第10話(最終話)
料理の授業があって、どのグループに入るかというのを選ぶことになった。誰でもいいやと隣の山下くんが誘うのに入ったら、そのグループの他のふたりも喜んでた。そんなに喜んでも何もないけどなとは思うが。
全然、料理がうまいこともないけど、まあ指導のままみんなで作るとそれなりにおいしくできた。食事のそのままのグループで食べたけど、オレが作ったのはおいしいらしい。
「別に変わらないよね?」
「おいしいよ」
「どれがオレが作ったやつかわかる?」
ニコニコしながらそう聞くと、その子はわからないので冷や汗をかいている。笑ってオレは言った。
「オレも覚えてないや、適当に何か言ってたら正解だったな」
「何を言ってもバツでも良かったんじゃない」
別の子が冷やかした。
「まあおいしく感じるならなんでもいいけど」
それは確かにそうだとみんなで言った。
その日の放課後にはもうその子から校舎裏に呼び出されて告白された。
「す、好きです、付き合ってください」
かなり腰が引けているが、そういう彼はけして悪い感じではない。性格も良さそうだし、陽キャじゃないのがいい。顔はまあ……及第点だろうか。でも、当然ながら付き合うとかいうつもりはない。だって今日始めて話をしたくらいだし。ていうか男だし。そろそろオレが自分を男だということを忘れたとでも思ったか。そんなわけないじゃないか。
「悪いけどそういうのまったく考えてないから」
そう返事すると、一応食い下がってきた。
「どうしてもだめですか、最初だけお試しでもだめですか」
「お試しってなんだよ! せめて、興味があってからのお試しだろ、たぶん。はっきりいって興味全然ないから! でも念の為、嫌ってるわけじゃないから、そこは勘違いしないように。いや、勘違いしたから今こうしているのか」
「勘違いってのは、俺がお前を好きになったことが勘違いなの?」
「いやそうじゃあなくて……君の気持ちは尊重はするよ、でもこっちにその気がない」
「つまり振られたってことなんだ……」
彼は諦めて帰っていった。意外と物わかりがよくて、ホッとする自分がいた。なぜ自分にとって興味がないのか、興味がある方がおかしいと思う。今、自分にとって一番大切なのは自分自身を守っていかなくちゃいけないってことで、そのことにしか興味がない。そういう点ではオレからしたら、彼はちょっと、軽々しすぎるかな。
オレも家に帰ろうと思ったら、さっきから男子女子が数人、告白の場面を覗いていたみたいだった。
「いやさあ、お前らさあ!」
ついつい叫んだ。男子は逃げたというか振られた彼を追っかけていって、女子はそのまま逃げずにぬけぬけと残った。別に責めたりどうこういうつもりはないけど、あんまりいい気持ちじゃないよ。
「だって私たち心配だったんだもん。ユキくんは私たちの彼氏だから」
「ああ、そういえばそういう設定だったなあ、忘れてた」
「ひどーい!」
「ひどいと言われたって……」
「だいたい、私たち朝迎えに行ってるのも、雪くんの護衛のためだし、だから変なことされないか見守らないと」
「確かに……」
「納得しちゃった」
「でもこっちは良いけど、あっちには許可取ったのか」
「それは……」
「うん」
「どちらかといえば……」
「取ったんだね」
「取ってない」
なんだよ!
「でも彼、私らには気づいてなかったから、大丈夫だよ」
「そういう問題じゃないよ……」
なんだかあいつがかわいそうになってくる。でも笑いものにはしてないから、まだいいのか? 興味津々て感じではあるけれど。帰りながら根掘り葉掘り聞かれたので、とっても困った。オレだってこういうのは初めてだから。
ネットにはフリスタもサヤ師もいる。トモキだけいない。
「声かけてもだめなの?」
フリスタが尋ねる。
「声はかけてない、話もできないから」
「ええ……じゃあ、もういいんじゃない?」
「いい、ってなんだよ」
「もう関わるの諦めようよ。それよりメンバー増やそう、女の子がいいな」
「それじゃ男はますますオレひとりになっちゃうよ」
フリスタの沈黙があった。サヤ師は何か言おうとしているようでしかし喋れないでいる。やがてフリスタのメッセージが届いた。
「もう認めた方がいいんじゃないかな、ユキくんだって女の子だよ」
「そ、それは人それぞれの考えだから……」とサヤ師が横から言う。
「はっきりさせた方が今後のためにもいいかと思って……」
「ならはっきり言うよ」オレは口を開いた。「オレは男! 絶対男だ。なんのためにオレがオレって言い続けてるのか。他の何者にもなりたくないんだ、せめて心の中だけは、絶対に他人なんかにならない!」
「あ、やっぱり無理して言ってたんだ……」
「無理してじゃないけど、男としての自分を保つために……」
「それっておかしくない? 男らしいことがユキくんじゃないじゃん。それとも前はそんなに男の中の男だったの?」
「痛いところつくなあ」
「ユキくんはどんな自分が本当の自分なの?」
サヤ師が尋ねた。
「それがよくわからない……わからないけど、自分ってそもそもはっきりしたものじゃないのかもしれないなあって思う」
「だから色んなことにこだわったりしたのね」
「そうかもね」
「自分っていうのは人とのつながりだって聞いたことがあるよ。どんな人が周りにいるかを見たら、その人のこともわかるのよ」
