第8話
フリスタから連絡があって、今日も夕方に会いに来るそうだ。めんどくさいけど、今となってはかえって悪くないというか、もう普通に話せるのって彼女くらいかもしれないし。だから嬉しいというより、「お前は、お前だけはわかってくれるよね?」って言いたい気持ちだし、救いを求めるようでもある。こういうとまるで裏切られる前フリみたいだけど、絶対にそんなことはないはずだ。
「逆にオレが裏切ったらどう思う?」
「えっ、いきなり何? 逆にってなんのこと? 怖い、やめてよ!」
いつも通りしがみついてくるフリスタが心底怯えたように言った。
「最近、嫌なことばかりだから、オレが人に嫌なことをするならどうだろうって思って」
「それは私以外の人にやってよ!」
「確かに……誰にやる?」
フリスタは眠っているみたいな様子で考えている。オレもちょっと考えたけど、思いつかないな。トモキでもいいけど……何をしたら嫌がるのかわかんない。
「彼女ができたっていうのはどう?」
「は?」
「それを言えば嫌な思いっていうかがっかりする人多いよ、たぶん。だってクラスの男子も好きになってる子絶対多いし、きゃっ」
最後の悲鳴はオレが無意識に胸の中にいるフリスタを強く抱いたせいでそういう音が出た。
「やめてよ、気持ち悪くて鳥肌が立つ」
「あ、ほんとだ」
フリスタがオレの腕をスリスリ触る。
「完全にそれ自分を犠牲にして放つ技だからね、自分が一番痛いんじゃ意味ないから。自分は大笑いできて人が嫌な思いするのがベストかな」
「そんなにうまくいくようなことあるかなあ。あったとしても人として最低の部類の人間がする行いって感じが……」
「ゲームでもやろっか」
わざわざ改まってやろうというまでもなく、普段からそればっかりやってるけど。
「でもね、私ね……」
「あん?」
「実はお母さん、再婚するみたいなの」
「へえ」と答えたものの、話がわからない。「再婚って誰と? おめでとうって言っていいこと?」
「あのね、そう、お母さんが再婚するのは、私のお父さんとなの」
「つまり……」
「よりを戻すってことらしいの」
「ああ……それは良かったね、おめでとう」
しかし、本人は嬉しいとばかりとも言えない様子だ。まあ、確かに、状況が変化することに良いとばかりは思えないかもしれない。なんで離婚したのかっていう理由を聞いたことあったかな、問題が解決したんだろうか。
「わかんない。そもそも何が問題だったのか……単純に仲が悪かった? でも私のためにって反省して再婚することにしたんだって」
「そんなの自分勝手じゃない? だったら最初から、離婚なんかしなきゃいいのに、もう元に戻らないことだってあるし」
「お父さんとお母さんの悪口言わないで! あ……ごめんなさい、大声出しちゃって」
確かに、その声はオレの胸にぶるぶる響いた。そんな叫ばなくたっていいじゃんかよ。
「私、喜んでるんだよ。また一緒に暮らせるの。そうしたら、こうやって……ユキくんに迷惑かけることもなくなるし」
「それは別に気にしないでいいけど……」
さっきも思ったけど、オレにとっても癒やしになっているような気がするし。なんてことは照れくさいので伝えてないけど。
「ただいいことにばかりなるとは限らないんじゃないかなとは思った」
「なんでそんなこというの……」
「なんでだろう。最近、オレ嫌なことばかりあったから……身構えちゃってるのかな」
「それを言わなくてもいい相手に言うのって子供だね」
「ごめんて……」
言われるほど子供かとは思ったが、もういいやと水を差すのはやめることにする。
「ふふっ、許してあげる」
大人びた表情でフリスタは笑った。でもしがみついたままだったので、よしよしと頭を撫でてあげたら気持ちよさそうに目を細めた。結局夕食まで食べて帰った。びっくりしたけどオレの両親ともずいぶん仲良くなってたし、再婚の話もすごい祝福されてた。
「よかったね! またいつでも遊びに来てね!」
だってさ。こういう話がそんなに好きなんだなあ大人っていうのは……。
学校の行き帰りがひとりにさせてもらえなくなった。こないだ不良に囲まれた事件があってから、近くの家の女子たちが迎えに来るようになってしまった。これじゃあまるで犯人を護送するやつだよ、自由もないし……。女子に囲まれたくない。オレも女の子になっちゃう。まあ女の子って見た目ですらないけど。
そういう不満に新木が答える。
「女子に混ざるのが嫌だったら、逆に考えればいいんじゃない? 女子をはべらせてるんだ、って。アイドルみたいに」
「あっ、それいいね、私たちみんなユキくんの彼女だ」と他の子もはやしたてる。
「バカ、やだよそんなの!」
「照れてるー、真っ赤になってるよ」
かわいいと言われて追い詰められる。どうも勝てそうにない。まあ、勝てないならオレは女子になってはいないとも言えるのかな。
正直、良い案とは思えなかったが、なし崩しで採用されてみんなオレの彼女になってしまった。オレは採用してないけどな!
