第68章 決着

 百里景砂は冷たくなった菱珪玉を横たわらせ、全身にありったけの力を込めた。ほどなくしてその力は鋭利な刀となり、菱藍雲の体を貫通させたのだ!

 その瞬間、上官双晶は細い息だけを吐きだす菱藍雲を抱え、引き連れていた護衛に縄で縛らせた。

 それとほぼ同時に百里景砂の体が菱珪玉の上に倒れ込む。この時の彼女にはただ自らの意識が遠のいていくことだけしか感じられなかった。

(ああ、私はもう死んでいくしかないんだな。ということは、安寧の世を迎えるために存在していた私の力はもう不要になったのか)

 百里景砂は残された気力を振り絞って菱珪玉の手の上に自らのそれを重ねた。

(珪玉。もし来世があれば、今度は私からあなたを探しに行きます。今生ではあなたの代わりに我が一生を全うすることはできないようですが、あなたと共に眠りにつくことくらいはできそうです)


 上官双晶が菱藍雲を直ちに百里家へ連行させろ、と指示を出してからふと振り返ると、百里景砂が菱珪玉の上に覆いかぶさったままぴくりとも動かなくなっていることにようやく気付いた。

「景砂殿? 大丈夫ですか?」

 と、言いながら上官双晶が百里景砂に手を当てた瞬間に、彼はその手を離した。

 百里景砂の体がまるで氷のように冷たくなっていたのだ!

 上官双晶が動けなくなっていると、息を切らした様子の百里楓祥が現れた。

「上官当主! 大丈夫ですか、どうしました」

 と、百里楓祥は傾きかけていた上官双晶の体を支えながら言った。

「百里世子。あなたの妹君がどうやら息を引き取られたようだ」

「ああ。そうだったのですね。ということは、あの言い伝えを景砂は全うしたということだ。上官当主、景砂の戦いぶりはいかがでしたか」

「とてもよかったです。ですが百里世子。あなたはどうしてそれほどまでに妹君の殉死にそこまで穏やかでいられるのですか」

「言い伝えですよ。私と景砂は共に言い伝えの存在を聞いて育ちました。私は百里家の次期当主となる予定ですし、景砂は言い伝えを実行する役目を担っている、ということで。ですから、私たちは幼少のころからいつか迎えることになるこの日のことを覚悟できていました。ですからたとえ妹の死が辛くとも、それを受け入れることはできます」

 百里楓祥は平然を装いながら言っていたが上官双晶の耳には、彼が懸命に涙をのみ込んでいる声しか聞こえなかった。

 

 上官双晶と百里楓祥は戦いの地を離れると、そのままそれぞれがいるべきところへと戻って行った。

 その三日後、雲渓大陸には何事も起こらなかったため、百里玄武は菱家の蜂起が失敗に終わったことを菱藍雲の処刑と共についに宣布した。だが、菱珪玉に関しては上官双晶の便りから事の次第を知っていたため、菱家の特別宗主とした後百里景砂と共に辰砂領と錘輝境の境に埋葬された。

 だが実は百里玄武の意向としては、百里景砂と菱珪玉を共に埋葬したくはなかったのだが、どれほど二人を引きはがそうとしてもそれができなかったのだ。

 しかし二人が埋葬されると、埋葬地の近くに住んでいた民の一部は彼らの一生を物語として伝承し始めたのだった。


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紅蓮の約束を追いかけて 廃人仙女 @nemurinosennyo

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