第7話 デジャブ

 ゴン太がゴブリンを容易く倒したことで、凜々花さんが調子に乗って、鼻歌を歌いながらダンジョンの奥へ足を進める。


「あ、あの大丈夫なんですか?」


「狐が居れば大丈夫だ!」


「……私もゴン太のダンジョン攻略初心者なんですが?」


「……大丈夫だろう」


 心配しかない。

 自分の実力に自信があるのであれば、「私が居るから大丈夫だ」的な言葉で安心させてくれるはずなのに、言葉に詰まって「……大丈夫だろう」という一切信用できない発言しか出てこないとなると、もしかして思っている以上に弱いのか?

 そんな俺の心配はよそに、凜々花さんは気にせず進んで行く。


 流れる空気は冷たく、鼻に入ってくる空気は無臭。そんな生物が生息しているとは思えぬ環境から、ダンジョンに存在している魔物たちは地球由来の生物ではないってことが分かるな。


「来るぞ!」


 あの時と同じように、凜々花さんの警告で魔物に気付く。

 曲がり角から姿を露わにした魔物は、変わらずゴブリンだった。


「今度は凜々花さんが戦ってみてくださいよ」


「ん、無理だぞ?」


「はっ?」


「だって私が持っているスキルは【気配察知】だけだからな」


 理解できなかった。

 ならばどうして初心者を連れてダンジョンに来たのか、俺がダンジョンでキャンプしていた時にどうして来たのか、俺を守るためにゴン太へ剣を向けていた時の勇気は何処に行ったのか……色々言いたいことはあるが、戦闘能力がないのなら先陣切って進むなと伝えたい。


 伝えたいだけで、勇気はないから口には出さないけどな。


「……ゴン太お願いできる?」


「コン!!」


 俺のお願いにゴン太は勇ましく火の玉を浮かべた。

 先刻のゴブリンを倒した時よりも一つ多く、短時間で成長しているように思える。


「コーン!」


 放たれた火の玉が一斉のゴブリンへと襲い掛かる。

 相変わらず感じられる温かみからは想像できない火力を持ち、着弾と共にゴブリンの肉体を真っ黒な炭へと変えた。


「やっぱりウチのゴン太は強いなぁ」


「だろう! じゃあ進もうか」


「はっ?」


 なんでお前が誇らしそうにしてんだともツッコミたかったが、一番ツッコミたい点はこれだ。何故ゴン太頼りなのに勇ましく進むのか。ただそれだけだ。

 いつもは勇気がなくて言い出せなかったが、これは言いたい。


「なんでゴン太――」


「あ?」


「なんでもないです」


 この人、絶対嘘ついてます。

 こんなに鋭い眼光を出せる人が、戦闘向きのスキルを持っていないなんておかしいだろ!

 

 そんな心の叫びが伝わることもなく、凜々花さんはダンジョンを進んで行く。戦闘できないと分かってしまった以上、ゴン太を連れて帰ってしまえば、凜々花さんがどうなってしまうか分からないため、俺たちも付いて行かざるを得なかった。

 

 凜々花さんが所有しているスキルのお陰で奇襲を受けることなく、全てのエンカウントが対面戦闘から始まっているため、ゴン太が火の玉を出せる限り勝ち続けられた。

 そう、ゴン太が火の玉を出せるまでは順調だった。


「どうして教えてくれなかったんだ、悟!」


「そんなの分かるわけないじゃないですか!!」


「こーん」


「ゴン太が悪いわけじゃないから! ゴン太頼りなのに一人進む凜々花さんが悪いんだから!」


「私のせいだというのか!!」


 今俺たちが何をやっているのかと言うと、来た道を全速力で駆け抜けていた。もっと詳しく言うと、六体目のゴブリンと接敵時にゴン太が火の玉を出せなくなり、ゴブリンを倒す手段を失った俺たちは逃げることしかできなくなったんだが、かなりダンジョンの奥深くまで行ってしまっていたため、中々出ることができなかった。


 つまり何が言いたいのかと言うと


「今は何体付いて来ているんですか?」


「うーん……六体だな!」


「無理だァ!!」


 走り抜ける際にエンカウントしたゴブリンも引き付けることになってしまい、俗に言うモンスタートレイン状態になっていた。

 もし誰か別の人が居た場合マズイ。

 でもこのまま逃げたとしてもマズイ。

 てかもうマズイ。


「足が攣る! てか無理!!」


 運動不足のおっさんが全速力で走るなんて無理だ!

 攣るとか以前に動かなくなってきた。絶対あと少しでこけ――


 こけた。

 しかも足が動かなくなるとかじゃなくて、小さな石につまずいてしまった。


「悟!」


「コン!」


 ゴン太可愛いな。

 そんなことを思いつつ、意識がブラックアウトした。


                ◇◇◇◇◇


 知ってる天井だ。

 記憶の引き出しの一番上段、かなり新しい記憶。

 まあつまり病院、俺を見捨てたあのクソ医者が居る病院だ。


「あっ」


 デジャブ?

 扉を開けた凜々花さん、苗字は知らなくていいや。と目が会ったが、逃げるように出て行った。


「ほ、本当に目覚めたとは……」


 なに? 本当にタイムリープでもしているのか?

 最初会った時と全く同じ反応だぞ。


「まあ冗談はここまでにして」


 ころ――口が悪くなってしまった。だがこの医者のイカレ具合には、誰だろうと口が悪くなってしまうだろう。


 キャンプしたいなぁ。


――あとがき――

Q 何故悟の周りにはイカレた人しか集まらないのか?

A 悟もまた、イカレた人間だから。



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