教室につくと注目を受ける。まあもはや『氷室雪軍団』となってるから嫌でも目立つ。女子はみんな仲が良いみたいで非常に騒がしい。たぶん空港よりうるさいと思う。しかもなんて言うか……オレの護衛のためという大義名分を得ているから、先生すら注意できない。たまたま来ていた火野さんが一番静かになってる。
火野さんについては、そもそもあの時の発端ってことを誰にも知られてない。通りすがりの不良しか登場人物はいないことになっている。もちろんそれでいい。どういう思いがあるのか、すごくこっちを見てるが、オレが一人にならないからか話しかけてこない。寄ってこられるのは嫌だから、それが護送されて良かったことだったかもしれない。しかし机に手紙が入っていた。手紙というほどのもんじゃない、メモ帳の破ったページに書いてあるだけだ。
『連絡先教えて』
絶対に嫌だ! 火野さんの方を見るとこっちを睨むように見ているから焦って目をそらした。どうにかして諦めてもらうわけにはいかないだろうか。なるべく角が立たないように!
「様子がおかしいけどどうしたの?」……と隣の山下くんが聞いてくるから、「話を聞いても何事もないふりをして」と返した。
「火野さんがこっちを見てくるんだけど、連絡先を知りたいらしいんだ。でも、教えたくないんだよ」
「ええっ、結構かわいいのに。他にいないタイプだし。まあお前には関係ないか……」
「火野さんだけならまだしも、お友達がちょっと……」
話していて、こんなことならいっそ先生とかに暴露していたらよかったと思った。火野さんはそもそも問題になっていたことすら知らないだろうし、逃げたことを問い詰めてくるかもしれない。今の自分に、他人を思いやっている余裕なんてあるのかっていうと、ない。
けど、まあ火野さんのために歯を食いしばって我慢するわけだ。
それで誰が褒めてくれるんだ?
一人で勝手に我慢してることなんて誰も気づきやしないじゃないか。火野さん本人以外は。でもそれも怪しいなあ……問題になったことそのものを知らないし……。若干どころじゃないバカバカしさを感じる。
火野と話そう。敵対しても構わない。山下くんにお願いして、紙切れを渡してもらった。次の休憩時間に、あそこの教室の裏で、って書いて。
その時間になって行って待っていればすぐに火野が現れた。というかオレのすぐ後ろについてきてた。
「教室で話せばいいんじゃないの?」
彼女はのんきなことでわざわざ呼ばれたことを不思議そうにしている。
「こないだのことなんだけど」
「なんだっけ?」
「こないだ、学校をサボって手を引かれて、オレが囲まれた時のことだよ、火野さんの先輩たちに」
「ああ! そのことで私も話があって」
「連絡先なら教えないよ。知っても教えないでね」
「どうしてよ、実は先輩から知りたいって言われてて、どうしても聞きたいんだけど」
差し迫った危機にあの時の恐ろしさが蘇ってくる。あんな人に関わられたくない。
「絶対に教えないで。何か来てもブロックするから」
「そこまで嫌うことある?」
「なんでそれがわかんないんだよ、怖いから、特にああいう男の人は」
「先輩は女だよ?」
「えっ、そうなの?」
「ユキくんって他人の男と女の区別もできないんだ」
悪意はないんだか知らねーけど、ずいぶんからかい煽ってきてイラッとする。
「むかっ、だって何人もいたじゃんか。絡んできた人が。それにもしかして、オレのことサークラとか言ってた人?」
「ああそうそう、その人。すごいおしゃれだったでしょ?」
「余裕なくて見てないよ。なんでそんなこと言ってたくせに連絡先なんか知りたがるんだよ」
「男を近づけさせたくなかったからってわざと言ったみたい」
「勘弁して……」
迷惑すぎる。ありとあらゆる行為が迷惑で吐きそう。いったいぜんたい、この身体になってから良かったことってあるのか?
「でも悪いけど、男女に関係なく教えないし、連絡来たって返事もしないつもりだから」
それを聞いた火野は怒るかと思ったが、別にそれならそれでという感じであっさり引いた。
「じゃあ、ダメだったって言っとくわ。先輩にお願いはされたけど、私としては先輩に女を近づけさせたくないし」
「あ、そうなんだ……」
それでいいならこちらも何も問題ない。若干気になる話がないではないが、深入りするのはよしておこうと思った。
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