「誰かが言ってたの?」
「本に書いてあったんだったかな……」
サヤさんも大人に見えてちょっと不安になるところがある。そこが個人的にはホッとするし偉ぶらないのはむしろ大好きだ。そもそもみんな仲が良いからこうやって集まってるんだ。
「でもそうなると、やっぱりトモキが……あいつは昔から大事な親友なんだ」
「そ、そうね……これは余計なことを言ってしまったかもしれないわ……彼がまたここに来るかどうか」
「いや、来るよ! きっと、信じてるさ」
「私は来ないと思うけどね」
「なんでそんなこと言うの!」
フリスタをサヤさんが叱った。
「だって、本当のこと言った方がいいじゃない、信じたら後から傷つくでしょ?」
「それは前にも話題になったけど! やってみないとわかんないから! 起きてから心配したらいいんだから!」
どっちが正しいのかもうよくわからない。ただ一回言われたからもうとっくに不安が入り込んでるし、そもそもサヤさんだって不安なこと何個も言ってるしな……。とにかく、覚悟はしておかなくてはいけないみたい。でも、ぼくは……誰からも好かれる美人だから……たぶん強引にいけばトモキも連れてこれるだろうと思う。男らしさからは遠ざかった気もするが、背に腹は代えられない。今回だけだ。
登校する時に、女子たち、ぼくの彼女たちにも聞いてみた。
「トモキって、ぼくのこと好きだよね?」
「そうだと思うよ」
「最近……ちょっとあって、距離ができてるんだけど、大丈夫かな」
「心配ならお化粧する? 私、ちょっと上手になったから」
新木さんはやりたくてしょうがない感じだけど、そこまでやると違ってくる気もする。
「興味はあるけど、またね」
「いつもやらせてくれない、たまにはお願いよ、せっかく練習してるんだから」
「今日はそれどころじゃない」
少しだけ苛立ってしまった。新木さんがすまなそうな顔をしてるので心が傷んだ。女性の間に入るのは難しい、学校に着くだけでなんだか疲れちゃった。
トモキのやつは楽しそうにしている。なんか腹立つ。けど、機嫌がいい方がこちらにも都合がいいのかもしれない……から許す。どうも雰囲気が変わった気がする……。別人のような顔に見えることもある。
お昼に一人になったのを見計らって、ぼくはやつの手を引いた。むりやり廊下に出て、階段を上り、屋上に出た。やはり大事な話をするのは屋上だと相場が決まっている。
トモキは意外と大人しくついてきているが、こいつも何か思うところがあるのかもしれない。
しかし、屋上に出るところのドアの前で腕に力を入れて止められた。それまで引っ張れていたのがびくともしない。ぼくより小さいくせに……!
「そこ、空いてないよ、いつも」
「え、そうなのか。残念だな……」
仕方ないので、階段に腰掛けた。ここでも人がいないので、まあいいだろう。他に移動する時間ももったいないし、あてがない。隣にトモキが座る空間を空けたつもりだったが、彼は座らなかった。
「話があるんだ。といっても、そんなめんどうな話じゃないよ」
ぼくはごくごく自然に切り出した。実際、言う通りで難しい話じゃないはずなのに、それでもなぜか緊張で心臓が速くなっていた。
「あのさ、サヤ師さんとか、フリスタさんとか、まだ覚えてるよな?」
「ユキ、息切れしてるけど大丈夫か?」
「そんなことどうでもいい! ふたりも会いたがってるんだ、いい話もあったし、また来いよ」
「いい話って何?」
「フリスタさんの両親が再婚したんだ。あ、離婚してたことも知らなかったか。よりを戻したんだよ」
「それはよかったなあ」
「よかったなあじゃねえよ!」つい熱くなった。「いや、よかったのはそうなんだけど、そうじゃなくて、来るのか、来ないのか、どっちなんだよ」
「いかない」
その返事がぼくには思いっきり冷たく聞こえた。
「知ってるかもしれないけど、俺、彼女ができた」
「し……知らない……」
「そうか。今はそっちで忙しいから、行く暇ないんだ」
「でもそんなの、ちょっと顔を見せるくらいでも……」
「どうせそれじゃ終わらないだろう? それより、彼女ができたのをお祝いしてくれよ」
「あ、ああ……おめでとう」
「お前よりは美人じゃないけどな、さすがに」
「言われたって全然嬉しくないけど」
「まあ、お前もお前の新しい友達を作りな、恋人でもいいし」
「それは男か、女か」
「それは俺に言われても……」
「わかったよ。お前はかなり変わった。変わってしまったんだな。これじゃあもう意味がない、例えいまさらお前が来たところで、元のお前じゃない」
「なんのことだ?」
「お前にはもう用がないってこと、さよなら! 色々迷惑かけたね」
「泣いてるのか?」
トイレに寄ってから教室に戻ると、新木さんが寄ってきた。
「どうしたの、雪くん? 顔が赤くなって、ひどい顔になってるよ」
「そうかな? そうかもね」
言葉を出す気も起きずに黙っていたが、ふと思いついて頼んだ。
「そうだ、せっかくだから、少しはましな顔に見えるようにお化粧してよ、いいでしょ?」
そういうと、女子は久しぶりの機会にみな喜んだ。
思春期ではすまない変化 こしょ @kosyo
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