秘密に触れた朝

長谷川 優

第1話

 私が白井華蓮に出会ったのは、学生寮のロビーでのことだった。

「あ、おはようございます」

私は、少し控えめに挨拶をした。

「おはよう」

白井華蓮は、長年深い友達に対してするように挨拶を返してきた。


当時、彼女は付き合っていた風間涼介の部屋を訪れる途中で偶然に出会ったのだ。私が住んでいた寮はアメリカの大学の寮で、キャンパスの南端に位置していた。一方、華蓮が住んでいたのは隣の女子寮だった。


 華蓮と涼介は同期の日本人同士で、その出会いのきっかけは涼介からだった。華蓮はお嬢様学校出身で、男性に対する免疫がほとんどない状態で渡米し、そこで涼介に出会った。彼女にとって、男子から声をかけられる経験は初めてで、そのことが彼女の中に眠っていた何かを目覚めさせたのかもしれない。


 涼介は、男から見ても特に憧れるタイプではなく、むしろ少し内向的な性格だった。社交性に欠け、頭脳明晰ではあるが、人を楽しませることには関心がない。コミュニティに属するよりも、特定の一人と一緒に時間を過ごすことを好むタイプだった。


 華蓮は、それなりの容姿を持つお嬢様タイプの女子であったが、男性とのかかわりをほとんど持たずに育ったため、涼介のアプローチにすぐに惹かれてしまった。もし彼女が過去に何人かの男性と関係を持っていたならば、おそらく涼介を選ぶことはなかっただろう。


 華蓮が男性を知ったのも涼介が初めてであり、今のところ彼女が知る男性は涼介のみだった。女子校で育ち、大学で渡米してから男性と関わることすべてが新鮮で刺激的に感じられたのだ。だが、彼女が涼介に満足していないことは、周囲からも明らかだった。


 華蓮は集団で集まることを好み、人との関わりの中で頼られている自分に酔いしれるタイプだった。それは、女子校時代に後輩からよく頼られ慕われた経験によるものだ。私の目から見ると、彼女のリーダーシップは彼女に心酔している人々しか動かせないものであり、それが皮肉にも周囲の女子たちとの距離を広げる要因となっていた。

 

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