山の中、帰る時に

「さあ、こっちに座って、火にあたるといい」

薄目で見る。そこには少年が居た。こんな所に何故男の子がいるんだ。

迷ったのか?そんな訳はない、つまり・・・

乙さんは目の前の焚火を見ている

「おじさんはなにしているの?」

少年が聞く

「焚火の様子を見ている」

「・・・そう」

あの男の子は明らかに異常なものだ。それなのに乙さんは平然としている

肝が据わっている。とかではない、

ただ隣に居るその子を、単なる子供として相手をしている

「僕ね、おとうさんとおかあさんとはぐれちゃった」

「そうかい、ならおじさんと一緒に居よう。一人で居ると危ないからね」

認識が唐突に覆る。男の子ははぐれたと言った。

そうなのだとしたらこの子は異常な存在では無い。

しかし、こんな山奥のそれに今は深夜だ。そんな時分男の子が一人で居る

何が正しいのか分からなくなる

「そうだ、飴ちゃんをあげよう」

そう言って、乙さんはポケットからカンロ飴を取り出し、男の子に差し出した

男の子はそれを無言で手に取ると、飴を口に運んだ

「砂糖を煮詰めたようなもので甘いだけでおいしくはないかもしれないけど

生憎これしかないんだ。フルーツ味のものがあればよかったんだが」

「ううん、これおいしいよ」

「そうかい、なら良かった」

二人は無言のまま。焚火を見ている。その間、何度も乙さんは薪をくべて居た

そして、男の子はコロコロと飴を舐め終えると、目を擦り始めた。

お眠の時間らしい。そして乙さんに寄り添うと目を閉じ、静かに胸を動かした

乙さんは傍目で男の子をちらりと見て、そして何事もないように焚火を薪をくべる。

ふと、強烈な睡魔が来た。油断か、安心感によって

俺はそれに抗う事なく目を閉じた

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「おっ?起きたか」

俺は目を覚ますと同時に辺りを見渡した。そこには焚火とさっきまで見ていた焚火の前に座る乙さんしかいない

「・・・乙さんは眠ったんですか」

「まぁ、ぼちぼちだ」

的を得ているようで得ていない適当な返答だった。

「あのう、乙さん」

「何だ?」

俺は寝ていた体を最大限に繕う

「・・・昨夜、俺以外誰か居ましたか」

「居たよ、っていうか来たな」

「まぁ、騒がないだけ、及第点だな」

どうやら、俺が起きていた事は承知の上らしい

「・・・男の子、男の子が此処にいましたよね、彼は一体何処へ」

「何処へも何も此処に居るよ」

「えっ?」

俺は平然と答えた乙さんの隣を見る。そこには何もない

「連れて帰るって約束したからな、今は俺にとり憑いているじゃないかな」

「・・・憑りつくって、えっ?」

乙さんはパンパンとズボンを叩き立った

「まぁ、人一人増えた所で、どうって事はないよ」

そして、焚火の後をガシガシと足で薙ぎった。

「・・・さあ、帰るとしよう、俺の目測じゃ、今日の夕方ぐらいには人が居る所に出られるだろうな」

乙さんは歩き出す。俺は澱んだ思考のまま、へいへいの体で乙さんの後に続く

背中に怖気を感じながら・・・

「・・・その、あの・・・平気なんですか」

乙さんとの距離はいつもより遠い、近づきたくなかったと言えば、その通りだ

何か憑りつかれたと自分から言った。そんなおぞましい状況、自然に足は遠のく

しかし、その人物はさも、それが日常のように答える

「・・・あぁ、荷物が増えた訳ではない、それに帰ったら、先ずは葬式だな。

いや、待てよ、一体誰の家で葬式をすればいい、特定するには先に市役所か、しかしな、住民票、いや、それ以前に名前すらしらんぞ」

「困ったな」

頭を片手でかく

ずれている、全てがずれている。首を傾げるそんな人物におかしいでしょうと

言いたかった。でも

言えない、なんせ他人だ、所詮俺ではないのだからどうでもいい事

「手伝いますよ」

それが手一杯、俺が差し出せる限度だった

「・・・まぁ、手伝うの何もないと思うが、まぁそれもいいか」

そう言って乙さんは頭を掻いてた手を止めた

「今はそれより、帰る事が先決だな」

そう言って、彼は先に行く

俺はその後に着いていく

いつもの関係だ

「・・・帰りになに食う?」

「ラーメンがいいです」

「ラーメンか、あるといいな」

「はい、なければ、何でもいいです」

「ふ~ん」

やはりと再認識する。この人は俺とは異なる存在だ

しかし、違う故に、憧れてしまう

今も男の子はそこにいるのだろう、でも

それを当然のように受け入れて歩いている不思議な、その人

今もこの時、飯の心配をする、その人

俺はそんな人の後に続く

あぁ、やっぱりおかしいな

その言葉が思い浮かんだ

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