闇BLアンソロジー2025の感想

 コンセプトアンソロジーっていいですよね!

 それぞれは短編なのでサクッとおいしく読める上、今まで知らなかった作家さんと出会えるきっかけにもなります。元々自分が好きなコンセプトはもちろんのこと、あまり詳しくないけど気になるコンセプトがあったとき、そのコンセプト推しの方々が書かれる熱量溢れる物語にたっぷり触れられるというのは、ひたすらにありがたいことです。ありがとうございます!!


 さて、コンセプトが独特で気になる「闇BLアンソロジー2025(https://amzn.asia/d/g21ZGoU)」、昨年度に引き続きどきどきしながら拝読しました!

 昨年はNTRや近親相姦など歪な関係性が印象的なお話が多く、関係性オタクとしてやたらめったら性癖を刺された記憶がありますが、今年は因習村的なお話やホラー風味な読み味のお話が多く、夏の季節にぴったりの刺激的なアンソロジーでした。


 闇と言えばバッドエンドやカニバリズム、過激なエログロをまずイメージしますが、それに限らず、ラベルのつけられない関係性や世間から後ろ指を刺される関係性、ホラーBLや、Loveではない男性同士の肉体関係などなど、普段BLジャンルの海を漂っていてもあまり出会えないタイプの幅広いお話が含まれることを、こちらのアンソロジーに教えていただきました。

 尖ったコンセプトアンソロジーが好きなので、今年も読めて嬉しいです。ありがとうございます!

 各作品の感想を以下にひとつずつまとめました。

 ※ネタバレには一切配慮していませんのでアンソロジーを未読の方はご注意ください。




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夜刀の花嫁(緑虫先生)

双子の片割れから虐待され、村人たちへの性奉仕を強要され、ひどい扱いを受けてきた忌助が可哀想だったけれど、本来逆の立場であるはずだったと思うと余計に可哀想で、神様の花嫁として迎えられた時にはほっとしました。肉団子のくだりや、報いを受けてひっそりと滅びる村に、ひやりとした読後感が残りました。因習村的な読み味もあって素敵なお話でした。


ディオとディル(まー先生)

奴隷として生きてきたディオとキメラとして作られたディル、閉じ込められた部屋の中で育まれたふたりの歪な絆が味わい深かったです。何もなければ穏やかに過ごせた箱庭から外に出たふたりは、この先ふたりきりの不死の生き物として生きていくのでしょうか。不穏さの残る終わり方に闇を感じてよかったです。


花棺(猫丸先生)

男性同士で関係を持つ龍陽が嗜みとして黙認されていた時代のエリートたちの話で、とても好きな執着愛でした。憧れも支配欲も恋も混ぜこぜになった相沢から豊太郎への執着は、善意も悪意もあるのに、怖いくらい純愛なようにも思えてしまって、読んでいてぞくぞくとしました。愛する相手を他人に抱かせ、元恋人から奪い取る様子が獲物を絡みとる蜘蛛のようで、すごかったです。一番性癖に刺さったお話でした。


じゃない方の異世界転移(明和来青先生)

勇者召喚に巻き込まれて異世界召喚されたシノブこと魔王が、周囲に気付かれないようにじわじわと内側から城と国とを崩していく様が、いかにも魔王らしい性格の悪さを感じて怖かったです。自分の欲のために色々な人を性的に堕落させておきながら、自分の手は一切汚していないところが闇深くてお見事でした…!


地獄の沙汰(豆啓太先生)

ミステリアスな雪白と賭け事狂いの霜雨、どんな関係になっていくのかとどきどきしながら読み進めていったら、甘い花の香りや日文子の意味深な言葉など、途中から怪異やホラー的などきどきがどんどんと加わってきて、ラストはもう背筋がぞっとするような闇感がありました。ホラーと闇の両方を味わえる、夏にぴったりなお話でした。


えりおの異常な愛情(まめ先生)

まさにタイトル通り、えりおくんの異常すぎる愛情が怖いお話でした。他者への愛情というより強すぎる自己愛のような印象を受けるというか、ヤンデレを通り越してもはやそういう怪異なのではないかと感じてしまうくらい、えりおくんの所業が突き抜けていて怖かったです。ラストは犠牲者もしくは恋のお相手を変えて同じことが繰り返されているのだろうなと感じて、ホラー的な怖さがありました。


呪縁(紅神鏡夜先生)

オオグチさまの言い伝えと出歩いてはいけない時間帯が決まっている村で起こる、神様と生贄の番の物語。見ようによっては幼馴染との再会物語でもあり、絡みついた因習と因果によって人ではなくなってしまうホラーなお話でもあり、どきどきしながら面白く拝読しました。ミニエになってしまった名前も分からない主人公さんは可哀想ですが、なんやかんやで仲良く暮らしていけそうなラストに救われました。


コマンド:エラー(赤牙先生)

恋愛シミュレーションゲームの主人公サブリナにハッピーエンドを迎えさせてあげたくて、何周もゲームを繰り返していた涼太が、ゲームの中の世界に引き摺り込まれる物語。攻略対象のギャレットからサブリナを逃がすため、何度も生贄のように死なせてきたウェインに成り代わらされるところに悲しい因果を感じました。あんなに望んでいたはずなのにハッピーエンドを喜べないラストが切ないです。


エルピス(弥生先生)

希望を持ってしまうことこそ絶望だと聞いたことがありますが、未来視の力を持つフランチェスコが、未来は変えられるのではないかと希望を持ち、けれど何も変えられなかったという悲しい事実にそれを思い出しました。手段を選ばない彼が清廉なジュスティツィアに惹かれていたのもまた、頑張れば報われると心の奥底では信じたかったのかなと感じて胸が痛いです。やるせないながらもとても美しい絶望のお話でした。


でんでら、でん(春森夢花先生)

人を人とも思わない自分勝手なヤクザの宮口が、山奥にある怪しげな教団に近づいて生きた神さまになるまでの過程にホラー的な怖さがありました。自業自得と言ってしまえば自業自得ながら、話の通じない多人数に囲まれて体を変えられていく場面を想像すると背筋が冷たくなりました。狂ってしまってもおかしくない状況で、それでもしたたかに生きている宮口がすごかったです…!

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以上です。

アンソロジーの執筆者さまも主催者さまも、素敵な一冊をありがとうございました!!

来年も開催されるのでしょうか。開催されるといいな!

一アンソロ好きとして楽しみにお待ちしております!

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