第16話 暗黒黒炎竜さんは初夏の夜を過ごす。
地底湖が、揺らめく光を反射して燦燦と輝いていた。
いつもは一定の波長をもつ魔石灯に照らされている逢瀬の間だけど、今日は魔石灯の代わりに幾本もの蝋燭が焚かれていて、薄暗い鍾乳洞を風に揺られながら幽玄に照らしている。
俺たちホワイトナイトもユニコーンの乙女たち、それにコリンズ指導官も、装いを儀礼上の物に代えて、いつもと異彩を放つ風体をしていた。
今日は長いイベントはない。
ただ一週間の夏季野外訓練を共に過ごす、ユニコーンの乙女を指名する日だ。
「一番、レーヴァ」
正装姿のコリンズ指導官が、俺の名を呼ぶ。
揺れる蝋燭に照らされて、幾人もの乙女が瞳を潤ませながら俺を見る。
期待の目で見つめられて、焦らすようにもったいぶってあっちにいったりこっちにいったりしたいけど、ネーヴェやコリンズ指導官から真面目に怒られそうだから、俺は意中の乙女に一直線にむかった。
「我が……君?」
俺が彼女の手をとって口づけすると、メランダさんは意外だった様子で、困惑していた。
コリンズ指導官が声を張る。
「メランダで相違ないか、レーヴァ」
「俺はメランダさんをユニコーンの乙女に指名します」
「わかった。二人とも、下がれ」
俺はメランダさんの手を取って、隅の方に控えた。
いつもは凛々しいメランダさんが困惑した様子で、今は微笑みを浮かべる余裕もなくてちらちらと俺を見ているようだった。
手のひらをぎゅっと握ると、ほどよい力で握り返してくる。
「2番、ネーヴェ」
すらりとした手足でネーヴェさんは進むと、レリーシャちゃんの前で屈みこみ、その手をとってキスをする。
ネーヴェさんは今日は髪をポニーテールにしていて、恰好いい。
「レリーシャさん、よろしくね」
「は……はい」
「ネーヴェ、レリーシャ、下がれ」
コリンズ指導官の声で、俺の隣にレリーシャちゃんとネーヴェさんが並んだ。
数日前。
「ネーヴェがレリーシャちゃんを指名する?」
「うん、そうしようかなって」
エルムドじいさんの食堂で一緒に昼食をとりながら、ネーヴェが言ってきた。
「レリーシャちゃんは基本自由時間は俺の方にいて、ネーヴェの方に行かなかったでしょ? ネーヴェの方に並んだ娘たちから
「そうかもしれないけど……。たぶん逆なのよねぇ」
「逆?」
女心のわからない俺は、ネーヴェさんにたずねることにした。
「私の方に並んだ娘を一人選んでもいいけど、これといってまだどの娘にするか決まっていないの。だから一人の娘に決めて……ってやって一週間過ごすと、情が移っちゃうし、選ばなかった時にお互い気まずくなるでしょ? だからレリーシャちゃんを選ぼうと思うの。人気ナンバーワンの娘だし、レーヴァがメランダさんに頼まれたんでしょう? それを言い訳にね」
「ああ、うん」
俺はメランダさんの言葉を思い出す。
──レリーシャは……感じやすい娘です。粗雑に扱われるようでは心が持ちません。レーヴァ様に選んで守ってあげて欲しいのです。でないと──
でないと、何か。
たぶん──自分を自分で傷つけてしまうと、メランダさんは言おうとしたのだろう。
レリーシャちゃんが世の中を儚んで、自決を図ってしまうとメランダさんは危惧したのだ。
その理由はおそらく、もうこの世にいないオルタリオ君の存在なのだろう。
ネーヴェと俺に選ばれなかったら、必然的にレリーシャちゃんはオルタリオ君に選ばれることになる。
遡って話を聞くと、かつて窓もない狭い部屋で20
そこであの類人猿野郎が、レリーシャちゃんをどんな風に辱め追い詰めたか、レリーシャちゃんのためにも想像しない方がいいだろう。
まあ、もうオルタリオ君は『何者か』に拉致殺害されていないけど、レリーシャちゃんのメンタルケアは必要だった。
正直がさつで女心のわからない俺より、ネーヴェさんの方がメンタルケア役としては100倍いいよね。
じゃあ俺が誰を指名するかということになると──。
悩んだけど、やっぱりメランダさんに俺は惹かれてしまう。
伴侶というか、仕事上のパートナーというか。
俺だけはメランダさんの凄さを分かっているんだぞ。見る目の曇った男どもめ。
っていう感じでレリーシャちゃん以外だと、メランダさん以外を指名する気にはなれなかった。
懸念としては一位の俺の手つきとなって、他のホワイトナイト候補生の視界からメランダさんが消えてしまい、俺が他の娘に目移りした場合にメランダさんが可哀そうな立場に立たされることだけど……。
まあ、そこまで考えていたらきりがないというか。
他生徒がメランダさんを選んだことを揶揄してきた時は。
「レーヴァ、やっぱりお前、背の高い女が好みなの?」
「ほんっとぅ、お前ら見る目がないなー! メランダさんの聡明さと利発さに気づかないのか! 性格も気立てが良くて声はかっこいいし、メランダさんの良さがわからない奴は男として見る目が曇っているよ!」
メランダさん下げをする奴には全員、俺の嫁自慢をしておいた。
こうして夏休みを迎え。
夏季キャンプ訓練がはじまった。
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