふらふらと歩いていて顔は見えなかったが、髪型や背格好からその三人がよく見知った人物だということが分かった。


「………ついにイカれた?」


 元々、頭がおかしい友達三人。

この頃は更におかしくなって居たのは知っていたが、遂にあそこまで逝ってしまったか…と、自分の事を棚に上げてヤレヤレと首を振る。



 でも、何でこんな所に居るんだろう。


三人の家はこっちの方ではなく、フウカの様にカナタを追い掛けて来なければこんな所にいる訳が無いのだ。



「さんにんも?」


 三人の性格上、ウチみたいに直接話しかける事が出来るとは思えない。

だが、このまま隠れなければ彼と鉢合わせる事から、ストーカーとして来た訳じゃなさそうだった。



「あ……」


 そして、遂に彼が曲がり角から現れる。

横一列に歩いてくる三人に気づき、彼はほんの少し動揺してその場に立ち止まる。


 警戒して、彼も三人の様子がおかしい事に気が付いたのか突然先程の倉庫の方へと走り出した。



「止まって!!」「待てっ!!」「待ってください!!」


「っ…」


 ウチは驚いて思わず悲鳴を上げそうになった。



隠れている物陰の近くで、とても正気では無い三人の顔を見たからだ。



「……やばい…………あれはだめ…っ」


 何が起きているのかは分からないが、マズイことが起きている事は分かる。


 フウカは、急いで後を追った。







………………………………………。








一時間程前…………。



 学校で、三人がいつも通り集まって話しをした後の事…。


「きょ、今日はここまでね」


「う、うん…これ以上は…」


「そぅだねぇ」


 気になる男子の話題を話し合う会。

彼女達は、南宮彼方というクラスメイトの写真を見てから完全に推しが彼になってしまっていた。


 何故こんなにも惹かれるのか、彼女達自身も分からないままでいる。



「あぁ、頭いったい」


 興奮し過ぎて、頭に血が上ったのかクラクラする。

二人も同じなのか、メイはキャラを作るのも忘れて眉間にシワを作りすごい顔をしていて、ホノカは普通に気分が悪そうに目を瞑っていた。



「今後は少し控えた方が…………いや無理か」


 私は言いかけた言葉を否定する。

ここにはいない何処かの誰かさんとは違って、教室に居る時だけだけど、つい彼の事は目で追ってしまうし、彼のことで話したい気持ちは抑えきれそうに無いからだ。


「なにをぉ独り言言ってるのぉ?」


「なんでもないわよ!」


「あはは…」


 いちいち独り言に茶々を入れるメイに怒りつつ、私は教室を出ていく。


「今から帰りですか?」


「あ、先生」


 偶然通り掛かった先生に呼び止められる。


「はい、そろそろ帰ろうかなって」


「そっか、気をつけて帰って下さいね?って、三人共顔赤いけど大丈夫ですか?体調悪い?」


 優しくおでこを触ってくる先生は、保健の先生で白衣を着ている。


 背が高ければ様になっているのだろうけど、先生は私と同じくらいの背丈をしていて……子供が遊んで着ている様にしか見えない。


「大丈夫です、少し盛り上がり過ぎちゃっただけなので」


「そんなに真っ赤に成る程ですか?……何で盛り上がったのかは聞きませんが程々にしておいてくださいね?体調管理は大事ですよ?」


「あ、そういえば新しい栄養剤を買ったので使って下さい。栄養を摂っておけば体調も整えやすいので」


 白衣のポケットから、よくコンビニや薬屋さんで売っている様な小瓶に入った薬を渡してくる。


「あ、ありがとうございます」


「ありがとうございますぅせんせぇ」


「…………あっ…えと、ありがとうございます!」



 お礼を言って薬を貰うと、先生は気を付けてねと手を振って去っていった。


「丸々渡されちゃったけど、良いのこれ?」


「さぁ?いいんじゃないかなぁ?」


 普通、薬を渡すとしたら一回分な気がするけど………栄養剤だから、普段から使ってという意味なのだろうか。


「あの」


「え?なにほのか」


「ちょ、ちょっと見せてくれませんか?」


「良いけど…どうかした?」


 手渡すと、ホノカは小瓶に張られているラベルをじっくりと読み始める。


「い、いえ…なんか怖いなって……丁度、読んでいる漫画でこういう感じで薬を貰う場面があって」


「あ〜…それがヤバメの薬でした。みたいな展開の?」


「でもぉ、せんせぇだよぉ?」


「……あんた、もうここ誰もいないんだから普通に喋りなさいよ」


「おけいっ」


「「はぁ…」」


 キャラを作っているメイも、素のメイも、どちらもうざいのは変わらない事に溜息を吐く二人。


「で?これがやばい薬って?調べてみればいいじゃんかい!」


 メイが薬を奪い取り、携帯で名前を検索し始める。


「デタァ!バト……クスリの詳細、デタァ!」


「やめんさい!」


 ヤバメの喋り方にツッコミを入れて、私は携帯を奪い取る。


「普通に売ってる薬っぽいね。ざっと見た感じ大丈夫そうだわ」


「でっしょ?てか私飲んでもいい?普通にテンション上げすぎて頭マジ痛いっす」


 メイはカラカラと軽めの蓋を開け、薬を三錠飲み込んだ。


「水は?」


「要らぬ!唾でおけい!」


「あぁ……ほんとうざい、中学ん頃に戻った気分」


 無駄に高いテンションに、同じ中学でのやり取りを思い出す。

それにしても、見た感じ何も問題なさそうだしやっぱり普通の栄養剤みたいだった。


「あい、ちょいロイヤルゼリーみの味やった」


 飲んでみ?と渡してくる薬を受け取り、自分の分だけじゃなくホノカの分も手に出して二人で分ける。



「あ、ホントだ。ビタミン剤の味」


「確かにそうだね」


 呑み込んだけれど、ホントは喉飴みたいに舐めるものだったのかなと瓶を見る。


「…………」


「うん?どうした?」


 目の前に持ち上げた瓶の向こう側で、メイの様子がおかしい事に気づく。


虚ろな目をして、少し下を向いていた。


「ね、ねぇ…ほのか?これ、やっぱまずかったかも…ぁ…」

 

「え、えぇっ!?…めいちゃん!ゆうこちゃん!ど、どうし………ょ………ぁ…」


 目が虚ろになり、彼女達はどんどん身体が熱くなっていく。


ガタンッ。


 ユウコが手に持っていたメイの携帯が落ちる、画面には待ち受け画面に登録された南宮彼方の姿が映っていた。



「「「っ…」」」


 こうして、三人は『一応』知っていた彼方がいつも行っている筈の場所へと、ふらふらと歩き始めたのだった。





………………………。


 

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