第2話

 全くの偶然から、華蓮との接点が生まれることになった。自分の中で意識していなかった華蓮ではあるが、私が入学して迎える初めての夏学期、涼介が夏学期を受講せずに夏休みの3ヶ月間、一時帰国することを決めた。その間にアルバイトをしてお金を貯めるためだった。


 華蓮は夏学期を受講するため大学に残り、涼介とは一時的に離れ離れになることになった。いつも後輩を気にかけてくれていた2年先輩の鷺沼一樹は、涼介が唯一信頼する数少ない人物の一人だった。


 涼介の一時帰国が近づく頃、涼介は一樹に、自分がいない間の華蓮の世話役を頼んだ。一樹は快諾し、何かイベントがあるときは華蓮に声をかけて退屈しないようにすることを約束した。一樹は、私を含めた後輩とも広くネットワークを持っており、涼介がアメリカを離れている間、皆がどこかへ出かける際に華蓮を誘って欲しいと声をかけて回った。


 この時まで、一樹を除くほとんどの人が華蓮と交流がなかったのは、涼介が嫌がっていたからだ。これまで華蓮を誘おうとしても、涼介が束縛することで全ての誘いを断ってきたのだ。しかし、涼介の一時帰国は、華蓮にとっては開放的な機会となった。


 誘う人によって、そのイベントの趣旨は大きく異なった。美術館好きの人、映画好きの人、食事好きの人、ウィンドウショッピング好きの人など様々だったが、私はテーマパークとコンサートに行くことが特に好きだった。


 初めて行ったコンサートは、遠方にあるアリーナでのものだった。車社会のアメリカでは、一人一台車を持つのが当たり前で、アリーナにコンサートを見に行くとしても、車がない人がタクシーで来るのは稀なことだった。日本の感覚では、アリーナの入り口付近にタクシーが止まっていると考えるかもしれないが、アメリカでは電話しなければタクシーは来ない。初めてのコンサートは、タクシーで行った。


 一樹の配慮を受けて、私のグループもコンサートやテーマパークに行くときには華蓮に声をかけた。女子校時代にバンドでギターを弾いていたという華蓮は、コンサートに行く誘いには興奮した面持ちで応じた。華蓮は車を持っていたため、次のコンサートからは彼女の車で行くようになった。


 アリーナでのコンサートだけでなく、小さなクラブでのライブにも頻繁に行っていたため、自然と華蓮と私の仲は近くなった。イベントごとに誘わずとも、キャンパス内ですれ違うときにはよく話すようになり、メールでのやり取りも頻繁に行うようになっていた。


 華蓮との距離が最も近くなったのは、私が心を寄せていた同期で違う大学に通う橘麗奈に対する思いと、振り向いてもらえないもどかしさを共有したことがきっかけだった。その話以来、華蓮との距離がぐっと縮まったのだ。

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