第6話 再び
「懲戒解雇……」
俺から漏れ出た言葉を聞いて、凜々花さんは顔を真っ青にしている。あまりに青過ぎて、当事者の俺が冷静になるレベルで真っ青だ。
「だ、大丈夫ですよ。そもそもウチの会社……もう違いますが、ブラック過ぎていつ辞めようかと思っていましたから」
「可哀想に!」
確かに大丈夫とは言ったが、そんな大声で「可哀想に」って言えるタイミングではないだろ。もう少しは申し訳なさそうな雰囲気を出し続けろ。
当然、そんなことを面と向かって言える勇気はないため、黙って「可哀想に」という言葉を受け入れる。
「あはは……」
同席している医者は気まずそうに笑っていた。
その笑いは、俺への哀れみか、凛々花さんのイカれた反応への呆れなのか、それ次第で俺が受けるダメージは大きく変わるぞ。
「――」
おい医者、目を逸らすな。
やっぱり哀れみなのか! 哀れみで気まずそうにしているのか!?
「私の見込み通り、その狐は強かったな!!」
「……いや、俺は怪我しているんですが?」
「そんな話はしていないぞ?」
いやしろよ。
アンタのせいで大怪我しているんだが? 会社辞めさせられるんだが?
「はぁ、まあいいです。でも助けてくれたのは凜々花さんですよね?」
「確かに病院まで運んできたのは私だが、あの時のゴブリンを倒したのはその狐だぞ」
「へっ?」
そうなのか?
……確かに意識が飛んだ時、一回だけ目を開けた時にゴン太が火の玉を飛ばしている光景を見たような気がする。
「こん?」
こんなに可愛らしく首を傾げているゴン太が倒したのか?
あの醜悪な見た目と殺意マシマシな棍棒を持ったゴブリンを、こんなにモフモフしていて戦いとは縁がなさそうなゴン太がか?
「いやぁ、無理でしょ」
「いや、私は戦っていない」
「だってこんなに可愛らしいゴン太が、あのゴブリンを倒せるわけないですって」
「だから私が戦わず、狐も戦っていないのなら、誰が倒したと言うんだ」
「気絶していたので知らないですよ」
「ああ言えばこう言う!」
「だって信じられないですって。ウチの可愛らしいゴン太が、あの殺意に塗れたゴブリンを倒せるとは思えませんて」
「――」
なぜだろう。
聞こえるはずのない堪忍袋の緒が切れたような、ぷつんという音が聞こえて来た。
「なら行くぞ!!」
「ど、どこにですか?」
短い付き合いだが、凜々花さんがこれから言うことが分かる気がする。
「ダンジョンにだ!!」
ですよねぇ~。
ただ、俺は目を覚ましたばかりの重症患者のはずだ。ドクターストップが掛かるに決まっている。
助けを求め、医者の方に目をやる。
「……」
おい医者、両手を挙げて首を振るな!
それはお手上げって言いたいのか!? どうした医者! ポンコツ冒険者に負けるなよ!!
「ほら、行くぞ!!」
「――ぇ?」
無理矢理立たされそうになって、これから感じるであろう痛みを待ったが、想像していた痛みはやって来ず、今まで通りの動きができた。
「ほら、歩けるんだからチャッチャと行こう!!」
「……」
もう止められないよ。
きっとこの人を止められるのは、父親であるギルド長だけなんだろう。
◇◇◇◇◇
怪我明け直ぐのダンジョン。
そもそも明けてないよなぁ。一週間眠っていたくらいには重症なのに、起きて一時間も経たずしてダンジョンに連れて来られるなんて……やっぱりイカレているよなぁ。
「じゃあ狐、主人に強さをみせてやれ!」
「コン!!」
ゴン太ぁ?
そんなイカレ女の言うことなんて聞いてはいけません! と口に出して伝えたいが、何されるか分からないので口には出さない。
社会人としての線引きは出来ているから……あっ、もう社会人じゃなくなるんだった。
「来るぞ!」
一週間ぶりだな。
某巨人アニメのパロセリフを言ってみたが、あの人みたいに勇ましく突撃したりはしない。そもそも敗北した恐怖感から、脚が震えて立っているのがやっとなくらいだ。
「ほら、狐に命令してみなさい」
「ご、ゴン太、倒してくれるか?」
「コン!!」
俺の震えた声に対し、ゴン太の返事は勇ましい。
提案しておいてなんだが、本当に戦えるのか?
「コーン!!」
あの時みたいに、ゴン太の周りに火の玉が浮いている。
どこか温かみを感じる複数の火の玉。それが一斉にゴブリンへと襲い掛かった。
「すごい」
無意識にそんな感想が漏れ出る程、ゴン太は強かった。
一斉にゴブリンの身体へと襲い掛かった火の玉は、緑の表皮を焼き焦がし、真っ黒な炭へと変える。そのダメージが致命傷となったようで、ゴブリンは魔石へと変わった。
「これで納得してくれたか?」
「ああ、ウチのゴン太は可愛いな!」
「イカレたのか?」
お前に言われたくない。
――あとがき――
受け入れられがちな魔法という超常現象
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます